山の奥深く
修道
「やっと着いたか…」
ここは高尾山の奥深く。
霊気が濃く立ち込める神聖な森を進む御神家の3兄妹。
修道に案内されながら歩くうちに、
周囲の気配が徐々に変わっていくのを感じていた。
まるで何かに試されているような、張り詰めた空気。
やがて本堂前に到着すると、
修道は森に向かって大声で叫んだ。
修道
「おーい! 大天狗殿!
お願いしていた修行を始めたい! 出てきてくれ!」
突然の呼びかけに驚いた竜之介が、慌てて問いかける。
竜之介
「ちょっと待って、修道叔父さん!
大天狗って妖怪じゃないか?
これから戦おうって相手じゃ…!」
修道
「ははは! 驚くよな。ごめんごめん!
大天狗殿は確かに妖怪だ。
実はな、全ての界層には善と悪があるんだ。
妖怪の中でも悪妖怪は妖怪四天王のように悪の限りを尽くすが、逆の善妖怪も存在する。
善妖怪は昔から人間界に協力的で、
深く関わってきたんだよ。
特に大天狗殿は、人間界を気にかけ、
何度も助けてくれた恩人だ。
私は修行と共に、そうした味方を増やすためにも、
旅をしていたんだ。」
話をしていると、突如強風が吹き荒れ、
霧の中から二つの影が現れた。
一人は長い鼻を持ち、威厳に満ちた赤天狗——通称「大天狗」。
もう一人は俊敏な雰囲気を纏った若き天狗——青天狗だった。
大天狗
「久しいな、修道。
こやつらが修行を望む者か?」
修道
「ああ! この3兄妹、
竜之介、千姫、晃平は確かな霊力と才能を持っている。」
千姫
「……! 天狗の長?」
千姫が一歩前に出ると、大天狗は頷いた。
大天狗
「ふむ。我は霊気満山の守護者、大天狗。
古来よりこの山と人間界を見守ってきた者じゃ。
そしてこちらは、我が弟子であり補佐を務める青天狗。」
青天狗は軽やかに前へ出ると、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
青天狗
「よう! 俺は青天狗。
お前たちの修行の手伝いをするぜ。
ま、人間がどこまでついてこれるか見ものだな。」
晃平
「あなた達が修行を…?」
晃平が聞き返すと、大天狗が厳しい眼差しを向けた。
大天狗
「そうじゃ。
お前たちは人間界の守護の力を得た。
しかし、まだ力を得ただけで未熟。
その力を扱いこなせねば、
いずれ悪の妖怪どもに飲み込まれるだろう。
やつらは果てしなく強い…
本格的に動き出す前に、
お前たちはさらに鍛えねばならぬ。」
大天狗たちの言葉に、3兄妹は改めて覚悟を決める。
大天狗
「早速じゃが、霊力を極めるには、
心・技・体のすべてを鍛えねばならない。
そこで、それぞれに試練を与える。覚悟はいいな?」
3兄妹は迷わず頷いた。
大天狗
「ではまず——竜之介、お前の試練じゃ!」
岩行 〜天狗岩〜
霊気満山(現在の高尾山)の奥、
険しい岩場に鎮座する天狗岩。
かつて修験者や武士たちも
霊的な力を高めるために訪れた場所であり、
天狗たちにとっても聖域である。
大天狗は腕を組み、巨大な岩を指差した。
大天狗
「この天狗岩を断ち割ることが、お前の試練だ。」
竜之介
「ええ? 岩を…? そんなの無理だろ!」
大天狗
「普通の人間ならばな!
しかもこの岩はただの石ではない。
霊力を持たぬ者には決して砕けぬ。
そして、ただ力任せに振るうだけではびくともしない。」
竜之介
「くそっ!!やってやる!」
竜之介は信玄の霊を憑依させ岩に向かい剣を構る、
試しに霊力を込めて一撃を放つ。
「ガギンッ!!」
しかし、岩には浅い傷がついただけだった。
何度も斬りつけるが、
霊力が消耗するばかりで成果は出ない。
竜之介
「はあ…はあ…はあ…」
大天狗
「闇雲に剣の力だけに頼るな。
大地を感じ、その力をお前自身の一部とするのじゃ!」
竜之介は剣を収め、目を閉じる。
周囲の空気を感じ、足元の大地の鼓動を探る。
次の瞬間——
竜之介
「えええい!」
鋭い一振りが空気を切る。
振り抜いた剣が、岩に食い込んだ。
大天狗
「ふむ…なかなかの才覚。
これでお前も、はじめの一歩に立てたな。」
滝行 〜霊水の試練〜
次なる試練は、巨大な滝での修行だった。
激しく落ちる水が霊気を帯び、竜之介の体を叩きつける。
大天狗
「この霊水の滝に打たれることで、己を深く見つめ、五感を研ぎ澄ますのだ。」
竜之介は滝壺に立つが、冷気が全身を襲う。
まともに立つことさえ難しい。
(これが…修行…なのか…?)
その時、武田信玄の声が響いた。
信玄
「心を静めよ、竜之介。
滝に抗うな。滝と一つになれ。」
竜之介は目を閉じる。
滝を”敵”ではなく、”大地の力”として受け入れる。
——その瞬間、霊水が彼を包み込んだ。
大天狗が驚くほどの速さで、竜之介は滝と一体化する感覚を掴んだのだった。
大天狗
「ほう…早い! もう掴んだか。
よし!この修行を岩が切れるまで続けるのじゃ。
岩が切れた時、お前に強大な霊力と技が身につくであろう。」
竜之介は確かな手応えを感じ、力強く頷いた。
竜之介は天狗たちの試練を乗り越え、
真の力を手に入れることができるのか——
まだ、第一歩を踏み出したばかりだった。
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