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ぬらりひょん・ないこと、雪女・初兎が肩を並べて座る、冬の山奥。宴のざわめきが遠ざかり、空には満ちかけの月。
ふと、ないこが立ち上がった。
「少し歩かねぇか? 雪、積もってきたし。」
「……うん。」
並んで歩くのは、たった数歩なのに、初兎の鼓動はやけに騒がしかった。
手が、触れそうで触れない距離。
そんな隙間が、もどかしくてしかたない。
ないこが不意に、初兎の袖をつまんだ。
「お前の手……冷えてるな。」
「……雪女だからね。昔から、誰に触れても冷たいって言われてきた。」
「それで?」
「……だから、あんまり人に近づけないんだ。」
そう言って目を伏せる初兎の表情に、ないこは静かに笑った。
「じゃあ、俺が慣れればいいだけだな。」
「……え?」
次の瞬間。
ないこの手が、そっと初兎の指先に触れた。
ひんやりとした感触。
けれど、ないこの手はそれを避けなかった。
「冷たい。でも……悪くない。」
「……うそ。」
「本当。むしろ落ち着く。お前の冷たさ、俺は好きだ。」
初兎の頬が、わずかに赤く染まった。
それは寒さのせいじゃない。
ないこは、そのまま手を絡めるでもなく、
ただ、初兎の手を包むように温め続けた。
「初兎。」
「……なに?」
「もしさ、俺がもっとちゃんとした“告白”とかしたら、迷惑?」
初兎は、一瞬だけ言葉を詰まらせた。
けれど――
「……ちょっとびっくりするかもしれないけど、迷惑じゃない。」
「……そっか。なら、もう少しだけ一緒にいて。」
「……うん。」
雪が静かに降り続ける夜。
二人の手のぬくもりが、氷のような沈黙を溶かしていった。
まだ告白には届かない。
でも、「好き」に近づいた夜だった。