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生い茂る木々が邪魔をしてるだけだ。ここさえ抜ければきっと空が見える。
けど木の切れ間もない夜の山中は真っ暗なトンネルを歩いてるようで、自分から言い出したくせに早く帰りたいというのが本音だった。足は痛いし、とにかく寒い。
でも創の言う通り、俺が一番歳上だ。なにかあったら俺がこの二人を守らなきゃ、と奮い立った。そんなとき。
「わぁっ!!」
「わああ! 何!?」
突然創が大声で叫んだから、驚いて飛び上がった。しかし彼は笑って、一枚の大きな枯葉を見せる。
「ごめん、これが頭に落ちてきただけ。虫かと思った、あはは」
「おまっ……ふざけんな!! びっくりさせんなよ!!」
「そんなキレること?」
創は若干ドン引きしてる。しかしやっぱり不気味だ。こんな場所、何か未知の化物が出てきそうだし、もし襲われたらどうしよう。俺がオトリになる作戦しか思いつかない。
俺の死は確定してるのか……。
絶望に苛まれていた時、創がまた叫んだ。ただし、今度は明るい声で。
「あっ! ほら、見えたぞ!」
彼が指さした先は、ようやく木枝が開けた頂上付近だった。小走りで行って上を見上げる。
そこには満天の星空が広がっていた。
あまりの迫力に、さっきまでの寒さや恐怖は一瞬で消えてしまった。
「すっげ……」
星が降ってきそうだ。あそこにも、あそこにも……数えるなんて不可能。こんなの映画の中だけだと思っていた。
俺が子どもだから、なおさら感動したんだろうか。
「本当にやば……やっぱり、来て良かったな!」
創も嬉しそうに俺に言って、男の子の頭を撫でる。
多分、好きな奴らと一緒に見れたこと。今思うと、その喜びもでかかったんだ。
「すごい、綺麗!」
それまで眠そうにして大人しかった男の子も、星に負けないぐらい目を輝かせていた。
「創お兄ちゃん、あれ何の星?」
「えぇ? 何だろ」
「……あれはオリオン座。真ん中に星が三つ並んでるだろ」
代わりに答えると、創はおぉ、と俺を見た。この前の授業で出たばかりだから分かっただけだけど。
「そうなんだ……ありがとう、准お兄ちゃん!」
彼の隣から、喜びと興奮に溢れた声が返ってきた。
「あは……また見に来ような、成哉」
この景色は一生忘れない。
あの子と約束した。けど、こんな夜はこれっきりだった。
だからこそ眼に焼き付いたんだろう。……星を見たいのは俺じゃない。あの子なんだ、って。