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建物の灯りが消えた深い夜。暗い街中に一件。未だ光る建物があった。
日中に出来た真新しい悩みのせいか、なかなか寝付けないでいた俺は、
気になってその建物に近づいた。段々と建物が近くなっていく中、俺の頭に一つの疑問が浮かぶ。
『こんな所に喫茶店なんてあったか?』
休みの日に外出する事も多く、家の近くなら熟知しているつもりだ。
こんな不思議な事もあるんだなと、ぼんやりと考えていると、その喫茶店の前についた。
そういえば夜食が少なかったと思い出し、さっきの疑問が頭を過ぎるが、そのまま喫茶店に入る。
眩しい光が邪魔して目を瞑り、次に目を開け疑った。
外から見れば差程大きくなかった筈だ、一人で経営出来る程度の小さな喫茶店。
だが扉を開いたその中は、大きな本棚が立ち並び。開放感のある高い天上とシャンデリア。
時間帯を感じさせない綺麗な光が違和感を齎し落ち着けない空間だった。
あまりの衝撃に後退。だが後ろに“扉は無かった”。
過ぎった疑問と少しばかりの警告に従えば良かったと早々に後悔したが、
じっとしていてもしょうが無い。取り敢えず動こう。気持ちを切り替えて歩き出した。
相変わらず終わりが見えない本に囲まれた道はまるで迷路のようで、
あまりにも長い間続いたものだから、せっかくなら1冊手に取って読みながら進もうかと
良さげな本を探す。最初に目に付いたのはまだ真新しい汚れひとつ無い新書。
だが読んでみると内容が殆ど無かった。比喩的な意味ではなく本当に。
その殆どのページが白紙なのだ。一度パラパラと捲っただけだから内容は分からないが
その薄さで残りの退屈さを凌げる訳もないだろうとまた新しく本を探す。次は古めの本。
そこで表紙がボロボロになったあきらかに古い本を手に取る。
今度は大丈夫だろうと期待を胸に開いてみると、そこには昔の文字で書かれた文章が。
「いや読めるかぁ!」と叫びたい所だがまぁまぁ予想はしていた。
次は一般家庭に昔から置いてあるくらいの丁度いい本を、と言った所だ。
だがこれが量の多い事多い事。同じ様な見た目をしてるせいか読んでみる気になれない。
一風変わった雰囲気の本は無いのかと探していると妙に惹かれる本を見つけた。
手に取ると感じるあまりにもの素朴感と孤独感。何故こんな物に惹かれるのかは俺にもわからない
が、気になってしまったのはそうだ。
こういう時くらいは好奇心に身を任せてもいいかもしれない。
そこに書かれていた内容は、誰かの生活日記だった。読み進めていくと、
まぁ内容はごく普通で つまらない物であったが妙に共感出来るものばかり。
最後のページにまで行くと既視感の ある内容だなと思い始める。その理由はすぐに判明した。
これは俺の“人生日記”だ。
最後のページには今この現状について書かれており、どんどん更新されていく。
今の驚きが思っていることが表示されていくのが妙に面白く、文章化されていくのが楽しかった。
もしかしてと思いあらかじめ持っておいたさっきの新書を開いてみると情報が更新されていた。
内容を見るに子供。それもまだ会話も出来ないような赤子の人生日記。
だからこんなにもページ数が少ないのかと納得してしまった。
さっきまで読んでいた俺の本もまだ終わっていない。他の本より薄かったが、その時になるまで
死因がわからないので心配する気にもなれなかった。
古めの本が最後まで書かれていたという事は、昔に生きた人物なのだろうと思う。
ここに入れられている本は全てここ日本に住んでいた人間の人生だ。
それなら終わりが見えないのも納得だ。俺は手に取ると感じる雰囲気を頼りに面白そうな人生を
探す。他人の人生を覗けるなんてまるで神様にでもなったような気分だ。
これがなかなか面白く、新たな発見や教訓。視点が俺の中に増えていくのも感じる。
そして俺が如何にちっぽけな存在なのかもわかってくる。
そしていつのまにか俺は本の迷路を達していた。
目の前の大きな扉が音を立ててゆっくりと開く、まだ見ていない本を沢山ある。
名残惜しさを感じたものだが扉の隙間から除く太陽の光でもう出ないといけない時間な事を察し、
足早に扉を抜けた。
その時にはもう、悩みと空腹は頭の中から消えていた。