「一緒に暮らすのいいと思うよ、こんな時期じゃなきゃできないし」
心の奥底に本当の気持ちを隠して何でもない風を装った。
「マジで、元貴までそんなこというのかよ···藤澤、も、無理だよな?!一緒に暮らすなんて!」
はぁぁ、と頭を抱える若井は、なぁ?と涼ちゃんに同意を求める。
「···元貴がいいっていうなら、僕はいいよ。」
涼ちゃんの答えに若井はマジかよおぉ!とのたうち回る。
俺はというと、もう、涼ちゃんの顔をみることが出来ないでいた。
俺がいいって言えばなんでも受け入れるの?嫌だといったらやめるの?
自分勝手だとはわかってても、気持ちが追いつかなかった。
これから発言するのは、あくまでバンドのボーカルとして、成功させると約束した俺として、そんな自分になりきって、だから、大森元貴なんて捨てておかなければ。
「ダンスにトレーニング、他にも2人にしてもらいたいこと、たくさんあるから。それに仲間としても認め合ってほしい。だから一緒に暮らして、休止期間を実のあるものにしよう。
俺は楽曲をとにかく作るし、これからの道を絶対成功させるように全力をつくすよ」
そう言い切ると少ししてから、若井は仕方ない、と呟き涼ちゃんに手を差し出した。
「ご飯も掃除もちゃんと当番な、俺そんな料理得意じゃないけど、文句はお互いなしにしよ···よろしく」
「よろしくね、僕も頑張るから一緒に頑張ろうね!」
涼ちゃんの綺麗な手が伸び、ぎゅっと両手で若井の手を包んだ。
俺以外の人は良かったね、どこに住む?どんな部屋がいいか?などスタッフも一緒になって盛り上がっていた。
「元貴、ありがとね、僕頑張るね」
涼ちゃんがいつもの笑顔で俺を見たけど、そっけなく、あぁ、と目合わせずに呟くだけしかできなかった。
そっけない俺がショックだったのか、ほんの一瞬だけ涼ちゃんの顔が曇った。
けど、俺はフォローもせず、笑顔も見せてあげず、見なかったことにした。
ごめん、ごめんなさい。
本当は俺以外の人と笑い合ったりしないで。
···あなたのことが、好きだから。
あなたの笑顔が好きだから。
言えない言葉ばかりが増えていった。
コメント
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儚いなぁ…