【TV NEWS 21:00】《記者:佐藤 田中》
《映像:廃屋の外観と現場写真、警察車両、現地の山中映像などが交互に映る》
『続いてのニュースです。
今月15日、山間部の廃屋にて身元不明の男性が発見されました。
発見当時、男性は意識がなく、現在も植物状態が続いています。』
『廃屋は電気・水道も止まっており、居住の形跡があるものの、生活感は極めて乏しく、事件性も含めて捜査が行われています。』
『現場には、もう一名の男性が死亡した形跡も確認されており、警察は“心中未遂”または“監禁致死”の可能性も視野に調査を継続しています。』
《アナウンサーが別の書類写真をカメラに提示》
『現場に残されていたノートには、“アーサー”と名乗る人物に関する記述が多数あり、実際に数年前から失踪届が出されていた人物との関連が指摘されています。』
『一方、“アル”という名も繰り返し登場し、こちらの人物が現場で発見された男性である可能性が高いと見られています。』
《画面に、手書きのノートの一部が映る。文字は震えていて、感情的に綴られている。カメラはぼかしをかけるが、最後の一文はくっきり映る。》
「ここに俺たちの世界はある。誰にも壊されない。誰にも見つからない」
《映像が遠ざかり、廃屋の全景と、風に揺れる木々の音がかすかに響く。》
『この出来事が何を意味していたのか――
真実を知る者は、もうどこにもいません。』
【♪NEWS BGM フェードアウト】
そしてテレビは次のニュースに切り替わる。
視聴者にとってはただの「奇妙なニュース」。
でも、それを見た誰か――もしかしたら、アーサーの姉、アルの友人、あるいは関係のない誰か――の胸に、微かな痛みだけが残る。
その痛みこそが、彼らの愛の“亡霊”だった。