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五月雨の季節。五月雨とは言ったものの、空は憎いほど晴れてる。そんな空の下で、俺は、今のアイツを知った。

「……昨日、クラスメイトのコネシマさんが、お亡くなりになりました」

どうやら、自殺のようらしい。

何が起こったか説明する。まず、音が消えた。そして、眼鏡越しに見てるというのに色も無くなった。色も音も無い世界はやっぱり味気無い。そう思うのを最後に、脳がフリーズした。事実を受け入れたくない。理性がそう叫んでいたんや。

教壇の前にいる担任と校長が何か話してる。おそらく、命を大事にしろというような内容だろう。けど、声は体の周りにフワフワと漂っていて、耳には入ってこなかった。


教師陣が想像してるのは「いじめ」による自殺だろう。これについて俺は、絶対違うと言い切れる。アイツが死んだんは、もっと、こう、なんつうか、ボンヤリした物やねん。ほら、芥川龍之介もボンヤリとした不安で死んだやん。それとは少しちゃうけど。

高校生は、本当に分からない。衝動的に死にたくなっても不思議はない。シッマも、それと同じなんかな。やとしたら、僕はどうすれば良かったんやろ。


階段を一段ずつ登る。人気は無く、自らの足音だけがこだまする。キィィィと、屋上の扉は抗議するように軋みを立てた。風が一気に吹き込んでくる。髪の毛が後ろに流れた。本来なら屋上は立ち入り禁止なのだが、そもそもこの階段には人が近づかない。だから、シッマは最後の場所にここを選んだんやろか。屋上の隅に目をやると、白い何かが見えた。近づくと、それは花束らしく風に晒されていた。そして、花束の中にメッセージカードのような物がある。そこに書かれている字に見覚えがあって、急いで取った。

『大先生、またな   コネシマ』

後で調べてみると、白い花は彼岸花らしく花言葉は「また会う日を楽しみに」らしい。俺は少し錆びてる屋上のフェンス越しに、驚くくらい晴れてる空を見る。

なぁ、シッマ。お前は、何を思って死んだんや。

当然だが、聞こえたのは風の音だけだった。


階段に、足音だけがこだまする。一週間前と同じような音を立て扉が開く。

シッマ。お前が死んでから一週間も経ったんよ。やっぱり、色が戻らん。もちろん音もや。それを言ったら笑いながら「何ゆうとんねん!」とか言うんやろうけど、実際そうやねん。お前が消えて味気無さすぎるねん。

屋上のフェンスに手を掛け、軽々と乗り越える。足場は、わずか50センチしか無い。踏み出せば簡単に落ちる。今から俺はそれをやる。不思議と恐怖は無い。

「……また会えたらええな。シッマ」

シッマ、聞こえとるか?僕は足を踏み出し、重力に逆らわず落ちていく。

『大丈夫や。俺らならまた会えるやろ』

落ちる直前、アイツが呑気な声でそう言うのを、俺は確かに耳にした。

「…あぁ、そやな。また会えるな」

なんとなく、シッマが何を思って死んだか理解できた。

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