テラーノベル
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リナと別れ、霧の街を後にした三人の前に、漆黒の馬に跨った典礼局の男が立ち塞がった。
「逃がさぬと言ったはずだ。その穢れた歌、今こそこの『銀の鈴』で封じてくれる」
仮面の男が銀の鈴を激しく振る。
——チリン、チリン
鋭い金属音が空気を震わせ、元貴の黒い猫耳を容赦なく刺した。
「……う、あぁぁっ……!!」
元貴は悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。
前回の比ではない魔力が込められた鈴の音に、元貴の脳内は掻き乱され、琥珀色の瞳から光が失われていく。
「元貴!!」
若井が剣を抜き、仮面の男へ斬りかかる。しかし、男は冷酷に笑い、懐から数枚の呪符を投げた。
「無駄だ。人間が獣人を守るなど、摂理に反する行為。……消えろ」
呪符から放たれた黒い雷撃が若井を襲う。
「滉斗!!」
涼ちゃんがフルートを吹き、風の壁を作って防ごうとするが、鈴の音で集中を乱され、防御が間に合わない。
爆風と共に、若井と涼ちゃんが数メートル後方へ吹き飛ばされた。
「……っ、クソ……。体が……動かねえ……」
若井が這い上がろうとするが、右腕には深い火傷を負い、剣を握ることすらままならない。涼ちゃんもまた、衝撃で意識を失いかけていた。
仮面の男が、動けない二人を嘲笑いながら、元貴の元へゆっくりと歩み寄る。
「さあ、仕上げだ。その喉を抉り、永遠に沈黙させてやろう」
男が銀の短剣を振り上げた、その時。
「…………させ、ない……」
地を這うような、けれど芯の通った声が響いた。
元貴が、震える手で地面を掴み、ゆっくりと立ち上がる。
その瞬間、元貴の黒い髪が逆立ち、スカーフが弾け飛んだ。
露わになった黒い猫耳は、
もはや恐怖に震えてはいない。
そして、俯いていた顔を上げたとき、若井は息を呑んだ。
元貴の琥珀色の瞳が、燃え上がるような黄金色の輝きを放ち、瞳孔が獣のように鋭く裂けていた。
「……僕の大切な人たちを……
傷つけるなあああ!!」
元貴が天を仰いで叫んだ。
それは「歌」などという生易しいものではなかった。
獣人の命の源である『琥珀の核』を強制的に燃焼させる、禁断の咆哮。
**「——……!!!!」**
目に見えるほどの衝撃波が元貴を中心に広がり、霧を吹き飛ばし、地面を爆ぜさせた。
仮面の男が持っていた「銀の鈴」は、その圧倒的な音圧に耐えきれず、粉々に砕け散った。
「なっ……馬鹿な! 獣人の分際で、鈴の呪いを跳ね返しただと……!?」
男は衝撃で吹き飛ばされ、森の闇へと消えていった。
静寂が戻る。
元貴は咆哮が途切れると、
糸が切れた人形のようにその場に倒れ込んだ。
「元貴!!」
若井が痛む体を引きずって駆け寄り、元貴を抱き上げる。
元貴の体は驚くほど熱く、呼吸は浅い。そして、その琥珀色の瞳は、うっすらと開いているものの、どこか遠くを見つめたまま焦点が合わなかった。
「元貴……おい、しっかりしろ! 元貴!!」
若井が必死に名前を呼ぶと、元貴の喉から微かに、消え入りそうな「ゴロゴロ……」という音が漏れた。
「……わか、い……。……守れた、かな……?」
「ああ、守ってくれたよ。お前、最高にかっこよかったぞ……。
だから、もういい。もう休め……」
若井は涙を堪えながら、元貴の黒い髪を何度も撫でた。
その時、地面に落ちていたノートが、不気味なほど赤黒い光を放った。
五つ目の音符、『犠牲』。
三人が手に入れたのは、勝利だけではなかった。
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