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(……何だかとっても悔しいのですっ!)
いつもいつも……それこそ中だろうが外だろうがお構いなしに一杯一杯の私。時折こんな風に修太郎さんに余裕綽々な態度を見せられると、自分ばかりが彼のことを好きみたいに思えてきて、モヤモヤするのと同時に、正直たまらなく寂しくなる……。
「私、まだ健二さんとお話できていません。それに……両親にも健二さん以外に好きなかたができたこと、ちゃんと伝えられていないんです。なので……一度通過していただけると助かります。――送っていただいておきながら勝手を言って、本当にすみません」
自分ばかりがあたふたとしているみたいで、気持ちが晴れなかったから。
半ば意図的に健二さんのお名前は二度も出しておきながら、逆に修太郎さんのお名前は一度も呼ばずにぼかしてしまった。
(まだ完全に修太郎さんと恋人にはなり切れていないのだと、わざわざ暗ににおわせるようなこんな言い方。――私は本当に意地悪なのです)
修太郎さんは、健二さんのお名前を出した瞬間よりも、ご自身のお名前を誤魔化された時のほうが、より強く反応なさって……。
「っ、修、太郎さん?」
痛いくらいに結んだままの手指をギュッとつかまれたことに驚いて、私は眉をしかめて彼の名前を呼ぶ。
「健二とは、ちゃんと話をつけるご予定なんですよね?」
いつの間にか自宅の前は通り過ぎていて――ひとつ先の角を曲がった所で車を停車なさった修太郎さんが、前方を見据えたまま、静かな声音でそう聞いていらした。
修太郎さんが、眼鏡を外してダッシュボードにお置きになられたのを見て、何故か心がざわざわとして彼から目が離せなくなる。
発せられたお声は、静かで落ち着いていらしたけれど、どこかピリピリとした鋭さを孕んでいて……私は彼の雰囲気に気圧されて怯んでしまい、修太郎さんの質問にすぐには応えられなかった。
「日織さん?」
そのことに焦れたように修太郎さんが私の名前をお呼びになって……。その声に責められているように感じた私は、修太郎さんのほうを見つめたまま固まってしまう。
と、カチャンという小さな金属音がした直後、結ばれていた右手をグイッと引き上げられて、助手席シートに押し付けられた。そのことに驚いて修太郎さんのほうを見たと同時に助手席側へ身体を乗り出してこられた彼にあごをとらえられて――。
「――んんっ」
何がなんだか分からないうちに、私は修太郎さんに唇をふさがれていた。
絡められる舌に訳もわからずひとしきり翻弄されてから、口の端からあふれて首筋を伝った唾液の感触にゾクリ、と身体を震わせる。
「……ふ、ぁっ」
鼻から抜けるような吐息が漏れてからやっと、修太郎さんに噛み付くようなキスされているのだと、頭が追いついた。
私に覆いかぶさるようにのし掛かる修太郎さんの体温に、私はこれが夢なんかではなく、現実なのだと思い知る。
それとともに、ここが家の近くの路地だと思い出した私は、
「――はぁっ、んっ、……しゅ、たろぉさんっ、ヤメ……っ!」
必死であごをとらえる右手から逃れて顔をそらしてから、彼の胸元へと封じられていない左手をつく。そうして修太郎さんの身体を押し戻そうと試みるけれど、全然びくともしない。
「修太、郎、さんっ。今夜っ! 今夜、必ず健二さんにお電話しますからっ。……だからもうこれ以上はっ」
近所の誰かに見られてしまったら、と思うと怖くてたまらなかった。
結婚もしていない私が、あろうことか許婚ですらない男性と、車中で破廉恥な行為に及んでいたとか言われてしまったら……。それがお父様やお母様のお耳に入ってしまったら……っ! 絶対に二人を悲しませてしまう。
それだけは嫌だった。
私は涙目で彼を見上げて、必死で言葉をつむいだ。
「……お願いなのですっ」
再度、懇願するようにそう吐き出したら、あごの方へ伸ばされていた修太郎さんの手に、こぼれ落ちた涙がポタリと落ちてはじけ散った。その瞬間、修太郎さんはハッとしたように動きを止められて……縫いとめていた私の右手を慌ててお放しになる。
彼に押さえられていた右手は、強い力でシートに押し付けられたため、こすれて赤くなってジンジンと痛んだ。
コメント
2件
ひおりちゃん、煽ったらダメだよー💦
みぅです🤍🥀 今回のエピソード、すごくドキドキしました…! 日織さんの「悔しさ」からあえて健二さんの名前を出して修太郎さんを試すような言い方、それが逆に修太郎さんの嫉妬を引き出しちゃって、車内のピリついた空気に一気に引き込まれました。あの、眼鏡外す仕草とか、噛み付くようなキス…普段は余裕綽々な修太郎さんの「焦り」が垣間見えて、逆に萌えました。でも最後の涙で我に返る修太郎さんも良かった…続きが気になります!
#極道
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