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ギル君とルーチェさんが3人を連れて戻ってきたのを
確認すると―――
私は昼食の準備に取り掛かった。
ギルドに全員集まったのが多分10時くらい、そして
2時間かけてここへたどり着き……
さらに罠の設置とかで1時間ほど経過している。
タイミング的にはちょうどいいだろう。
昼食の準備と言っても、ただ単に持ってきた物を渡す
だけだが……
若いのだからやはりポテマヨより、肉・魚の方が
いいと判断し、用意してきた。
「みなさん、そろそろ食事にしましょう。
えーと……カート君、バン君と……
リーリエさん」
呼びかけると、彼らはきょとんとした表情で
こちらを見る。
カート君は短髪の、いかにもガキ大将といった
面構えだ。
それとは対照的にバン君は中性的で、髪の長さも
肩まであり、おっとりとした印象を受ける。
リーリエさんは白銀とも言える髪を腰上まで
伸ばし―――
何も聞いていなければ、どこかの令嬢と思えるほどの
容姿、美少女と言っていいだろう。
「あるんですか、食事!?」
「あるに決まっています。
さすがに半日がかりの依頼なので……
あ、ギル君とルーチェさんはパックさんを
呼んで来てください。
何なら、引きずってでも構いません」
こうして2人がまた場所を離れ、その場に残った
3人のうち1人に、ツナマヨもどきサンドと
鳥マヨサンドを、1個ずつ手渡す。
「うおっ!?
こ、これはあの噂の……!?」
「本当に!?」
「どっち食べてもいいんですか!?」
どうも口ぶりからすると、まだ食べた事が
なさそうだ。
確かに、ブロンズクラス程度の稼ぎだとそうそう
食べられる値段じゃ無いだろうしなー……
驚く他の2人にも、同じように2個ずつ渡す。
「えっ?」
「あのー……」
両手に1個ずつ持ち、何か聞きたそうに私に
視線を集中させる。
「その、1個は返すんですよね?」
バン君の問いに私は首を左右に振る。
「1人に付き2個ですよ。
若いんだから、それくらい食べられるでしょう?」
3人がぽかん、としているところへ、パックさんを
連行した2人も戻ってきた。
こちらを見てどうやら事情を察したようで、
ギル君から口を開く。
「あー……
シンさんの依頼はたいていこんなんだから、
慣れておいた方がいいですよ」
「おおー今日も豪華ですね!
じゃ、パックさんも食べましょう!」
そして7人全員揃ったところで―――
みんなで昼食を食べ始めた。
ちなみに自分だけポテマヨもどきサンドに
していたので、それを見たバン君がおずおずと
たずねてくる。
「あのう、シンさんはそれでいいんですか?」
「いやー……
私はもう、肉や魚をバクバク食べられる年では」
普通の肉や魚ならいいのだが、マヨネーズ付きと
なると健康とお腹の脂肪がそれを良しとしない。
それを言うとこのポテマヨもたいがいだが、それは
精神衛生というか気分という事で……
すると、不思議そうにルーチェさんが首を傾げる。
「そうなんですか?
ギルド長なんかいつも食べまくってますけど」
「あの人と一緒にされても……
そういえばパックさん、お目当てのものは
採集出来ましたか?」
声と共に視線を彼の方に向けると、
「もひゃもう!
ぅもっくれふれ……!」
「お、落ち着いてください。
いったん食べ終わってからで」
しばらく食べ物を噛む音が聞こえ、そして
飲み込み―――
次に飲み物を喉に流し込む音が聞こえた後で、
パックさんはふー、と一息付き、
「そうですね。
やはり自分の目で見て採取出来るので、
外れがありません。
いつもこうだといいんですけど、薬草取りの
さらに護衛なんて、依頼料としては足が出て
しまいますから」
護衛イコール人件費だものな……
それなら直接採集してきてもらった方が安上がりか。
ちなみにパックさんはギルド所属の冒険者では
ないので、クラス評価は無いが―――
火・水・風・土をほぼ全て使える上に、氷から
熱湯まで幅広く作れるのだという。
さらに治癒魔法の1つである浄化までも。
ただ、それは極めて小規模な範囲のものなので、
(ひとビンとかコップ1杯とか)
薬学を勉強し、今のような学者業に落ち着いた
らしい。
「それに、そう頻繁に町を離れるわけにも
いきません。
近隣の村々も私が回っていますので」
治癒魔法使いが王都に取られる分、彼のような薬師は
貴重だろう。
しかしそうなると、ずいぶん非効率的に感じる。
「それなら―――
私、こういう『遠征』は7日に2回ほど
しようかと思っているんです。
その時は彼らに頼むつもりなので、彼らに
採って来て欲しい薬草を覚えてもらえば
どうでしょうか?」
その提案に、彼の視線は私とそれ以外の若者の間を
行き来して―――
「いいんですか?」
パックさんの言葉に、3人組はそれぞれ顔を
見合わせ、
「俺たちは構いませんけど……」
「むしろお願いしたいところですが」
「その、シンさんの依頼と一緒にやっちゃっても?」
不安そうに質問する彼らに、私は説明する。
「あの罠……魔法は、待ち時間が必要ですしね。
その間、ムダに過ごすよりはいいでしょう。
空き時間に何をしようが、文句は言いませんよ」
問題は……と、ギル君、ルーチェさんの方をちらと
目をやると、
「あー……自分らは今のお仕事で十分ですし?
それはパスってゆーかー……」
「その分はこの方たちに譲ってあげた方がいいかと。
決して新しい事を覚えるのが面倒くさいとか
そーゆー事ではなくて?」
息ピッタリに目を反らしながら応答するが、本音が
見え隠れする。
まあ2人はシルバークラスの収入もあるし……
その分、この3人にいくと思えばいいか。
「―――では、パックさん。
食事の後でいいので、魔法が発動するのを待つ間、
カート君、バン君、リーリエさんに薬草の事を
教えてあげてくれませんか?
その間ギル君とルーチェさんは、周囲を警戒して
ください」
こうして、今後の方針はまとまり―――
2時間ほど現地に待機した後、町へ戻る事になった。
「ただ今戻りました」
宿屋に帰った頃には、もう日が傾いていた。
片道2時間、現地に3時間……
合計7時間―――まさに半日掛かりだ。
そして成果は……
魚180匹、鳥40羽。
どう考えても乱獲ですありがとうございました。
週に魚200匹、鳥50羽ほどに抑えているのに
これはちょっと―――
でもまあ、そのための『遠征』だ。
大丈夫だろう……多分。
「まったく。今日はリーベンもメルも来てないよ。
どうするんだい」
漁の日ではないから、当然あの2人はいない。
しかし生け捕りにしているので、魚は明日までなら
問題なく生きているだろう。
鳥は後で卵用の鳥小屋へ補充として入れておくか。
問題は―――
明日の漁の日は魚は獲れないな、という事。
仕方ない、ギル君とルーチェさんを連れて明日は
新たな遠征先でも開拓しておくとしよう。
「そういやアンタは、お目当ての物は
採れたのかい?」
クレアージュさんが続けて、パックさんに
成果を問う。
「ええ!!
これで当分は大丈夫ですウヘヘヘ……」
テンション上がっているなあ。
これから調合とかやらなければならないし、
いろいろと大変なはずなのに。
「で、ではここで解散しましょう。
あ、ギル君とルーチェさんはいつも通り
鳥と魚を孤児院へ……
カート君たちも手伝ってあげてください」
「「「はーい」」」
孤児院へ持って行く鳥と魚の分配作業に入り、
3人組に取っては初めての仕事なので、女将さんに
指導を受けている間―――
こっそりとギル君とルーチェさんに声をかけ……
そして宿屋の裏側で彼らにある提案をする。
「え? あの3人を?」
「はい。孤児院の手伝いをさせてはどうかと。
君たちには今、泊まってもらっていますが……
2人だけでは心もとなくて」
「いいんじゃないですか?
わたしたちとそれほど年も離れていないし、
苦労人みたいですし……
来客用の部屋もまだ空きがありますから」
よし! これで冒険者ギルドの住所不定を収納……
もとい前途ある若者たちに定住を与える事が出来た。
お金をかけて、孤児院を広く改修した甲斐があったと
いうもの。
「シンさーん、終わりましたよー」
カート君たちの声に私は足早で駆け付け、
「じゃあ、これらを孤児院まで持って行くのを
手伝ってあげてください。
案内はギル君とルーチェさんがしますから」
こうして彼らを見送ると―――
大きな伸びと一緒に、あくびが自然と出た。
さすがに往復4時間の行程は40近くの体に堪える。
「その様子じゃ、メシの前にお風呂の方が
良さそうだね」
「あ、じゃあそれでお願いします」
こうして―――
薬草採取の護衛兼『遠征』の1日は幕を閉じた。
―――明けて翌日。
「わっ!」
「ぬわぁ!?」
『魚の日』でやってきたリーベンさんとメルさんは、
すでに大量の魚が用意されていた事に驚いていた。
ちなみに「わっ!」がリーベンさんで、
「ぬわぁ!?」がメルさんだ。
女将さんに2人と一緒に『一夜干し』の調理を
頼むと、ギル君とルーチェさんと一緒に、
新規開拓のため未知の場所へと出発する。
川沿いから離れないように森の奥へと向かい、
道中、孤児院へ行かせたカート君たちの事も、
それとなく聞いて情報収集を行った。
「悪い人たちでは無いと思いますけど、
混乱はありませんでしたか?」
彼らとあまり年齢は違わないとはいえ、子供たちに
取っては『大人』が増えるのだ。
そこはやはり気がかりというか心配になる。
「帰った後、持って行った鳥や魚でリベラ先生が
夕食を作ってくれたんですけど……
自分らと一緒に先生の手料理を喜んで
食べてましたよ。
リーリエさんなんか、『いつもこんなの
食べてるのー!?』って泣きだして」
「あと、子供たちが結構増えて、今10人以上
外から預かっているんです。
なので、面倒を見てくれる人が増えるのは
大歓迎だと言ってました」
ふむふむ、と相槌を打ちながらさらに話を聞く。
「泊まる部屋は大丈夫でしたか?
彼らの荷物を運び込むとか……」
「荷物はほとんど着の身着のままだったので、
そのままで良かったっぽいです」
「部屋数もまだ余りがあったので、1人1部屋で
使わせています。
いつもは大部屋に3人で泊まっていたらしいので、
戸惑っていましたけど……」
おお、それはかなり生活レベルが上がったのでは
ないだろうか。
「それにその~……
1人1部屋は孤児院の都合と言いますか
何というか」
「?? それはまたどんな都合で?」
ギル君の説明に私が首を傾げると、ルーチェさんが
恥ずかしそうに答える。
「やっぱりその、チビちゃんたちは大人の人と一緒に
寝たがるんです。
わたしたちが小さかった時も、リベラ先生の
ベッドは競争率高かったですし。
なので、1人1部屋にすると引受先が
多くなるので、いろいろと助かりますと
ゆーかー……」
あーうん。
町から派遣されている職員さんはいるみたいだけど、
夜には帰ってしまうらしいし―――
預かっている子たちも、まだまだ親が恋しい年ごろ
だろう。
それに、人数が増えた分の負担は彼らに掛かって
くるわけで……
そもそも、足踏みの子供たちを募集して増やすよう
要請したのは自分だし、責任を感じてしまう。
そっちも人を雇うべきか―――
と考えていると、不意にギル君から
話題を変えられる。
「そういえば今日は魚を獲る日でしたけど……
どこに行くんです?
いつもの近くの川じゃダメなんですか?」
資源保護、という観点で話しても理解してもらえるか
どうかは経験からわかっている。
なので、適当に話を作って合わせる。
「いつも同じ場所で獲っていると、そこに
寄り付かなくなってしまうんです。
本能的に魔法か魔力の残りを感じて、
危険を察知するんじゃないですかね。
なので時々は、魔法を使う日を空けてやる
必要があるんですよ」
『へー』『そうなんですかー』と彼らは
口々に感想を述べる。
それで納得するのもどうかと思うが、
やはりこの世界で魔法というワードは強い。
それと―――
自分のアウトドア知識に合わせて、利用・食用出来る
物を見つけるのも『遠征』の目的のひとつだ。
実際に野草は、タンポポやユキノシタらしき物も
発見出来た。
川でもドジョウやナマズ、エビやカニらしき生き物が
いるのは確認している。
だが、これらを食べるとなると、基本的に調理は
天ぷらか唐揚げ、フライ、もしくは素揚げ―――
つまり油を大量に使用する事になる。
だからもし獲れても諦めるしかなかった……
そう、これまでは。
なのでカーマンさんに、今まで以上の油の調達を
持ち掛けたわけで―――
これで油が大量に確保出来れば、さらに料理の幅が
広がるというもの。
よってそれらの生息地の探索と発見は、私も本気で
取り組んでいるのである。
あと父親からの知識で、ヘビやカエル、虫の食べ方も
知ってはいるが、そっちは緊急事態にでもならない
限りは止めておこう……
「君たちもなるべく道を覚えておいてくださいね。
また来る事になるかも知れませんから……
それと、今日のところは様子見というか調査です。
獲るのは少しでいいですよ」
という私の指示に若者2名は、
「別にこれくらい、たいした事ないですよ。
身体強化使えますし……」
「この程度の距離なら、荷物持ちをしながらでも、
もう一往復は余裕ですよ」
身体強化が
出来れば
苦労しないん
だなあ
しんお
ただ自分が一切魔法を使えないという事は、
今のところジャンさんしか知らない
トップシークレット。
なので、こういう場合が彼らに合わせるのに一番
苦労するのだ。
帰ったら自分も足踏みマッサージに行こう……
それを望みに、今日の作業に本格的に入る事にした。
「戻りましたー」
比較的早めに帰ったつもりだが、宿屋『クラン』に
到着する頃には、もう夕陽が西日となって町を
照らしていた。
東西南北という概念は一応あるのか、それとも
自動翻訳がこちらに合わせてくれているのかは
わからないが―――
ともかく、それほど日が落ちないうちに戻る事が
出来た。
これなら、一夜干し作業も夜になる前に
終わりそうだ。
結局魚はギル君とルーチェさんで、合計50匹ほど
獲ってしまったが……残業はしない方針である。
残ったら明日に回そう。
「また大量に獲ってきたものだね」
「じゃーさっそく……」
と、待機していたリーベンさんとメルさんが
一夜干しの作業に入ろうとしたところ、何者かが
乱入してきた。
「シンさんっ!」
聞き覚えのある声に振り返ると、リーリエさんが
小走りで私へ向かってきた。
「どうかしましたか、リーリエさん」
焦った表情から、非常事態が起きた事はわかる。
まさか、孤児院で何か……?
そして嫌な予感は的中する。
「あの、ロック男爵様とやらが孤児院に来て……
子供たちを売れと」
その言葉に、全員の間に緊張が走る。
彼女は続けて話し―――
「もちろん、リベラ先生は断りましたし、
外から来ている子供たちの親も拒否した
そうですが……
ギルド長から、とにかくシンさんに
伝えるよう言われて」
私は答えるより先に、ハー、とため息をつき、
「取り敢えずこれから孤児院に向かいます。
リーベンさんとメルさんは一夜干しを―――
女将さんは孤児院へ差し入れる食事をいつも通り
お願いします。
それが出来たら、ギル君とルーチェさんが
持ってきてください」
そして自分はリーリエさんと一緒に、急ぎ孤児院へ
向かう事になった。
「シンさんっ!!」
事情をギルド長から聞いたのか、ミリアさんが
待機していた。
「子供たちは無事ですか?」
きょろきょろと見回すが、全員の顔を覚えている
わけではなく―――
そこは誰かに情報を聞くしかない。
「少なくとも、ここにいる子は大丈夫だと
思います」
「ただ、今は浴場に行っている子たちもいるので、
そちらの方は……
リベラ先生とレイドさんがつき添っている
みたいですけど」
カート君とバン君が現状を説明する。
どうやら、最悪の事態にはなっていないようだが、
詳しく聞かねば対応は出来ない。
取り敢えず、これまでの経緯も聞く事にする。
「その男爵とやらは、いつこの町へ?」
「シンさんと入れ違いで入ってきたらしいです」
「ギルド長がすぐシンさんに報せるようにと
言ってきたのですが、その時すでに町を
出て行かれてしまった後でしたので」
次に、ミリアさんとリーリエさんが答える。
確か今の公衆浴場での足踏みマッサージは……
午後3時くらいからスタートして、それから
5時くらいまでが前半、そして1時間ほど
休憩を入れてから、6~8時が後半という
スケジュールだ。
浴場そのものは9時くらいまでやっているけど。
今がだいたい6時くらいだとすると、前半で
足踏みマッサージの事を確認―――
それから孤児院と各家庭へ子供の買い取り要求、
といったところか。
そして全部断られ―――
大人しく引き下がってくれればいいが、もし
『行動』を開始するとしたらこれから……
「ギルド長は他に何か言ってましたか?」
「人の出入りを制限すると―――
特に馬車や、大荷物の運搬に関わる事は全て
チェックすると各門に通達を出しています」
すると後は、公衆浴場に行っている子供たち
全員の無事が確認出来れば良いのか。
「取り敢えず私は冒険者ギルドへ行きます。
ミリアさんたちは、ここで待機してください。
何かあったらすぐ連絡を」
そう言い残すと私は、孤児院を後にした。
「クソっ!!
どうなってんだよこの町は!?
こんな田舎の平民のガキなんざ、金貨50枚も
払えば、いくらでも買えるはずだろうが!!」
スキンヘッドの、30代前半と思われる男が、
高級そうな宿屋の一室で悪態をついていた。
来ている服はところどころ金の装飾をつけて
いるのか、動く度にジャラジャラとうるさい
光を放つ。
「ちょっとここは異常過ぎますね、男爵様……
肉や魚が珍しくも何ともなく、
それでいて『まよねーず料理』なる珍味もある。
そして子供は浴場まで無料……
親からすれば、ここから離れさせる意味も、
売る理由も無いのでしょう……」
白いポロシャツの上に黒いベストの、いかにも
執事服といった衣装の男が、壁に背を預けて
立っていた。
年齢は男爵様と呼んだ男とそれほど変わらず、
ただ後ろでまとめた髪を背中まで伸ばし、
陰鬱ともいえる不健康そうな暗い視線を落とす。
「あのガキどもは金になる。
回復魔法か何かわからんが、効果はこの体で
確かめた。
王都の噂通り……いや噂以上だ。
裏に流せば―――
金貨一千枚でも見込める『商品』になる」
すでに値踏みは終わっていて、それでいて
入手出来ない苛立ちのせいか、テーブルの上で
指をトントンと叩く。
「全く……
お前を連れて来て良かったぞ。
2、3匹頂いていく。
フレッド、アレを使え」
「……隠蔽、ですか」
主人の言葉を否定も肯定もせず、ただ受け入れ―――
静かに、しかし深いため息と共に、彼は目を閉じた。
しばらくして―――
冒険者ギルドの支部長の部屋で、アラフォーと
アラフィフの男が2人、長椅子に座って待機
していた。
「ただ待つというのも、しんどいものですねえ」
「そろそろ公衆浴場で足踏み踊りをしている
チビたちも、帰ってくる頃だ。
それさえ終われば……」
と、ギルド長が話し終わる前に―――
血相を変えたレイド君が室内に飛び込んできた。
「た、大変ッス!!
オッサン、シンさん!!」
「!?」
「落ち着け。
何があった、レイド?」
私は思わず立ち上がるも、ジャンさんは冷静沈着に
座ったまま、彼に説明を促す。
「ニコとポップがいきなり消えたッス!
俺とリベラ先生が見ていたはずなのに、
帰りに突然、姿が見えなくなって」
と言うと―――
今日、足踏みマッサージをしていた子か?
「レイド君。
最後に、その子たちの姿を見たのはいつですか?」
「足踏み踊りが終わって―――
風呂に入れて、着替えさせて……
その時までは確かにいたッス。
浴場施設から出て、さあみんなで帰ろうって
時に……」
そこで、腕組みをしながら座っていたギルド長が
立ち上がり、
「時間的には?
見失ったのは、どれくらい前だ?」
「す、少なくとも、まだ10分は経っていない
はずッス!」
となると、まだ外には出ていないか?
しかし、小さな町とはいえ人口500人が
住むだけの広さがある土地―――
子供を隠そうと思えば手段はいくらでも
ある気がする。
それで騒ぎが落ち着くのを待って、連れ出されたら
手の打ちようが無い。
どうやって子供たちを運び出すつもりなのか―――
いろいろとシミュレーションを立てていると、
今度は門番兵のロンさんが転がり込むようにして
入ってきた。
「ギ、ギルド長!
あ、それに『ジャイアント・ボーア殺し』も!
ロック男爵様の馬車が、緊急の用件を思い出した
とかで、急いで町の外へ通すようにと言ってきて
おりますが……!」
それに対して、部屋にいた男3人は顔を見合わせ、
「……わかりやす過ぎだろ」
「何考えていやがるッスか……」
「と、とにかく行きましょう!」
取り敢えず足止めはされているようなので、
ロンさんを案内人として、全員で足早で
現場へと向かった。
「まだですかね?
私は急いでいるのですが。
すでに馬車の中は門番兵の方々に調べて
頂きましたよ」
ロンさんとマイルさんの担当する西門に到着すると、
馬車のそばに立っている、身分の高そうな男が
何やら話しているのが目に入ってきた。
その隣りには執事らしき男もいて―――
態度は否定的ではなく、不審さも感じられない。
「この町の冒険者ギルド支部長、ジャンドゥだ。
何せ子供の行方と安全が掛かっているので―――
ご協力願いたい。
問題が無ければ、すぐに出て行ってもらって
構わん」
「それはそれは。
全面的にご協力いたしますよ」
それを聞くと、ギルド長は馬車の後ろから
のぞき込み―――
中を確認すると、私とレイド君がいるところまで
戻ってきた。
「ど、どうでした?」
「何も無かった……
が、もしかすると『隠蔽』の魔法かも知れん。
そうだとすると厄介だ。
高度な隠蔽魔法だと、視界も音も全て
遮断しちまう」
ふとスキンヘッドの男の方を見ると、こちらの視線に
気付いたのか―――
口元をニヤリと歪め、不敵な笑みを向けてくる。
「オッサンの『真偽判断』では!?
見破れないッスか!?」
「アレは相手の言葉の真偽を見抜く魔法なんだ。
ウソをついていればわかるが、実物を押さえないと
どうにもならん。
まさか貴族の馬車ごと拘束するわけにも
いかんし……ん?」
彼らの話をよそに、私は馬車へ近付いていった。
そして後方から中をのぞき、入り込む。
「(何をしているんだ、あの男は?)」
「(何をしても無駄ですよ……
私の隠蔽は完璧です……
子供が泣こうがわめこうが、誰にも気付かれる
はずは―――)」
男爵は余裕で、従者は無表情でそれをながめて
いたが、
「あ、君たちがニコちゃんとポップ君ですか?
みんな心配してますよ。帰りましょう」
「あ! 鳥と魚と卵のオジサン!?」
「僕たちの事、わかるの!?」
馬車の中から聞こえてくる会話に、2人は
目が点になる。
「……は?」
「……え?」
そして、私が小さな少年少女を抱えて馬車から
出てくると―――
身分立場問わず、全員が目を丸くしてこちらに
注目してきた。
「ど、どういう事だ、フレッド!?」
「あ、あり得ません……!
見える事も聞こえる事も、絶対に……!!」
馬車から地面に降り立つと、私は彼らを下ろす。
幸いにも縛られていたりはしなかったようで―――
そこにリベラ先生がいるのを確認すると、2人は
泣きながら彼女の元へ駆けていった。
「うわぁあああんっ!!
怖かったよー!!」
「このまま、連れて行かれると思ったー!!
わあぁああん!!」
リベラさんが彼らを抱き締めて慰め、そして―――
馬車の周囲にはいつの間にか、リーベンさんを
始めとしたブーメラン部隊、さらにギル君と
ルーチェさんが取り囲み―――
そしてなぜか非戦闘員であるミリアさんが、
腕組み&仁王立ちで一行を代表するかのように、
一歩前に立っていた。
心なしか丸眼鏡が光を発しているかのように見える。
おろおろと辺りを見回す男爵と従者に、改めて
ギルド長が近付き、
「さて、と……
ロック男爵様?
ちょーっと俺の部屋で『お話』させて頂いても
よろしいでしょうかねえ?
全面的なご協力に感謝いたします」
その言葉への返答として、彼らは観念したかの
ように―――
両の手の平を地面に付けるように崩れ落ちた。