雨の音が駅のホームに響く。
朝の天気予報で見た通り天気は雨。
しっかり傘を持ってきていて良かった。
心配性の僕は折りたたみ傘含め2つ常備していた。
濡れずに帰れると思いたいが天気は9月の雨。
台風真っ只中だ。
少し気分が沈みながらも、駅前に一人立つ男性に目を止めた。
「…あれ、傘忘れちゃったのかな、」
男性は少し困った顔で、手に紙袋を抱えている。
何となく声をかけた。
「傘、貸しましょうか、? 」
男性は驚いた顔をして、目を見開く。
『え、いやでもお兄さんの傘が、』
「僕たまたま2本持ってきてるから全然使って…!笑」
『え…ありがとうございます。凄く助かります』
お互い笑顔を交わした。
彼の名前は、まぜ太というらしい。
どこかで聞いたことがあるような…。
少し話を聞いてみると、近くのデザイン会社で働いているようだ。
彼は思ったより話しやすくその場の流れでカフェへ向かうことにした。
僕は席に座るなり、声をかける。
「まぜ太さんがやってるデザインの仕事って、どんなことしてるの?」
『全然呼び捨てでいいのに、笑』
「えぇ、呼び捨てはなんか違うからぁ、まぜちで!」
『なんでもいいけど、笑』
「やったぁ♪」
『まぁ、…主に広告とか、パッケージのデザインだな』
「へぇ、面白そう。けど、複雑な作業多そう、」
『大変だけど、結構やりがいはあるぜ』
だんだんと彼の顔も声も緩んできた。
それだけ大好きな仕事なのだろう。
心がほんのり温まるのを感じた。
「じゃあ今度、まぜちが広告出してるお店見に行きたい!」
思わず口に出していた。
彼は少し照れたように頷いた。
『まぁいいけど、』
「1番自信ある広告のお店連れてってよ! 」
『自信あるとこかぁ…あそこかなぁ、』
数日後、2人は再びカフェで会った。
『俺が1番自信ある店はここ』
「うわぁ、すごいオシャレ、」
『だろ?俺の友達が経営してんだ』
「えぇ、すごぉ、」
感心していると、バイトと見られる店員さんが席へ案内してくれた。
その後、仕事の話や趣味の話。
日常のちょっとしたことまで、笑いながら話す時間がとても心地よかった。
僕はふと気付いた。
(「まぜちの前だと、自然体でいられるな…」)
その時、すぐ気付いた。
これは恋だと。
そしてある日曜の昼下がり、二人は公園を散歩していた。
そんな日でも天気は変わらず雨。
恋は計画的に。
その為、今日は傘は一つだけ持ち彼の隣を歩く。
二人でひとつの傘に入り。
僕は深呼吸して思い切って言った。
「まぜち…僕恋しちゃったみたい。」
『恋?誰に…』
「…今僕の横にいる人。」
彼は周りを見渡す。
『誰も居ないけど…』
「…僕、まぜちが好き。」
彼は、一瞬驚いたように目を見開き、そしてにっこり微笑んだ。
『…俺も同じこと思ってた。』
「じ、じゃあ、付き合ってくれるっ、?」
『Yes以外の選択肢あるか?笑』
胸がドキドキと高鳴る。
僕らの雨の日の偶然の出会いが、こんなにも素敵な時間を運んでくれるなんて、想像もしていなかった。
僕らは手をつなぎ、少し照れながらも歩き続けた。
雨の匂いが、二人の新しい日々の始まりを祝福しているかのように。
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希望あれば第2章出すよん