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こんにちは。
修学旅行で広島に行った者です。
つまりは広島さんのお話です。
イケメンすきすきだいすき
それでは、どうぞ!
「やあ、お嬢さん」
久し振りに隣県の某所を歩いていたところ、聞き馴染みの声に話しかけられた。
「こんにちは。広島さん」
後ろを振り向けば、整った顔の隣県が。
「珍しいね。いつもは島根ちゃんのところにいるのに」
「今日はココの気分でした」
「そっか」
2人並んで道を歩く。彼のラフな格好は日差しのおかげもあり、様になっていた。
毎年上がる平均気温は見るだけでうんざりだ。今日も相変わらず暑い。
「ところで今日は何をしに我が県へ?」
どこから取り出したのか、彼はうちわをあおいでいた。
聞かれることは分かっていたので、事前に考えておいたものを話す。
「新しい筆が欲しくて」
そう答えればああ、と納得したように頷いた。
「熊野筆か。君はあの筆を愛用してくれているよね」
自県の製品が選ばれたからだろう、嬉しそうな顔をしていた。
彼はポケットからハンカチを取り出して、私の首の垂れる汗を拭ってくれる。
「僕が着いていってもいいかい」
「ええ」
断る理由はないので、一緒に向かうこととなった。
暫くして沈黙が流れる。いつものことだし、それを気にする間柄でもなかった。
本音を隠すのが上手いと自負しているけれど、きっと彼に私の本心はバレている。
だって、彼自身がそもそも自分の心の中を出さない。そういう人は他人の感情に敏感だから。
広島さんの感情表現はとても豊かだけれど、彼の目はいつも、何の感情も滲んでいない。ただただ私たちを映すばかり。
チラリと様子を伺えば、先ほどから変わらぬ顔で歩いている。
彼は長袖長ズボンという夏では自殺行為とも言えよう格好で、見ているこちらが汗だくになる。
年中隠された彼の服の下にはいったい何があるのだろうか
(….あつい)
鳥取ちゃんがどこに行こうとしてたか、僕は知っている。
そこに行こうとした理由も、それを隠した理由も、見当がつく。
あの子は真面目だから。
世の中には、知っておいて欲しいことがたくさんある。
でも、知って欲しくないものだって、もちろんある。
僕の体の傷痕。
いつまでも消えない、消えるわけがない代物。
僕らは土地と共にあるから。土地が傷つけば僕らは傷つく。土地が再生すれば、僕らの体も元通りになる。
広島は終戦後からは想像ができないくらいに復興した。それでも、僕の体の傷は残り続けた。
僕の、あの土地の民が苦しんだ証拠だった。
この傷は誰にも見せないし、触れさせない。
そっと袖の下の傷痕を撫でる。
今もなお、消えぬ熱さに喘ぐ民たちがこの体に留まり続けている。
あつい、と声がした。