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プーちゃん冗談でもそれはいけないよ… 中国さん…大丈夫かな
「……ねぇ、菊、やっぱり国に戻らない?俺、上司にもう一回直談判してくるからさ、諦めないでくれよ、」
「ふふ、もう何百回と聞きましたよ?それ。敗戦国の化身として当然の報いなんですから。それにね、アルフレッドさん。ゴールがある人生も悪くないですよ」
「…俺、分かんないよ、日本は俺達と一緒にいたくないの?」
「……国際社会に私情を挟んではいけない。ですよ」
「…そりゃあ、いたいに決まってるじゃないですか、」
「……ごめん、日本、」
「もう、なんで貴方が泣くんですか笑。私はなにも気にしてませんよ」
「…だって、日本が、」
「えぇ、そうですね」
あの時も、日本は優しく俺を抱きしめてくれた。
「…すみません、勝手なことをしてしまって、」
「ううん。いいんだ。彼も君のおかげで随分落ち着いたみたいだし」
あれから落ち着いた中国はロシアの力を借りて仮眠室まで連れて行ってもらった。イタリアの精神状態もロシアに見てきてもらうよう頼んだし、問題という問題も居なくなったから当分は騒がれずに済むだろう。
「あの人も、国の化身ですよね?」
「うん。中国の」
「……隣国だからですかね。どうも既視感が消えなくて、つい、」
伏し目で言う菊が目線の端に見える。菊は昔からずるかった。こうやってまだ可能性があるみたいなことを無意識に言ってしまうのは、どうやら前世と変わってないらしい。何度日本に向けた好意を受け流され、場を濁されたことか。
「でもよかったよ、今日は特定メンバーしかいない世界会議で。何百って国がいたら収集がつかなくなってただろうし」
「…その、私がいていいんですか?大事な情報とか、秘密義にしてることもあるでしょうし、」
「会議って言っても、みんな真面目にやってることなんて1回もないんだぞ。顔合わせみたいな感じなんだ」
「な、なるほど、」
そんなことを話していると、いつの間にか会議室まで着いていた。いつもとは真逆にゆっくりとドアを開ける。
瞬間、心臓がドキリと鳴った。
空気が読めないだの言われる理由が身にしみた瞬間だった。今回は意図的ではない分罪悪感が倍増する。中に目を向けると、南イタリアの化身、ロマーノと弟のカナダ、付き添いのプロイセンが談笑していた。
「菊はここで待っててくれるかい?」
コクリと頷く彼を見送り、状況が掴めていない3人に菊のことを話した。
「…つまり、あの子は日本の生まれ変わりってことなの?」
「生まれ変わりなんて信じられっか。アジア人なんて全員似たような顔してんだよコノヤロー」
「好きな食べ物も、既視感も、行動も、全部日本そのままなのにかい…?」
「…ふん」
「…本当にアイツ、爺の生まれ変わりなんだな」
プロイセンは机に座る菊を見つめていた。彼も立場が立場なだけあって、罪悪感やら劣等感で居心地が悪いことなんて分かりきっていたから菊の事情は話したくなかったのが本音だった。申し訳ないという自分と似つかわない感情に押しつぶされそうになる。
「…アイツをここまで連れてくんの大変だったろ。あの眉毛とか、イタちゃんとか、…中国もいただろ?」
「イギリスは大丈夫だったよ。2人は…仮眠室行きになったけど、」
「…そうか。爺のやつ、みんなから慕われてたもんな」
薄く笑いながら言う彼には応えられなかった。辛気臭いのは大嫌いだし自分も笑いたかったけど、口角はピクリとも動きやしない。動いたとしてもバレバレな作り笑いになってしまっていたから、結局はよかったのかもしれない。
プロイセンは俺の顔を見て笑顔を潜めた。菊の顔に視線も戻し、それを遠目で見つめる彼はポツリと呟いた。
「…俺が、代わりに消えればよかったのにな」
静かな会議室で、その声はここにいる全員に聞こえた。それは違う。誰しもがそう言おうと口を開く前に、低い声が入口から聞こえた。
「どういうことだ。兄さん」
その声の主は、仮眠室から戻ってきたであろうドイツだった。悲憤の表情を浮かべた彼に全員が固唾を飲み込む。
「おぉ、ヴェスト。ごめんな、ちょっとした冗談だって」
「…本当にやめてくれ。冗談でも許さないからな」
「わーってるよ」
全員が胸を撫で下ろす。彼が笑って流してくれたおかげで空気は軽くなった。無理をしているのは分かりきっていたけれど、慰めはなぜか違う気がして何も言えないまま世界会議が行われた。