『今日は帰したくない、なんてね。』
「ほんとに来ちゃった」
あなたが玄関に立って、小声でつぶやく。
大森元貴の“おうち”。
初めて訪れたその空間は、
ふんわりとコーヒーの香りがして、
ポメプーもいて、落ち着いた音楽が流れてた。
「どうぞ。遠慮しないで」
「お、おじゃまします…!」
ソファに座っただけで、心臓が大忙し 。
横にいるのは…好きな人の家着姿の大森さん。
ちょっとくしゃっとしたTシャツに、部屋でしか見られない無防備な表情。
やばい、かっこよすぎる。
「おやついる? なんか焼こうか?」
「え、手作りしてくれるの!?」
「うん。バナナ余ってるからマフィンでも作ろっか」
「…え、結婚?」
キッチンに立つ彼の背中を見つめながら、
(もう帰りたくないかも)って、ふと思ってしまう。
「できた〜」
2人で並んで、マフィンを食べながらNetflix。
途中で笑い転げたり、マグカップを交換して飲んだり、
気づけばあなたはソファでウトウト…
すると、あったかい何かが肩にかぶさった。
目を開けると、彼が自分のカーディガンをそっとかけてくれてた。
「…風邪ひくと困るから」
「やさしい」
「やさしいよ。君には特別、ね」
夜。帰る時間が近づく。
「そろそろ、行かないとだよね」
「……ほんとは、帰してあげたくないんだけどな」
「…え?」
その一言で、心臓がスキップした。
「次は…泊まりでもいい?」
「そしたらもっと、君といろんな話ができそうだから」
あなたはうなずいた。
嬉しさを隠せなくて、ちょっと顔がにやけてしまう。
玄関先。
「またすぐ、来てね」
「うん、今度はパジャマ持ってくるね」
ドアが閉まる瞬間まで、
2人はずっと、笑ってた。
『なんて呼べばいい?』
おうちで一緒に映画を観ていた日。
クッションを抱えながら、ふと思う。
そういえば、わたしって――
「ねえ、大森さんのことって…なんて呼べばいい?」
不意に問いかけたその声に、
彼はポテトを口に入れかけたまま、ピタッと止まる。
「……え?」
「ほら、普段“元貴さん”って呼ぶのはちょっと硬いし、
“大森さん”は距離あるし、でも“もっくん”はファンっぽいし……」
「…………可愛い悩み方してんなぁ……」
彼は笑いながら、こっちを見つめる。
「じゃあさ、試しにいろんな呼び方してみてよ」
「え!?無理!恥ずかしいし!」
「じゃあ僕から言う。“元貴”って呼んで?」
「い、今ここで!?」
「うん。目見て。名前で呼んでよ、僕のこと」
ふっと表情が優しくなる。
その瞳に見つめられて、逃げ場がなくなる。
「……も、もとき……さん……?」
「“さん”いらない」
「も、もとき……」
「……もっと甘めに」
「……もときぃ……」
「はい、今のやばい。可愛すぎ」
「ちょ、笑わないでよ!!!」
顔を隠すと、彼の手がそっと頭をぽんぽん撫でてくる。
「じゃあ、僕も君のこと、今日から名前で呼ぶ。
いいよね、僕だけの特別呼び方」
「え……」
「“○○”って、呼んでもいい?」
ふたりの名前が、お互いの唇から自然にこぼれた瞬間。
その距離は、ぐっと近づいてた。
呼び方ひとつで、心がじんわり甘くなる。
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