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1.勝利のタバコ
「あ”ー…やっと仕事終わった」
「なかなかやったな、あの悪魔」
「私1人で倒せねぇこともなかったけど」
任務の帰り道。3人はいつものように、沈んでいく太陽を背にゆっくりと歩んでいた。院瀬見の物言いにリヅは少々ムッとするも、いつも通りのことだからと割り切ってスルーした。
「服汚れた…」
「しゃーない…帰ったら僕が洗濯しとくわ」
そういえばコイツら同棲してんだったと思い出す院瀬見を尻目に、リヅはイサナのケープについた特に目立つ汚れをペッペッと手で払った。
ふと、後ろからカチッと小さな音がして、それに気づいたリヅはなんの気なしに振り返った。
目に入ったのは、タバコに火をつけ、それを口に咥えて上下させている院瀬見の姿だった。
「!?!?」
「あ?なんだよリヅ」
「海!?コイツタバコ吸っとる!!」
「…見ればわかる」
イサナは俯いたままちらりと院瀬見を見る。
「そういうことちゃう!院瀬見先輩タバコ吸わへんって言うとったんや!!」
「あれ、私そんなこと言ったっけ」
相変わらずである。院瀬見はいい加減自分の発言に責任を持った方が良い。
「任務後にだけ吸ってる。早川とは違って。噎せるからな」
「噎せるなら吸わなきゃええんちゃいますか…」
リヅは呆れた。その呆れたリヅの横からイサナが顔を出す。
「早川さん…タバコ吸うんだね…」
「アイツ任務中にも限らず吸ってっからかなりモラルねぇぞ。そーいや姫野も任務中に吸ってたけど」
「ひめの…?」
「死んだ院瀬見先輩の同期やって」
イサナが首を傾げ、リヅが横からフォローをした。
「タバコっつーのは1回やったら抜け出せなくなるから吸わねぇ方がいいぜ」
「僕と海は吸うタイプちゃうから」
3人は本部へと入っていった。
2.変なヤツ
「さーて、夜は誰かと飲み行こうかなー!」
院瀬見が両手を上にあげ、高々と宣言したその時。
ドン!
「っうわ」
誰かと肩がぶつかって、院瀬見が転びかけた。咄嗟に後ろに出した脚で支えたためよろけるだけで済んだものの、リヅが慌てて手を伸ばす。
「すんません。大丈夫ですか?」
ぶつかった相手に向かい、リヅが代わりに謝って上を見上げる。
が。
「前見て歩けよクソ害虫が」
「えっ…?」
予想だにしなかった暴言を吐かれ、リヅの目が点になる。イサナもそれを見ているが、何もせずただ突っ立っている。
3人の目の前にいるのは、紅い瞳をした黒髪外ハネショートの女だった。 歳はだいたい院瀬見と同い歳か、またはそれより上か……そして院瀬見と同じく目つきが鋭い。
「さっさと退け。こっちの大事な時間をテメェらが使うんじゃねぇ」
「あ”ん?んだよテメェ」
女のキツい言い方にキレた院瀬見は、流れに合わせて乗ってしまった。
「3人もいるのに気づかずにぶつかったテメェに責任があるんじゃねぇのか?ご丁寧に右目だけ前髪で隠しやがってこの厨二病野郎が」
負けじと言い返す院瀬見。女はピクリともしない。
「テメェだって眼帯してんじゃねぇかこの厨二病もどき。ホントに4課はロクな奴がいねぇ」
「…私のこれはカッコつけじゃねぇよ…」
地雷を踏まれたらしい。院瀬見が突然低く唸り、空気が重くなる。
「へぇそうかよ。クソどうでもいいわ」
だが、女は尚も冷静である。続けざまに口を開く。
「まず謝れよテメェはよ。グチグチグチグチ言ってる暇があんならさっさと失せろ」
「ッ誰が謝るk」「すんませんでした!!」
怒りの沸点に達した院瀬見が女に掴みかかろうとしたその瞬間、リヅがもの凄い勢いでお辞儀をし、院瀬見の背中を無理やり押して女の元から去った。
3.正体
「何してんだよリヅ!!アイツのこと一発ぶん殴らねぇと気が済まねぇだろ!!」
「あーいうじゃんくさい人はとりあえず距離を置くのが大事なんや!思ってなくともまず謝る!キリないやろあんなん!」
無口とヤンキーと関西人(悪魔)の組み合わせだと、どうしてもリヅが一番の常識人になってしまう。もはや母親。悪魔だけれど。
「ッオイ早川ァ!!」
4課が集合する部屋の扉を、院瀬見が思いっきりバァン!!と開けた。周りの皆はもちろん静止。
「扉を壊すな」
「アイツ誰だよ!!」
「誰のことだよ」
院瀬見の同い年後輩─早川アキは呆れ顔。そりゃそうだ。
「さっき悪魔みてぇな目した黒髪外ハネショート厨二病女が絡んできやがったんだよ!4課がとかどーのこーの言ってたから4課以外の人間なんだろ!?アイツ誰だよ!!」
早川が少し考え込む。院瀬見の後ろに控えたイサナが、天使の悪魔に小さく頭を下げた。
「…星野先輩のことか?」
4.お互い厨二病
「星野ォ?」
「あの人は4課じゃない。2課の人間だ。たまに任務で会うくらいだから詳しくは知らないけど、お前よりも上だったはずだぜ」
「はぁ…?あんなヤツのこと先輩とか呼ばなくちゃなんねーのかよ…」
院瀬見は苛立たしげに呟いた。
その、同じ頃。
「…これ…」
オフィスに戻る前のエレベーター。その前に黒いハンカチが落ちていたことに星野が気づいた。
(…人間のじゃねぇな)
星野には分かる。なんとなくそんな感じがするだけだが。恐らくは先程の眼帯厨二病女と一緒にいた悪魔のどちらかのもの…。
「? 海、どうした?」
「…ハンカチがない…」
イサナがポケットに手を突っ込む。ない。ハンカチがない。
「さっき落としたんとちゃうか?探してくるか…」
2人はオフィスを出る。
「あ、あった」
ハンカチ捜索開始から5秒。捜索終了。
イサナがハンカチを手に取る。重い。
「…?」
手に取ったハンカチは、錆びた釘が1本、ド真ん中に刺さっていた。
「わぁ…」
悪魔であるリヅ、イサナもすぐに分かった。
これは、先程の紅い目の女の仕業だと─。