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昨夜のハッキング任務の成功と引き換えに、
僕の精神は摩耗しきっていた。
授業中も、首の後ろのチップが
熱を持っているような錯覚に陥る。
いふくんは隣の席でいつも通り不機嫌そうに
ノートを取っているが、
昨夜「水を飲みに起きた」という自分の苦しい言い訳を、
彼は本当に信じたのだろうか。
青.彡「……ほとけ、ペン止まっとるぞ。また寝不足か?」
いふくんが小声で指摘する。
その「ほとけ」という呼びかけに、心臓が跳ねる。
水.彡「あ……すみません、。ちょっと考え事をしていて……」
青.彡「ふん。……まぁ、今日の放課後はしっかりしとけよ。りうらが張り切っとったからな」
いふくんの言葉に、
僕は胃のあたりが重くなるのを感じた。
放課後。約束通り、
僕は第5個人訓練場へと向かった。
そこは他の訓練場から離れた場所にあり、周囲には人影もない。
訓練場の重い扉を開けると、
そこには既に練習用のジャージに着替え、
木刀を弄んでいるりうらさんの姿があった。
赤.彡「やっほー、ほとけくん。待ってたよ」
りうらさんは、夕闇が差し込む窓を背にして立っていた。
逆光で表情は見えないが、
その瞳だけが獲物を狙う獣のように鋭く光っている。
水.彡「……お待たせしました、りうらさん。あの、特別訓練って、具体的に何をすれば……」
赤.彡 「んー、簡単だよ。俺の攻撃を、10分間避け続けるだけ。……あ、反撃してもいいよ? もし俺に一撃でも入れられたら、君の勝ち」
りうらさんが「俺」という一人称を使うたび、
その幼い顔立ちに似合わない威圧感が僕を襲う。
水.彡「……僕に、そんなことできるわけないですよ。運動、苦手ですし……」
赤.彡「あはは、そうだよね。……じゃあ、いくよ?」
次の瞬間、りうらさんの姿が視界から消えた。
速い。 僕は反射的に身を翻した。
木刀が空を切る鋭い音が耳元で鳴る。
赤.彡「お、今の避けるんだ。……やっぱり、君の反射神経、普通じゃないよね!」
りうらさんは楽しそうに笑いながら、
次々と打撃を繰り出してくる。
僕は必死に「素人の無様な動き」を演じようとするが、
りうらさんの攻撃は、
本気で避けなければ骨を折られるほど的確で容赦がなかった。
(……だめだ、体が勝手に動く……! 訓練された回避行動を取ったら、正体がバレる……!)
僕はわざと足をもつれさせ、床に転がった。
そこへ、りうらさんの木刀が容赦なく振り下ろされる。
僕は間一髪で横に転がって避けたが、
木刀は床のマットを激しく叩き、鈍い音を響かせた。
赤.彡「ねぇ、ほとけくん。なんで隠すの?」
りうらさんが動きを止め、冷たい声で問いかける。
赤.彡「君のその動き。無駄がないっていうか……『殺されないための動き』だよね。」
りうらさんは木刀を肩に担ぎ、ゆっくりと歩み寄ってくる。
赤.彡「君、この学園の誰とも違う匂いがする。……ねぇ、君はどこから来たの?」
僕は肩で息をしながら、
床に座り込んだまま動けなかった。
首の後ろのチップが、警告の熱を発している。
水.彡「……何のことですか、りうらさん。僕は、ただ必死に避けてるだけで……」
赤.彡「ふーん。……まぁ、今日はこれくらいにしてあげるよ」
りうらさんは不意に表情を和らげ、
いつもの無邪気な笑顔に戻った。
だが、その瞳の奥の冷徹な光は消えていない。
赤.彡「でも、俺、諦めないからね。……ほとけくんの『本当の顔』、いつか絶対に見せてもらうから。」
りうらさんはそう言い残すと、
軽やかな足取りで訓練場を去っていった。
一人残された僕は、震える手で自分の首の後ろに触れた。
(……危なかった。あと一歩で、リミッターが外れるところだった……)
訓練場を出ると、
そこには心配そうな顔をした悠佑さんと、
ニヤニヤと笑う初兎さんが待っていた。
黄.彡「おう、ほとけ! 大丈夫か? りうらの訓練、えげつなかったやろ」
悠佑さんが、僕の泥だらけの肩をポンと叩く。
その「ほとけ」という呼びかけに、今は少しだけ救われるような気がした。
水.彡「……はい、。なんとか、生きてます……」
白.彡「まろちゃんが心配して、悠くんと一緒に様子見に行けってうるさかったんやからな(笑)」
初兎さんが、いふくんの方を指差して笑う。
少し離れた場所で、
いふくんが「……っ、しょにだ、余計なこと言うなや!」と顔を赤くして怒鳴っていた。
水.彡「……いふくん、心配してくれたんですか?」
青.彡 「……っ、勘違いすんな! 部屋が汚れるのが嫌なだけや!」
いふくんはぶっきらぼうに言い捨てて、
先に歩き出した。
悠佑さんの温かさ、初兎さんの鋭い冗談、
そしていふくんの不器用な優しさ。
それらすべてが、スパイである僕にとっては、
いつか壊さなければならない「偽りの日常」なのだ。
(……僕は、誰も信じてはいけない。……胸がこんなに痛んだとしても…。)
夕闇に染まる学園の廊下で、
僕は一人、自分の影を見つめていた。
ふぅ。おつてん。