オレはあなたにとってはそんなに対象外?
オレが年下だから?
それとも・・・まだアイツが好きだから・・?
「本気も何も・・・」
「何?本気も何も?どうなの?」
彼女が戸惑っているのがわかってるくせに、思うようにならないオレはきっと苛立っている。
そしてそんな気持ちがどんどん抑えきれなくなって、今度はまた顔も身体も近づけて彼女に詰め寄る。
「いや・・だから・・」
彼女を困らせたいワケじゃない。
だけど、今彼女がオレの目の前でどんどんか弱くなっている姿を見ると、また別のオレの違う感情が動き出す。
ただオレを意識させたい。
そして、彼女を逃がしたくない。
オレは無意識に壁越しに彼女を少しずつ追いつめる。
そして彼女の顔と身体を捕らえるかのように、壁越しに両手を伸ばし、これ以上逃げられないように動けなくする。
「まだわかんない?オレはこんなにあなたのことずっと気になって仕方なかったのに」
この言葉は本音。
あの時から少しでもいいからオレを意識してほしかった。
ずっと近付きたくて近づけなかった彼女。
その彼女が今目の前にいるのに。
こんなに近くにいるのに。
今にもオレの前から蝶々のように飛んでいきそうな彼女を捕らえようと必死で。
ただ切ない気持ちのままオレは彼女を見つめる。
オレのことなんて、あの瞬間にもう忘れてた?
「オレのこと忘れたとか言わせないから」
もうここまで来たら引き返せない。
今からだっていい。
どんなカタチでもいいからオレを忘れないで。
あなたの中にオレという存在を刻んでほしい。
「わ、忘れてはいないけど・・・。ってかここ会社。誰か来たらどうすんの!?」
「大丈夫。ここはほとんど誰も来ることないから」
まだ逃がさない。
「そんな心配しなくていい。誰も邪魔させない」
誰にも邪魔されないようにここまであなたを連れて来たんだから。
ここまで来たら多分もうオレの気持ちは止められない。
これからはあなたをその気にさせるだけ。
大人なあなたにどう接すれば、どうアピールすれば正解なのかはわからない。
ここまでしたら、もしかしたらあなたに嫌われるかもしれない。
だけど、ずっとあなたを想っていたオレは、もうこれ以上我慢出来そうにないから。
あなたともう知り合ってしまった以上、きっとオレはいつかあなたが欲しくなる。
ただ見ているだけではもう多分満足出来ない。
「透子・・・って呼んでいい?」
ずっと呼びたかった名前。
こうやって名前を呼んだら、あなたはオレを意識してくれますか?
オレにドキドキしてくれますか?
「な!何!急に!?」
すると案の定動揺して焦りながら反応する彼女。
そんな姿を見て、逆にオレの気持ちが刺激される。
「呼んでい? ダメ?」
思わずそのまま甘えるようにおねだりするように問い掛ける。
「な、何で私の名前・・・下の名前まで知ってんの!?」
「もちろん知ってるよ。望月、透子」
あの日あなたに初めて出会った時に知ったその名前。
それからまた時が経ってあなたを好きになって、愛しく想い続けているその名前。
「私。あなたのこと、何も知らない・・・」
だろうね。
きっとあなたはオレという存在を今ようやく知ってくれたんだから。
「じゃあ覚えておいて。早瀬 樹」
ちゃんと覚えて、オレの名前。
これから知っていって、オレという存在を。
今はこのあなたを見つめる眼差しからでしか、想いは届けられないけど。
「早瀬・・樹・・」
すると、彼女が静かにオレの名前を繰り返す。
その雰囲気に流されるかのように、思わず静かに自然に繰り替えして呟くその名前。
「そっ。忘れないで。透子」
ずっと呼びたかったその名前。
今その愛しい相手が目の前にいて直接呼べる喜び。
「だから、名前!呼ばないでってば・・!」
「なんで?オレは平気だけど」
嫌がる彼女を気にせずオレはブレずに気持ちをぶつける。
「ここ会社!あなたとは初めて今出会って・・いや、二回目か・・。いや!そんなんどっちでもよくて!」
だけど、すぐに受け入れない彼女のその言葉は決して本当に嫌がってるようにも思えなくて。
ただ照れくさくて戸惑っているだけに感じるのはオレの勘違い?
「よ、呼ばないよ・・」
いや、そんな言い方。
嫌がってるというより煽ってるように思えて逆効果なんだけど?
それ絶対オレのこと意識してるよね?
そうやって弱々しくオレを離れさせようと両手を伸ばしても意味ないし。
ホントに嫌ならもっと嫌がれば?
ずっと想っていたあなたがすぐ手の届くこんな近い距離にいて、すでにオレはどうにかしたい勢いなんだけど?
逆にそんなんされたら可愛すぎて、更にイジメてオレをもっと意識させたくなる。
そして、壁越しの両手を片方放し、すかさずその彼女の両手首を掴みとる。