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いよいよお披露目の日となった。

空は雲一つなく晴れ渡り、おめでたい日にぴったりの良い天気だ。


エルネストと私は、国民へのお披露目の場となる王宮の広場に面した部屋で、エルネストと二人、国王陛下と王妃殿下の訪れを待っていた。


「エル、緊張するね」


「そうだな……。でも、こうして着飾って綺麗なレティが見られて嬉しいよ」


「……ありがとう。エルも格好よくて見惚れちゃう」


お披露目の衣装は、聖光神の加護をイメージして純白と淡い黄色を基調とし、レースや真珠をあしらった、とても優美で繊細なデザインだった。


髪の毛も自分ではとてもできない複雑な髪型に結い上げてもらっていて、お姫様にでもなった気分だ。


エルネストは白のロングコートにマントを羽織った騎士服のような衣装に身を包み、物語に出てくる勇者様のようで、輝くような麗しさだ。胸元で光る勲章もよく似合っている。


ちなみにこの勲章は邪神を倒した功績を称えて贈られたもので、その際に「聖なる勇者」の称号も賜った。


最初に会った時は、女装して聖女をしている変な美少年だったのに、今では英雄で勇者で、挙句は王族の一員にまでなっているなんて、行き着くところまで行き着いてしまって、おかしなものだ。


そして私も、ド貧乏な伯爵家の娘にしか過ぎなかったのに、いつの間にやら英雄で勇者で王族のエルネストの婚約者になっているのだから、人生何があるか分からない。


私の立場に相応しいようにということで、王家からオルトン伯爵家にかなりの援助もしていただいて、我が家では相変わらず贅沢はしていないものの、使用人が雇われ、食事が少し豪華になり、今風の衣装が何着か増えたようだ。


実家からは、婚約の祝福と感謝の言葉が綴られた分厚い手紙が届いて、返事を書くのが大変だった。


ちなみに、エルネストの妹のエレーヌさんも王都に呼び寄せてはという話も上がり、エルネストは結構乗り気だったのだが、妹さんご本人が「恋人がいるし、都会暮らしは性に合わない」と固辞したらしい。


そして故郷の田舎に巨大農園を作りたいので、その援助だけしてほしいと頼まれたそうだ。なんとも逞しい。


エルネストはどことなく寂しそうだったけれど、兄がシスコンだからといって、妹までブラコンとは限らないのね。


……そんなことを考えていたら、横の扉からアラン殿下とクロードが入ってきた。


「やあ、エルネストにレティシア、心の準備は整ったかい?」


「アラン殿下、ご機嫌よう」


「あ、あにうえ、来てくれたんですか」


エルネストの兄上呼びはまだぎこちないが、それはそれで良いなと心の中で頷く。


「君たちの晴れ姿を一番近くで見たいからね。そうだ、クロードが正式にレティシアの護衛騎士になったよ。……クロードには酷かとも思ったけど、結局気持ちに気付くことなく終わったみたいだから、まあいいだろう」


アラン殿下が意味深にクロードの肩を叩いたけど、どうしたのだろう。クロードもよく分かっていないようで首を傾げるが、そのまま私の前に来ると、胸に手を当てて跪いた。


「レティシア様の護衛騎士となれて光栄です。命に代えてもお守りいたします」


今まで同僚として接していたクロードから様付けだったり、跪かれたりと、なんだか落ち着かないが、エルネストの婚約者となった以上は仕方ないので、これから慣れるしかない。


「クロード、ありがとう。これからよろしくお願いします」


「クロードが付いてくれたら安心だ。俺からもよろしく頼む」


そうして四人で久々のお喋りを楽しんでいたところで、また扉が開いて、今度は国王陛下と王妃殿下がいらっしゃった。


「エルネスト、レティシア嬢、今日のよき日を迎えられて喜ばしく思う」


「二人とも、とても素敵よ。まさに天が祝福した恋人同士ね」


お二人の温かいお言葉に胸がいっぱいになる。


「さあ、国民も待っているから、お披露目といこうか」


国王陛下と王妃殿下に、肩に手を添えられるようにしてバルコニーへと出て行くと、眼下には何千人もの人々が集まって手や国旗を振ってくれていた。


「我が民よ! この者こそ、聖光神の御加護を賜り、古えの邪神を討ち滅ぼした救国の英雄であり聖なる勇者、そして我が息子、エルネストである」


国王陛下が声を張り上げると、人々から歓声が沸き上がる。中には黄色い声を上げて失神するご令嬢もいて、冷や冷やしてしまった。


「そして、エルネストと運命的な愛で結ばれた、このレティシア・オルトン嬢がエルネストの婚約者である」


運命的な愛だなんて言われると、最初はお給金目当てで近づいたことが思い出されて、少しだけ居た堪れない気持ちになってしまう……。


国民の皆さんも、私なんかが婚約者で戸惑ったりしてないだろうか……。


そんな風にそわそわしていると、思いがけず私にも大きな歓声が上がった。


「レティシアちゃんだ! 奇跡の歌姫だ!」

「あんた、ちゃん付けなんて不敬だよ! レティシア様と呼ばないと!」

「俺、レティシア様の歌声に感動したんだよな〜」

「勇者エルネスト様とお似合いじゃないか!」


そんな声が聞こえてきて、夏至祭の歌姫大会のことを覚えてもらえてたんだと嬉しくなる。


あの時歌ったおかげで、皆さんにこんなにも温かく受け入れてもらえるなんて、本当に賞金をもらう以上の価値があった。


エルネストと私は片手を繋ぎ、もう片方の手を大勢の人たちに向かって笑顔で振る。


一層の歓声が上がる中、エルネストが空に向かって手を広げると、そこから何百もの光の蝶が人々の頭上をヒラヒラと飛び回る。


真っ白な蝶が羽ばたくたびに鱗粉のような粒がキラキラと輝きながら舞い散って、とても美しく、まるで夢の中にいるような光景だ。


観客たちが皆、言葉を失って光の蝶を見上げている中、エルネストがそっと私の耳元で囁いた。


「レティ、大好きだよ」


次の瞬間、彼の柔らかな唇が私の頬に触れる。


みんなが蝶に夢中でこちらを見ていないからといって、こんな大胆なことをするなんて。


……でも、そんなエルネストが本当に愛おしい。


私は繋いだ手にギュッと力を込め、エルネストに笑いかけた。


「私も、エルが大好きよ」

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