テラーノベル
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赤黒い空の下、ガラクタで埋め尽くされた都市を二つの影が駆け抜けていた。 ひとりは白銀の髪に青い瞳を持つロボット少女―リラ。
もうひとつは掌サイズの小型ロボット―チップ。
宙をふわふわ飛びながら、口の減らない声を響かせる。
「おいリラ! 後ろ後ろ! センサー反応がド直線で迫ってきてるぞ!」
「わかってる! でも黙って走りなさい!」
「いやいやいや! 俺、喋らないと壊れるタイプのAIなんだってば!」
リラは鋭い視線を背後に走らせた。
瓦礫の迷路の奥から、金属の咆哮のような轟音が響いてくる。
現れたのは四脚の戦闘型ロボット《ハウンド07》。
赤いセンサーアイをぎらつかせ、地面を抉りながら猛然と迫ってくる。
「―《敵性体、発見。殲滅開始》」
無機質な合成音声が都市全体に反響した瞬間、チップが絶叫した。
「やめろやめろ! ホラー映画のワンシーンか! 俺のCPUがブルって動かんわ!」
「……なら黙って!」
「それは無理ぃ!」
リラは倒壊したビルの影に身を滑り込ませると、小型レーザーガンを取り出す。
彼女の戦い方は正面突破ではなく、影から影へ潜み、
狙いすました一撃を撃ち込むスタイルだった。
ハウンド07の赤い光が瓦礫を照らす。
リラは息を潜め―
ピシュッ!
閃光が敵の首元に直撃。火花が散り、ハウンド07が一瞬だけ動きを止めた。
だが次の瞬間、轟音を響かせて突進してくる。
「効いてねぇじゃん!? おいおい、どうなってんだ!」
「効いてる! ……はずよ!」
「“はず”って何だよ! 俺たちの命が“たぶん”で動いてんのか!?」
リラは別の瓦礫に素早く身を隠し、再び狙撃する。
敵の赤いセンサーがギラリとこちらを捉えた―次の瞬間、ビルの残骸が豪快に吹き飛んだ。
瓦礫が崩れ落ち、粉塵が一帯を覆い尽くす。
「わわわっ!? リラぁ! 逃げ遅れるとマジでペシャンコだぞ!」
「言われなくてもわかってる!」
二人は粉塵の中を駆け抜け、細い路地へと飛び込む。
後ろからは、金属の爪がアスファルトを裂く音。
リラは胸の奥に冷たい緊張を抱えながら、それでも口の端を上げた。
「チップ、今日も無事に逃げきれたわね。」
「いやいや、笑ってる場合か!? 俺の中身、もう三回くらい心臓止まってるぞ!」
「…ロボットに心臓なんてないでしょ。」
「あるの! “気持ち的心臓”ってやつが!」
笑いと悲鳴を交えながら、二人は瓦礫の迷路を駆け抜けていく。
彼らの逃走は、まだ始まったばかりだった。
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