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澪梨のブログを覗いてみた。
単なる興味から覗いたそのブログには、キラキラした毎日を過ごすセレブっぽい日常があった。
____嘘!こんなのフィクションもいいとこじゃないの!
リアルでの澪梨(武子)を知っている私からすれば、どの写真もエピソードも作られたものだとわかって、いいね!を押す気にもならない。
「あれ?」
思わず声が出たのは、その作り物のだとわかる(少なくとも私には)その記事には、いいね!と羨望のコメントがついているのを見たから。
_____まるで女優のような?
どこにでもいそうな主婦の武子が、このブログの中ではセレブで綺麗な奥様になっている。
_____そうか、サイトの中なら理想の自分になれるのかもしれない
そう気づいたら、澪梨としてサイトの中にいる武子が羨ましくなった。
そのまま私は、ネットの中をウロウロしてみた。どこかに私みたいな女でも相手にしてくれる相手がいるんじゃないかと。
ただ、話を聞いてもらえればそれでいいい。
ふと、花束のような背景のサイトに行き着いた。
独り言のような呟きがツラツラと並ぶそのサイトは、雑談を交わすための大人のためのサイトのようだった。
私はそこに登録して、ずっと考えていたことを呟いてみた。
“毎日の暮らしに、何の楽しみも目的もなくてどんどんカラカラになっていくみたい”
_____こんな呟きに誰か応えてくれるだろうか?
誰も答えてくれなくても、そこに書いただけで少しだけ気持ちが楽になった気がした。
次の朝も、いつもと変わらずバタバタと駆け足で家事を済ませて、パートに出る。いつもと同じような仕事内容と、同じような内容の会話が耳に届く。何も変わり映えしない。
___あ、そうだ!サイトの返事は?
お昼休みに、休憩室の隅で昨日コメントを入れておいたサイトを開いた。【花開く】それがこのサイトの名前だったと今気づく。人生の花でも開かせようなんて意味なのかもしれない。
こんなSNSの扱いにまだ慣れなくて、自分のコメントへの返事の見方がわからない。
___あ、何かのマーク!
応援!スタンプが二つ、それからコメントが二つ付いていた。
“誰でも楽しいことだけをして過ごしてるわけじゃないよ”
“探してみましょ、楽しいこと。きっと見つけられますよ”
どちらも、たわいない返事だった。それでも、私なんかのちっぽけな呟きにも返事がもらえるなんて、うれしかった。
どこのどんな人かまったくわからない、でも、私の言葉を聞き逃さないでくれる人がいることが新鮮でワクワクした。
___えっと、どうやったらこれに返事ができるのかな?
他の人の呟きを見て真似をする。コメントにコメントをすればいいようだ。
“誰でも楽しいことだけをして過ごしているわけじゃないよ”
“そうですよね。みんな色々ありますよね”
“探しましょう、楽しいこと。きっと見つけられますよ”
“見つかりますか?私にも。”
返事を書いてくれた人のプロフィールを見てみた。どちらもサラリーマンと書いてある。
一人のアイコンはビールジョッキ、もう一人は香水の瓶のようだ。
___そうだ、私も少しプロフィールを書いてみよう
全くの嘘のプロフィールでも構わないが、そのことでトラブルが起きたりしないように自己責任で管理するようにと、最初の注意事項に書いてあった。
___この際、まったく違う人になりきろうかな?
と考えたけど、それじゃあ澪梨の虚飾のブログみたいになりそうな気がしてやめた。せっかく心の中の言いたいことを吐き出せるのなら、私自身のイメージで作り上げた方がいい気がした。無理して飾り立てたら本音が言えなくなりそうだし。
___普通の主婦、に見えるアイコンってなんだろう?
他の人のアイコンも見てみる。犬、花、口紅、手帳、万年筆、車、何かの表紙、デザインロゴ、星、風景、似顔絵…
午後からも仕事をしながらアイコンを考えていた。いつも見慣れた商品や段ボール箱まで、アイコンになりそうなものはないかと見ていた。たったそれだけで、ちょっとだけ楽しかった。
家に帰って洗濯物を取り込んだ時、猫の形の洗濯バサミが目についた。
___あ、これ、私らしいかも?
ベランダの手すりに乗せて写真を撮り、サイトのアイコンにセットする。その時また、返信ありのマークがあった。
“たとえば、あなたはどんなことが楽しいですか?”
香水のアイコンの人だ。男性?女性?わからないけど。
“こうやって私の呟きにも返事がもらえるだけで、とても楽しいです”
と返事をしておいた。それは嘘ではなかったから。