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rui
77 ◇胸のうち
「美代志くん、私ね、実を言うと夫とはずっと上手くいってないの。
子供たちも大きくなったし息子たちも私たち夫婦が随分前から上手くいってないことは
薄々気付いていたと思う。
それでね──
話してなかったけれど、随分前に私は家を出てるの。
……といっても、籍は抜いてないんだけど。
これはね、美代志くんと出会った頃からもう決めていたことなのよ」
「知りませんでした。
ただ、悟くんから少し、それらしいことは聞いたことが
あったけど……」
「私がもう20若ければ、美代志くんの胸に飛び込んだと思う」
「じゃあ──」
「年齢のことだけじゃなくて、私には美代志くんと大して年の離れていない
息子がいるでしょ? だから、残念だけどあなたの胸に飛び込んでいけない。
世の中にはこんなこと気にせず、自分の気持ちのままに想いを貫ける人も
いるかもしれないけど、それが私なの」
「……」
「でも、さっき言った気持ちは本当よ。私、ずっと美代志くんの側にいる。
今住んでる家を出て、この近くで部屋を探すわ。
息子たちだってずっと美代志くんの側にいると思う。
あなたのことを慕っているもの」
「そうだといいけど……」
「私たち、ずっと家族でいましょう?」
「由香さん──
抱きしめてもいいですか? 最初で最後にしますから」
私が頷くと、美代志くんが私をそっと抱きしめてくれた。
気持ちを伝えたくて私は彼の背中に触れ、しばらくその時間を静かに過ごした。
✿↓続きあります
AI自作イメージ画像
やがて、彼が腕を解き……そして私は食事の支度の続きをはじめた。
テーブルにおでんの入った土鍋と野菜炒めの乗ったお皿を置きながら
私は彼に言った。
「もしこの先好きな女性ができたら結婚するんだよ。
親代わりでお式には出るからね。
相手のご両親にだってご挨拶に行くわよ。
だから、何にも心配しないで結婚のこと、考えればいいわ」
「ははっ、ありがとうございます。
え~と、それまで甘えてこの家にいてもいいですか? 」
「もちろんっ」
「あぁ、でもこの家の整理っていうか、処分しなくちゃいけない日がきたら
言ってください。
出て行けるだけの給料は稼いでますから」
この頃、美代志は試験を受け、公務員になっていた。
「うん、分かった。これからも宜しくね」
◇ ◇ ◇ ◇
この10年の間に、夫が部下と続いているのかどうかは知らない。
ただ、家を出てしまった私に離婚してほしいとも言ってこない。
あの当時の部下と続いているなら彼女ももうかれこれ35才くらいになるだろう。
……ということは、ぼちぼち彼女から結婚を迫られて、夫は離婚を言い出してくる
かもしれない。
向こうから言い出されて離婚するのは癪に障るけど、気持ちのない夫と
このまま婚姻関係を続けるのも苦痛だし不自然だから、なるようになれって
言う気持ちでいる。