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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

⚪︎月⚪︎日

??から渡された薔薇の花束。

??の表情はとても辛そうだった。

だから引き留めた。

でも、???は、

足を止めることはなかった。

ごめん。ごめん。

地獄で待っててね。地獄で謝るよ。でもその前に、君との約束を果たそうか。

記入者・???

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


なんとなくだった。

彼の腕を握って、彼を引き留めたのは。

「セラ、、、?」

彼の驚いた表情。

俺は何故か言いたくないことを口にしていた。

「行かないで」



さようならとありがとうの花束を君に

ーごめんなさい。もう彼に届くことのない小さき謝罪も込めて



ここは俺が通う寄宿学校”エレフォルク・カレッジ”

”四季凪アキラ”と手を組んで、数年。大きく長期的任務をこなすよう命じられたのはまだ記憶に新しい方だろう。

それまでは”Ares”と名乗っていたが、今は”セラフ・ダズルガーデン”と名乗っている。

名前なんてしょっちゅう変わっていたが、”Ares”と名乗っていた時期が一番長いため、愛着というか名残惜しさは少しある。

まぁ、どうだっていいのだが。

「初めまして。僕は生徒会長の風楽奏斗って言います。よろしくお願いしますね」

とても丁寧な口調で話しかけてきたのは”奏斗”という金髪とその中に光る淡い青色の瞳が特徴的な男。

もちろん俺はこの男のことを知っている。

風楽はここらでは一番大きいマフィアの一家だ。

奏斗はその一家の嫡男だ。

権力が大きく、俺らの任務に影響を及ぼす可能性が非常に高いため接触は最低限とされている男。

「初めまして」

俺はその一言で男からの言葉を遮った。

任務のためならなんでもやる。これが当たり前なのだから。


「アキラ。これ」

俺がアキラに手渡ししたものは書類だった。

そこまで厚くはないが、文章量が多い数枚の重要な書類。

昨晩徹夜して作り上げたものだ。

もうそろ定期テストもあるため、徹夜する練習にはちょうどいい。

「ありがとうございます。ところで、うちの生徒会長が貴方と仲良くしたい。と言っていましたよ」

そう、言い忘れていたがアキラは副会長をしている。

そのため、学校内での支持は高い。

諜報員だと気付かれることはそうそうないだろう。アキラが致命的なミスをしない限り。

「あいつは任務に影響を与える可能性が非常に高い。接触は必要最低限にすべきだろ」

そう。この判断が一番任務を遂行するのに最適だ。

これが、一番。

「そうですね。しかし、そこまで冷たく接すると余計に怪しまれてしまいます。必要最低限ならば、クラスメイトとして、ある程度の友人関係は築いておいてください。何かしら情報を引き出す場合だってございますので」

別に、アキラがやれば、、、。

という言葉を出さなくて正解だと思った。

アキラは諜報員としてある程度の任務量をこなしている上で、怠惰な生徒会長の面倒を見て、副会長の仕事もこなしているのだ。

これ以上仕事を増やしてしまったら、任務に支障が出てくる可能性だって否めない。

「わかった。ある程度は関係性を築いておくよ。あと、無理するなよ。任務に支障をもたらしたらどうするんだ」

「貴方からその言葉を聞く時が来るとは思っても見ませんでしたね。わかってます」

そういうとアキラは俺に背中を向けて廊下を歩いていった。

任務第一。

それならば、自分を偽ることも、自分の命だって、軽いものになる。

それが当たり前の世界に生きてきた。

今までも、これからも___。


「おはよう。奏斗」

奏斗が登校してきたため、関係性を築くにはまず挨拶だろう。と思い、奏斗の周りの人が去った後、初めて自分から挨拶をした。

「え!?セラフから挨拶なんて珍しい!おはよう!セラフ」

満面の笑みとはこのことを指すのだろうか。

眩しいくらいの笑顔をこちらに向けてくる。

ちなみに言うと奏斗が一番窓に近い席で、その横に俺が座っているため、窓からの光も差し込んできて、太陽のようだ。

俺とは段違いだ。

授業中、俺は机に差してくる太陽の光が嫌いだ。

眩しいし、暑いし、いいことなんて一つもない。

カーテンを閉めようか。

何度そう思っただろうか。

でも、隣の席の彼はその太陽の光が好きなようだった。

授業中も窓の外を見つめては、木に止まっている小鳥を眺めていたり、はたまた太陽の光で日向ぼっこしていたり。

太陽が好きな彼に向かって「カーテンを閉めてくれ」なんて頼めないじゃないか。

(隣の席がこいつでなかったら)

嫌いな太陽の光も目に入れなくて済んだだろうに。


チャイムの鐘がなる。

クラスメイトはこの鐘の音を待ち望んでいたかのように、鐘の音が鳴った瞬間騒ぎ出した。

「今日一緒に帰ろうぜ!」

「ねぇねぇ、カラオケ行ってさ、ゲーセン行かない!?」

「今日の合コン行く人挙手!」

わいわいと、これを青春と呼ぶんだな。と感じつつ、一人静かに教室を去る。

今日は任務がある。

今現在進行中のものとは全くの別物だ。

それは”護衛の任務”だった。

どっかのお偉いさんの護衛を頼まれた。

裏の企業ではない企業が暗殺者に護衛を頼む。なんてもの珍しく、家も一度断ったらしいが、どうしても。と頼まれたそうで、お金もまぁまぁ積まれていたらしく。

そりゃ断れないな。と思い、寮室へと戻る。

何かあった時のための黒シーツ。

白だと赤が目立つからな。

俺のスーツは全て黒色だ。

まるで喪に服す人みたいだ。

(いつか白スーツを堂々と着られる日が来るのだろうか)

そんな淡い夢を投げ捨てて、俺は寮室の扉を開けた。


「こんにちわ。依頼を命じられました。”Ares”と言います」

裏での仕事では特定をされることを防止するため未だに”Ares”の名を使う事が多い。

信頼のない、初客・闇客などが対象だ。

長く自分の家と付き合いのある家との任務では”セラフ・ダズルガーデン”を使うけれど。

「礼儀正しいな。この子は。さぁ、会場に行こうか」

少し老けているように見えるが、相当若いんだろうな。と思う。

礼儀作法が甘い。

もっとグラスの持ち方を丁寧にしないと、、。歩き方だってそうだ。

甘すぎる。

こんな動作を家の者にやってみせたら、速攻で説教行きだ。

1から叩き直される。

そのおかげで俺の礼儀作法は完璧とも言えるだろう。

アキラの方が礼儀は綺麗だ。というか美しい。

その話は後で話すとして、この人はなぜ俺を雇ったんだ。

この人の企業は裏とそこまで深い関係性はなく、普通に護衛を頼む選択肢だってあっただろうに。

「こんにちわ。⚪︎⚪︎さん。この度は〜〜〜」

俺の目の前に。いや、正確には俺が護衛している人の目の前に現れたのは、俺の見知った顔だった。

”風楽奏斗”

俺らが通う寄宿学校「エルフォルク・カレッジ」の生徒会会長を務めていて、マフィア一家として有名な風楽家の嫡男。

金髪の髪と淡い青色の瞳が特徴的で、彼の右目は”ターゲットサイド”といい、水色に光るらしい。

俺の隣の席のやつであり、笑顔が眩しく、クラスからはとても好かれている男。

(礼儀正しい。マナーを知っている。アキラまでとは言わないが、とても綺麗な作法をしている)

なんとなく依頼主は風楽家との関係性を強めたいのだろう。

そのため、マフィアである彼に対抗、と言うか自分も裏の人間であることを表すために、俺を護衛にしたってところかな。

「いやはや、学生で忙しい中わざわざ私の開いたパーティにお越しくださって光栄でございます。ところで、私の企業と風楽家。そろそろ関係性を深めたいなと〜〜〜〜」

クチャペチャと。

上辺だけの言葉を並べて、マフィアである彼がその本音に気づかないとでも思っているのか。

「そうですね。⚪︎⚪︎さんにはたくさんお世話になっていますしね。しかし、僕一人だけでは決められない、重要なことでございます。そのため、一度家に持ち帰り、ファミリーと相談したのちにまたお伺いさせてもらいます」

そう一礼をした奏斗。

「確かに。急かすような内容ではございませんので。ぜひ良いご縁を結べることを期待しております」

そう言って、奏斗もその人の場を離れていった。

奏斗の家と関係性を深めるなんて。無理に決まっているだろう。

一時期、俺の家も奏斗の家と関係を結ぼうと計画を立てていた時もあった。

しかし、その計画はすぐにやめになった。

長期的すぎたし、難しすぎたのだ。

まず、奏斗の家に認識してもらって、そこから数年以上かけて仲を深めていく。そしてその間一度も俺の家が奏斗の家を潰せるほどの権力を持ってることを知られてはならない。

そして、関係性を深めていくのも数多のステップがあり、そこまで重要視している家ではなかったので、すぐやめになったのだ。

それほど彼の家の警備、ガードは硬いのだ。

そうして、数時間以上パーティの会場内を動き回り、いろんな話をしていった。

(ここでは簡単に情報を漏らしていくな、、。後で使えそうな情報をアキラに送っておこう)


任務が終わり、深夜一時。

寮に戻る前にどこかで情報をまとめておきたい。

暗記能力は高い方だが、不確かな情報を送り、混乱を招きたくはない。

どうしようか。

パーティ会場近くに路地裏があったので、そこでまとめてから帰ることにした。

「セラフ、どうかしたの」

路地裏にいた俺に声をかけてきたのは紛れもない奏斗だった。

「別に」

「深夜一時に学生がこんな路地裏で何してるんだよ。生徒会長として見過ごせないな」

その時の奏斗はマフィアとしての奏斗ではなく、学生としての奏斗だった。

「奏斗もでしょ」

「僕は学校から許可もらってるの。こういう家の用事の時は深夜まで外を歩いてもいい。っていう」

何それ。

俺も許可取ったら楽だろうな。

でもなぁ、、、。そのためにはどうせ仕事のことを言わなければならないんだろうし。

だったら取らないほうがいい。

「帰るよ。車に乗りな」

「え」

「学生をこんな夜中に歩き回らせるわけ無いでしょ」

ほらのりな。と言わんばかりに車の扉を開けて、手招きをする。

「ありがと」

小さな感謝。

この小さな感謝で人の気持ちは大きく揺さぶることを俺は知っている。

その通りに、奏斗は喜んだ表情を見せ、俺の隣の席につき、扉を閉めた。

「動かして」

そうはなった奏斗の言葉と共に車は動き始める。

変わっていく風景が。眩しいネオンのライトが眩しくて、俺はずっと下を向いていた。

現実から目を逸らすように。

「セラフ。なんであそこの場にいたの」

奏斗は窓の向こうを見つめて俺に向かって言った。

やっぱり気づいていたのか。

「仕事」

その一言で奏斗の質問には答えられたし、会話は終わるはずだった。

「暗殺依頼でもあったの?事件はなかったみたいだけど」

その一言に俺は驚きを隠せずに、奏斗の方を向いた。

「っ!?」

言葉を発しずに、ただただ奏斗の方を俺が見つめ、窓の反射で奏斗が俺を見つめる。

どれくらい経っていたのだろうか。わからない。

「知ってるよ。学校に入学したときにある程度の人物は調べを入れたから」

、、、。

俺の名前は本名ではない。どうやって調べを入れられたのだろう。

「アキラの方のガードが少し緩かったから。四季凪アキラの情報と一緒にセラの情報も流れてきたよ」

これはアキラにガードを硬くするよう忠告をしとかないといけないな。

「で、何が聞きたい」

俺のことを知っていることを条件に、何か知りたいことがあるんだろう。

内容によっては俺はこの場でこいつを処理する必要性がある。

「別に。なんもないよ。ただ」


「セラフ。忘れないで。僕たちには”逃げる”っていう選択肢があることを」


そう言い放った時だけ、俺の方を見つめていた。

悲しげに。ごめんね。と言い聞かせるように。

だけど、俺は”逃げる”という選択肢が押せないんだ。

怖いんだ。

今まで殺してきた人たちの亡霊が、俺に話しかけてくるんだ。

「なんで、なんで!!」

って。

俺は幸せになれない。というか俺自体なりたくない。

なった瞬間呪い殺される気がするから。


次の日も、同じ光景だった。

奏斗の周りには人が集まっていて、楽しそうに会話を繰り広げている。

人がいなくあった後、

「おはよう」

と声をかけ、

「おはよう!セラフ」

と言い返される。

毎日の習慣で、当たり前となったこの挨拶。

もっと距離を縮めたい。

なんて叶わない夢を空に願って、授業を受ける。


「___よ!!!」

いきなり後ろから声をかけられたのは、奏斗とよくいる”渡会雲雀”というやつだ。

こいつのことは耳によくすることはある。

優しいやつだの、明るいやつだの、うるさい元気な馬鹿だの。

耳にするもの全てが良いものばかりで、悪い奴ではないんだろうなと思う。が

彼はここらで有名な怪盗一家の跡取りであるがため、そう簡単に油断できない相手なのだ。

今現在もそうであり、

声をかけられるまで後ろにいたことに気づかなかった。

気配も、足音もない。

彼の職業柄そうなっているのだろう。

「、、、何」

俺が返したのはその一言のみだった。

「別に!!奏斗がセラフの名前を出すなぁと思って、声かけただけ!!」

なるほど。こいつは”陽キャ”という部類に入る奴だ。

心底だるい。

こいつの場合、悪意がなく、そしてこれが当たり前だと思っている分、関わりにくい。

こいつ、、。裏の人間だということを自覚しているのか、、?

「ふぅ〜ん、じゃ」

そう言って別れようとしたが、

「ちょいちょい」

と肩を掴まれ、妨害された。

「次移動教室」

しかし、そういうと彼は渋々俺の方から手を離した。

「え〜じゃあさ!今日生徒会室きてよ!アキラとも仲良いんだろ?一緒に来てな!それじゃあな〜」

なんか勝手に約束させられたんだが。

今日は任務がない日であり、勉強とヴァイオリンに久しぶりに触れようとしていた日なのだが。

最悪だ。

しかし、約束されたものはしょうがない。

約束を破り、関係性を崩すのだけは避けたい。

こいつを味方につけることができれば、良い情報が手に入る可能性だって捨てきれないのだから。


「アキラ。今日生徒会室行くでしょ」

そう話しかけたのは、アキラに明日の依頼の内容を確認した後だった。

「え、まぁ、、。副会長ですし」

「俺も行く。一緒に行こ」

「え?」

アキラはとても驚いた表情をした。

信じられない。とでも言うように。

「今日渡会に生徒会室来てって言われたから。渡井との関係性は崩したくないから、今後いい情報が手に入るかもじゃん」

最初、アキラは少し表情が明るくなったが、終盤、とても呆れた表情をした。

「貴方、、。誰かの話をすれば、任務だの、情報だの。確かにその心は大切です。しかし、彼らだって裏の人間だと言うことを忘れずに。嘘がバレないような人たちではないですからね」

、、、。事実だ。

アキラの言う通り、表面だけの付き合いなど胡散臭いほどしてきたであろう奏斗と渡会。

ならば、こちらの本音だっていつか気づかれるだろう。

「でも。その件を省いたら俺、あいつらと関わる目的がないよ」

「目的なんていらないんですよ、まずまず」

「目的もなしに、相手に近づいたことがないからわからない。何が当たり前なのか、、、」

俺は依頼だから。任務だから。情報を吐き出させるためだから。

そう言う理由があるから人に近づいてるだけ。

自分の仕事を完遂させるために必要だったのが人だっただけだ。

勿論、俺の目の前にいるアキラだってそうだ。

こいつとバディを組め。

なんて言われなかったら自分から関わることはまずなかったのだ。

「いいですか?渡会はまずます、貴方と奏斗はクラスメイト。そして隣の席。それだけで理由はできるんですよ」

そう、なのか。

「貴方は”友達”を知らなさすぎです。それでは、本音がバレてしまう可能性だってありますし、何より」


「貴方はずっと”友達”が欲しかったじゃないですか」


、、、。欲しがってなどなかった。

一度も欲しいと感じた時はなかった。

はずだ。

任務があるからと。友達と帰らずに一人素早く帰っていたあの日々。

後ろからはわいわいと騒ぎ声が聞こえても、歩く足を止めなかった。

「今日ゲームしようぜ!」

「いいよ〜!何する〜?」

とかの会話も、全部全部無視をしてきたんだった。

「ねぇ、⚪︎⚪︎も遊ばない!?」

もう無き名前を呼ばれた時も、

「ごめん、用事があるんだ」

その一言で、周りを黙らせた。

いいな。と、羨ましさを覚えたことは確かにあった。

俺だって、好きで人を殺しているわけではないし、一度や二度くらい、誰かと笑い、話し合いながら帰宅したいと願ったことくらいある。

しかし、俺は罪を犯しているのだ。

俺にそんなことを願い権利などないのだ。

そう言い聞かせ、俺はいつも一人でいた。

「これはいい機会でしょう。”友達”を知ってみたらどうですか?私でもいいんですよ、バディとして知り合ったのですから難しいかもしれませんが、、。最初は偽りの関係でもいいんです。後々、距離を詰めていけば」

いいのだろうか。

偽りの関係からでも。

「いい、のかな、俺でも」

「友達くらいならいいでしょう」

「、、、じゃあ、アキラ。俺の友達になって」

これは俺にとって当然の一言だった。

偽りの関係からでも。友達になれるなら。

一番初めは友達を教えてくれたアキラがいい。

「、、私でもいいんですか」

「もちろん」

「ふっ、ではお願いします」

「ん」

バディがアキラと俺の関係性だった。

でも今は違うんだよな。

”友達”っていう関係性が俺らの仲にはある。

あぁ、友達がいるだけでこんなに胸の中が暖かいんだな。

初めての感情。新たなる未知の世界。

でも、俺らずっといることは叶わないんだ。

そう思うと俺の胸はズキッと痛む。


チャイムの鐘が鳴る。

昨日の予定だと、寮に戻り、ヴァイオリンや勉強をしようとしていたが、今日は違う。

「アキラ。行こ」

「えぇ、行きましょうか」

アキラの教室前まで足を運び、話をしながら生徒会室まで歩く。

内容は授業の内容であったり、テストの話であったり。

世間話とは何かわからないため学校の話が限定となるが、それでもよかった。

意味のなき話で会話を交わす。

それだけで俺は十分だった。

「コンコン、失礼します。副会長の四季凪アキラです」

「失礼します。一年三組、セラフ・ダズルガーデンです。渡会雲雀に呼ばれたので来ました」

先にアキラが挨拶し、それに合わせるように挨拶をする。

「よー!!セラフ!マジできてくれるとは思ってなかったからすげぇ嬉しい!!」

太陽だ。

そう思った。

眩しい笑顔に、元気な声、身振り手振り全てが明るく、輝かしい。

俺とは真反対な人間であることがすぐにわかる。

同じ、世界にいる人間なはずなのに。

「で、何か言いたいことあるの?」

「そうそう!俺ら友達になろうぜ〜!!」

とも、だち。

「あれ、珍しいメンツだね?」

渡会の言葉に返事を返す前に、奏斗が扉を開けてきた。

「奏斗、仕事しますよ」

「えぇ〜〜。セラフもせっかく遊びにきてるんだし!今日だけ!!」

「貴方、昨日も言ってたじゃないですか。仕事終わらせたら好きなだけお話しください」

「けち〜!!」

「うっせぇな。さっさと仕事しやがれ」

奏斗とアキラの会話は目を逸らしたくなるほど明るく、眩しく、輝かしい。

あれが”友達”というのだろうか。

「あ、でも、俺友達がどんなのか詳しく分かってなくて。アキラとは友達だけど、友達ってなに、、?」

渡会は、「う〜ん」と悩んでいる。

「そんなの簡単じゃない?」

と入ってきたのは奏斗だ。

「友達なんてなんでもいいんだよ。なんとなく、自分がいて楽しいって思えたらそれは友達!その友達に基準なんてないし、誰かに決められるものでもない。ただ、自分が楽しいって思える人が友達なんだよ」

ペンを手に持ちながら、奏斗は答えた。

一緒にいて楽しいと思える人、、、。

「いいこと言うじゃないですか。その通りですね」

「うん、そうだな。どう?セラフにとって俺はどんな人?」

渡会は、、。俺とは真逆の人間だ。

「渡会は、明るくて、元気なのに、やけに静かで、でも輝いていて、目を逸らしたくなるほどに、眩しい」

頬に何か伝わる感触がする。

口まで辿ったのか、口からは少し塩の味がした。

今日の俺を、昔の俺が見たらさぞかし驚くだろう。いや、嘘だ。と否定するに違いない。

友達に囲まれ、楽しい時間を過ごしているのだから。

俺は、今はここにいていいんだ。

俺はこの学校にいるときは、まだ楽しいと感じていいことにした。

今のうちに幸せを噛み締めておこう。

その幸せを感じられなくなる前に。

みんながいなくなる前に。


「セラ」

「何?奏斗」

数年が経ち、3年生の秋のとある日の帰り道。

特に何もなく、寮に帰ろうとしていたとき、奏斗が俺の名前を呼んだ。

「今日、散歩行こ」

「え、どうかしたの」

「別に、言いたいことがある」

「、、、わかった」

普段だったら明るい笑顔の奏斗が珍しく、真面目な顔をしてた。

何の話だろう。

奏斗。

俺でいいの?


「セラ。風が心地いいね」

「そうだね」

腐ビルの屋上。

そこからは綺麗な夜景が見えていた。

文明の利器が見えてくる。

眩しい。

本来なら月光だけで十分な夜の光をより眩しくてしまっているから、月の光は大して目立つことがない。

「、、何かあったんでしょ」

「、、、ないよ。今日は違う話」

「何」

奏斗は何でも抱え込みすぎだ。

少しくらい預けて欲しいと。

少しの間しか一緒にいてないが、そう思う。

同じ、世界の住民として。


とあるところに一人の男の子がいました。

その男の子は望んで生まれてきたわけではありませんでした。

やりたくないことも、やらなければならなくて、だからと言って親に逆らうこともできませんでした。

そんな中希望を与えてくれたのは、一人の友人でした。

同じ境遇の彼でしたが、自分よりも明るく、眩しく、輝いてる彼に男の子は憧れを持つようになり、自分も彼と一緒にいるうちにそのような性格に、彼と同じように人を明るくできるような人間に。

なっていたと思い込んでいたのでした。

彼が学校で出会ったのは、人に心を許さない一人の男の子。

自分は一人でいい。と決めつけていて、全てを背負ってしまうミミズクでした。

男の子は友人にしてもらったように、希望を与えたい。そう思い、話しかけたりするようになります。

しかし、彼は一向に心を許してくれません。

くれないはずだったのです。

彼の友人はまたもや、その男の子の心を溶かしました。

その、明るく、眩しく、輝いている笑顔で。

男の子は自分には人を救えないと、落ち込み、絶望します。

しかし、誰も慰めてくれないのです。

なぜならば。男の子は隠すのが上手だからです。

嘘だけは上手な男の子は誰からも気づかれずに、一人静かに泣いているのです。

誰か、自分を慰めてくれることを信じて。


これは、奏斗の物語だ。

渡会になりたかった奏斗の物語。

もしも、奏斗がこの世界の住民じゃなかったら、

奏斗は幸せだっただろうに。

「ねぇ、僕は逃げるよ。鎖を引きちぎって。逃げる選択肢を取る。セラ、一緒に行かない?」

俺にとって、許されない選択肢を表示してきた奏斗。

どうしよう。どうしよう。

「、、俺は行かないよ。ごめん。でも、奏斗は幸せになって。約束して、じゃないと俺は、奏斗が逃げるのを必死で妨害するから」

奏斗が幸せになるならいい。

でも、俺は行けないよ。

俺は、罪を償わないといけないから。

「いいの」

「うん」

「辛いことも全部、もう味わなくていいんだよ」

「でも、いけない」

「なんで」


「俺はここで必死に足掻き続けるよ。運命に。この人生の先に、希望があると信じて」


奏斗は、なんでっ。という表情をした。

奏斗はおそらく、俺がうん。ということを想像してたんだろうな。

「っ、後悔しないでよ」

「わかんないな、でも、多分俺みんなに出会えたから、もう幸せ者なんだよね」

奏斗が涙を流した。

そっか。

そんな風に乗って消えそうな声は、俺に届いてきた。

すごく、寂しく、弱い声だった。


桜の木が満開になる頃。

みんなが幸せそうな顔でいる、卒業式。

俺ら四人は体育館裏で集まっていた。

「セラ。本当にいいの」

「うん、もう決めたことだから」

「セラお。俺、まだ離れたくないよ」

「俺も。でも俺はここに残るよ」

「セラ夫。私悲しいですよ」

「俺も。お揃いだ」

やめてくれよ。

せっかく決めたのに。判断が鈍りそうになる。

「ねぇ、これ。みんなにあげる」

小さめの一つの花束。

薔薇の花束。

ピンクのバラを3本、黄色のバラの蕾を2本。

合計5本のバラの花束を奏斗にわたした。

「セ、セラお!!」

その意味に気づいたのか、雲雀は俺の名前を叫んだ。

そういえば、最近彼は花言葉について興味を持っていたな。と気づく。

元から知識のある奏斗と凪ちゃんは気づいていて、でも言葉にはしなかった。

「そういうことだから。じゃあね」

俺は3人に背中を向けて歩いた。

「待って!!セラ」

奏斗が呼んだ。

「僕ら!有名になるからっ!にじさんじっていうところにデビューする予定なんだ!だからっ」

「私たち待ってます!私は事務所も開くんです!『Room4s』っていう事務所。私ずっと待ってますからっ!」

「もしも、逃げ出したいって少しでも思ったら、きてくれよ!!俺らすごい歓迎するよっ!!」

3人の言葉に俺の心が揺らぎそうになる。

俺は振り返って3人の泣き顔を見て、手を振った。

涙を流しているのは気づかれていないだろうか。

「俺、隠れてるよ。みんなに見つからないように。隠れてみんなが暮らす世界を掃除してるよ。だから次会ったときは


『やっと見つけた』


そう言ってよね」

「「「もちろん!!」」」

涙で別れたこの日のことを、一生忘れることはないだろう。


あれから何年経っただろう。

俺は3人のことを見つけた。

卒業式から2年、後だろうか。

『にじさんじから新たに3名がデビュー!』

というYouTubeに見つけたサムネ。

そこには3人の姿があった。

よかった。

そう思ったのは、殺人の依頼直後だった。

服は血で汚れ、足元は死体が転がっている。

3人が幸せそうならそれでいいんだ。それで__。

俺はここでみんなが生きる世界を掃除しないとなんだよ。それが俺の仕事なんだから。

それでいいんだよ。

俺はその場にしゃがみ込んだ。


それからYouTubeでみんなのことを見ることがあった。

その中で偶然みていた3人のオフコラボの配信中。

なんかのゲームだったか、ボドゲだったか忘れてしまったがそのマスに、

『人生で一番後悔してることを話す』

というのがあった。

そのマスに奏斗が止まった。

そしてこういった。

『これかぁ、うん。これ多分ねひばとかアキラとかも同じ回答するんじゃないかな。

あのー、寄宿学校時代にね、とある友人、Sがいたんですよ。そのSは僕らと同じ人間で、とても冷たかったんだね。態度とか諸々。でも、心を許してくれたらすごいくらいに笑うの。笑顔ですげぇ楽しそうにすんの。そのSと一緒にいる時間ってのはすごい楽しかったんだけど、まぁ僕ら足抜けしたやん。でも、Sだけはするって選択肢選ばなかったんだよ。僕らだけ抜けて、、って来な感じで。最後の別れの時だから、卒業式だね。S、薔薇の花束渡しながら泣いてたんだよ。僕さぁ、ずっと思うんだよ。Sをもっと無理矢理にこっちに引っ張ってやれたらって。僕ら3人じゃなくて、4人だったかもしれないのにって。

ずっと後悔してる。次あったら必ずこっちに引っ張るって決めてる』

そうイケメンな言葉を言った。

『私も同じ回答しますねぇこれは』

『俺も俺も!!』

ごめんね。

次あってもみんなは気づかないよ。

今の俺、あの時と全く違うから。

全部、全部。

奏斗。雲雀。凪ちゃん。

お前らが幸せなら俺なんだってするから。

死んだっていいんだ。

だから、俺がそっちに行ってしまったらみんな死ぬ危険性あるんだよ。

だから、俺はここにいるからね。


今回の任務は情報を盗むだけ。

凪ちゃんと別れてから、俺は一人で任務をこなしている。

ルート確保も、情報を盗み出すのも、全部俺の仕事。

思っていたよりも警備が多く、身を隠すのに、空き部屋に隠れる。

「ガチャ」

扉が開かれる。

そして、閉じられる。

真っ暗闇。

同業者だろうか。

ナイフを手に持ち、隠れている机から目を出す。

そこには衝撃的な人物の姿があった。

「っ、、、」

「この気配は、、、」

「懐かしいな」

「何年振りでしょうか」

「「「セラ/セラお/セラ夫」」」

奏斗、雲雀、凪ちゃんっ。

「「「やっと見つけた」」」

そう言って、俺の目の前に手を差し出した。

なんで、わかるんだよ。

「なんでわかったの」

俺の今の姿はあの頃とは__。

「気配が一緒なんだよな。セラお」

「あと、雰囲気かなぁ、なんかわかった」

「わかります。感覚というか勘に近いですね」

そんな簡単に人は見分けられないはずなんだけどな、、、。

そう言って俺は立った。

昔と変わらない。みんなの笑顔。

みんなの髪色も、瞳の色も、気配も全部全部。

あの時と一緒。

「ねぇ、セラ。僕たちは、セラが今みたいに、髪色も黒くなって、瞳の色も黒い赤になったとしても、髪が伸びても、服装が黒いパーカーになっても、手にナイフを持っていても、殺意がむき出しだったとしても、見つけるから」

「うん。ずっとずっと探してた。セラおのこと。仕事の合間を縫って、情報を集めたり、してたんだよ。セラおに見つけてもらえやすいように頑張ってきたつもり」

「永遠にあなたのことを忘れることはないです。ずっとずっと貴方のことが気がかりでした。いろんなつてを使って探してたんです。今回も、貴方がくる可能性が高かったので、3人できたんですよ?」

俺のこと、探してた、、、?

「俺は、もう”セラフ・ダズルガーデン”じゃないんだ。俺に名前はもうないんだ。姿もだいぶ変わったでしょ?もう、あの日の時の俺じゃない。ごめんね」

ごめん、ごめん。

もう、あの時みたいに笑い合うことは叶わない。

「セラが、あの時僕らに幸せになって。って言ったんでしょ?だったら、セラも幸せになってよ」

「俺は、いいよ。俺は。もう長くないし」

ゲホッ。

そう言って、俺は血を吐き出した。

「セ、ラ、、?」

もう、俺は長くないから。

なんとなくだった。

彼の腕を掴み、彼を引き留めたのは。

最後を見届けて欲しかったのだろうか。

俺が存在していたことを、奏斗たちに証明して欲しかった。

「セラ、、?」

奏斗は驚いていた。

俺の口からは、言いたくないことが漏れていた。

「行かないで」


「セラお、、」

「セラ夫、、?」

左の腹が熱い。

右手が血で滲む。

「救急車っ!」

「いらないよ。俺はもう、助からない、から」

「でもっ」

「いらない。奏斗たちが最後までいてくれたら」

涙で前が見えない。

みんなは俺を抱きしめてくれた。力強く。

俺が上に行くのを妨害するように。

「痛いよぉ、、」

笑うように、言った。

俺は今幸せ者だ。

大切な人に囲まれて死ぬことができるのだから。

「待ってて。僕らも行くから」

「おじいちゃんになったら来てねぇ、俺そうだなぁ、エージェントでもしてようかな。何でも屋みたいな」

「地獄でやったら繁盛しそうですね。今すぐ行ったらダメでしょうか?」

「予約で埋まっちゃった。凪ちゃんがおじいちゃんになったら予約入れとくぅ」

「俺、ご飯屋開きたいから今行くな」

「だぁめ。おじいちゃんになったら俺疲れてるからご飯作りに来てねぇ」

みんなの泣き声が聞こえる。

「今までありがt____」

こうして”セラフ・ダズルガーデン”の物語は幕を閉じた。



「久しぶり。セラ」

もう彼の魂はこの世にない。

彼の命日。

毎年この日は必ず、どんな用事があろうと、仕事があろうと3人で集まって墓参りをしに行く。

毎年同じ花束を持って。

15本の薔薇の花束。

黄色の薔薇を7本。ピンクの薔薇を8本。

少し大きめのバラの花束。

花束を墓石の前に置き、手をあわせる。

涙が自然と流れてくる。

「セラおは地獄で待ってるよね?」

「待ってるでしょ。エージェントしてるらしいよ」

「今世でもできてたでしょうに」

数年一緒にいただけの友人。

そういえばそうだ。

しかし、セラは特別だった。

彼が生き絶える時のあの幸せそうな泣き顔。

あの表情を忘れることは永遠にないだろう。

なぁ、セラ。

もしも、僕らが、あの日。

無理やりにでも、セラの腕を引っ張っていたら、セラは。

あんな結末を迎えずに済んだのだろうか。

4人で幸せに笑うことができていたのだろうか。

ごめんね。

救えなくてごめんね。

もう彼には届かない。

小さき謝罪は彼の墓石が受け止めていた。



「セラ」

もう聞かないだろう。そう思っていた声が耳に響く。

「か、なと」

「セラお」

「セラ夫」

「雲雀、凪ちゃんっ!」

姿はもうおじいちゃんだった。

俺は死んだ時と全く変わらないのに。

俺は夢中だった。

3人に抱きついた。

「久しぶりっ、待ってたんだよ」

俺は涙を流していた。

「ごめん、待たせたね」

「約束は守ったぞ」

「おじいちゃんになったので来ました」

今はすっかりおじいちゃんな3人が、俺にはあの時の3人の姿に見えた。

四人で涙を流した。

そして、地獄の門を潜っていった。

あの日、彼らが学校の校門を潜ったように。

しかし、あの頃と一つ違うところがある。

もう彼らが離れ離れになることはないだろう。

永遠に続いていくのだ。彼らの絆は。

どこにいても、いつになっても。

途切れることは無くなったのだ。


今でも俺の墓石には花束が置いてあるらしい。

もうすっかり枯れ果ててしまい、2本がなくなった。

しわしわの13本の薔薇の花束が、今でも、置かれてある。

誰も気づくことなく。綺麗に消え去っていく彼らの痕跡。

彼らの罪が地獄で償われても、新たにこの世界に命が落とされても、どこに彼らがいたとしても。

彼らの絆は永遠に続いていく。この世界が滅びるまで__。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

花言葉


ピンクの薔薇 ・感謝

黄色の薔薇の蕾・笑って別れましょう

5本の花束 ・あなたに出会えてよかった


ピンクの薔薇 ・感謝

黄色の薔薇 ・友情

15本の薔薇の花束・ごめん


13本の薔薇・”永遠の友情”

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