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写真を見られてから、すみれと話すことはほとんどなくなった。
目が合っても、ふと逸らされる。
声をかけようとしても、タイミングがわからなくてやめてしまう。
「これ以上、傷つけたくない」
そう思えば思うほど、距離だけが空いていく。
でも、私は――やっぱり、戻りたかった。
あの昼休み、静かに机を並べてお弁当を食べた日。
図書室の陽だまりの中で、詩を読んで笑ったあの時間。
すみれが「私の夢に、あなたが出てるかもね」と微笑んだ瞬間。
全部、遠くなっていく。
ある放課後、校舎の裏手の階段で、私は彼女を見つけた。
彼女はひとり、風に髪を揺らしながら座っていた。
「……すみれ」
呼ぶと、彼女は少しだけ顔を上げた。
「……名前じゃないのに、それで呼ぶの、まだやめないんだね」
「やめたくない」
私の声が少し震えていた。
「お願い……前みたいに戻りたい。
隣にいて、笑って、話せるだけでいいの。
もう何も望まないから……お願い」
すみれは静かに目を閉じて、風の音を聴いていた。
そして――ゆっくりと、言った。
「前みたいには、戻れないよ」
その言葉は、まるで誰かの夢から抜け出してきたように淡かった。
「だって、“前みたい”って、
本当は最初から幻だったのかもしれないでしょ?」
私は息を呑んだ。
「……それでもいい。幻でもいいから、もう一度、そばにいたい」
それは、願いというより祈りだった。
しばらく沈黙が続いたあと、
すみれは少しだけ笑った。
「だったら、“幻の続き”を一緒に見る?」
私は、小さくうなずいた。
たとえそれが現実じゃなくても、
夢みたいでも、幻でも――
彼女の隣にいられるなら、それでいいと思った。