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市民ホールの一角に設けられた臨時実験コーナー。普段の研究室とは打って変わり、机の上には色とりどりの試薬やビーカー、フラスコが並んでいる。壁には簡単な化学反応の図やポスターが貼られ、子どもたちの歓声が空間を満たしていた。
「さあ、みんな注目! 今日の実験は色が変わる魔法の水だよ!」
ツナっちは大きな声を張り上げ、手元のビーカーを揺らす。普段の研究室では淡々と進める実験も、この場所では何倍も楽しげに感じられた。視線を送ると、子どもたちの目が好奇心で輝いているのがわかる。
「せんせー、この水って飲んだらどんな味になるの?」
突然の質問に、くられは一瞬口元を引きつらせる。普段なら「危険だから絶対に飲まないで」とすぐ答える質問だが、子どもたちの前では言い回しも考えなければならない。
「うーん、危険だからおすすめはしないなぁ。ぼくは……飲んだことあるけど」
その言葉にツナっちは目を大きく見開く。思わず声を上げ、手元のビーカーを軽く押さえる。
「えっ! これ、飲んだことあるんですか!?」
慌てて言うツナっちの慌ただしい動きに、くられは一瞬だけ目を細めて苦笑した。
そのとき、子どもたちの一人が手を上げて叫ぶ。
「ぼくも味見してみたーい!」
ツナっちは顔が赤くなり、思わずビーカーをぎゅっと抱きかかえる。くられは笑顔で手を振り、落ち着いた声で答える。
「だから、飲んじゃダメだってば。味見は……魔法の水の観察で我慢してね」
子どもたちに囲まれ、くられが手元のビーカーを持ちながら説明する姿を見て、ツナっちは胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。普段は冷静で動じない人が、子どもたちに合わせて少し慌てたり、笑顔で応じたりするそのギャップが――可愛くて仕方がなかった。
指先でビーカーをそっと持つ仕草や、目を細めて子どもたちの反応を確認するその表情、声のトーンがいつもより少し高めで楽しげなこと――全部が、ツナっちの胸をぎゅっと締めつける。
「……先生、やっぱり可愛いな……」
心の奥で小さく呟く。言葉には出さないけれど、視線だけでその気持ちが伝わるような――そんな感覚だった。
子どもたちの歓声、色とりどりの液体、そして先生の少しだけ慌てた笑顔。全てが、この特別な一瞬を形作っている。ツナっちはビーカーを手元に戻しながら、まだ残る温かさを胸にそっと抱きしめた。
普段の研究室で見る姿も素敵だけれど、こうして柔らかく、少しだけ慌てた表情を見せる先生のことを、ツナっちは改めて可愛いと思った。