kn「っ…なぁシャオロン」
sha「……」
kn「ここから先…ヤバいオーラがすんねんけど…」
sha「奇遇やな。俺も同じや……」ガタガタガタガタ
行き止まりの見えない渡り廊下の先、なにか近寄ってはいけないような雰囲気をピリピリと肌で感じ、息を飲み込む2人。寒くもない熱くもないこの館は迷路のように構造がぐちゃぐちゃで、何度同じ道を回ったことか。しかし、ここはどうやら罠…というわけではないらしい。特に害があるものは置かれておらず、誰か敵がいるわけでもない。ただ、人間意図が読めないもの程怖いものはないのだ。
kn「ここ…まだ行ったことない…よな…」
sha「………おう……」
kn「戦闘態勢になっとけ…背中合わせで行くぞ…」
sha「了解…」
グッ…っとシャベルを握る力を強めるシャオロン。コネシマも続き隠し持っていた小柄ナイフに手をかける。
ジリジリと奥の部屋へ進んでいくと、どこからか音がした。
ガタンッ
sha「!?」ビクッ
kn「な…なんや…」
床を這うような音に耳を傾ける。
kn「この音…蛇…?」
sha「…みたいやな……」ゴクリ…
「シャーッ」
音のした方向には赤い目をした白い蛇が花瓶に巻き付きながらこちらを見ていた。
kn「…」
sha「殺るか…?」
kn「………どうすれば…」
すると、
kn「!?!?シャオロン!!あ…あれ!!」
sha「は!?聞いてない!聞いてない!」
ゾロゾロとあちこちから沸くようにでてくる白い蛇に思わず身震いが起きる。一気に鳥肌がたって驚きのあまり声も出ない。
sha「なぁなぁなぁなぁ!?!?もう殺さないと流石に俺らヤバいって!!」
kn「落ち着けシャオロン。下手にさっきの主の怒りをかったらどうするんや!!」
そうはいっても…と涙目で呟くシャオロン。コネシマはちらりと蛇たちを見る。何匹いるのだろう。数え切れない量の蛇がこちらをじーっと見て動かない。
kn「……とにかく急がな!ほら行くで!シャオロン!!」
sha「うぅ…」
蛇たちを踏まないように渡り廊下を一気に駆け抜け、奥の部屋へと急ぐ。
sha「うわぁぁ!?蛇たちついてきとる!!」
kn「なんやとぉぉぉ!?!?」
sha「キモチワルイ!キモチワルイ!!!!大先生より酷い!!」
kn「wwwwwww」
sha「笑ってる場合ちゃうよぉぉぉぉ…」
もう既に泣きそうなシャオロン。ただしコネシマも嫌な予感はしていた。
kn(これ…後見ない方がええな…)ゾワッ…
sha「ひぃぃぃ……」
kn「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
sha「ひぃぃぃ…」
kn「っ…大丈夫…」
sha「蛇が一万匹…蛇が二万匹…」ガタガタ
kn「…じゃ、なさそうやな。おーい、起きろー?」
sha「コネシマぁぁ…」
情けない声を出しながら座り込むシャオロン。既に顔は真っ青で明らかに限界が近いように見える。
sha「もう窓でも割って逃げようや…!ここ絶対おかしいって……このまま俺殺されたくないわ…」プルプル
kn「そう言われても…」
主を名乗ったあの男の顔、明らかに俺達人間とは違うなにかを感じていた。逃げれないのは明確だろう。
zm「遅い。」
kn「なっ!?」
sha「うぇっ!?」
zm「もてなす準備は終わった。はよついてこい。」
き…気づかなかった…と言うコネシマ。音もなく背後から急に現れたゾムは相変わらず真顔で、こちらを見据えている。
sha「いつからここに…」
zm「ついさっきや。ほら、はよ急がないと紅茶が冷めるやろ。」
そう言って遠のいていくゾムの背中。俺らは一度顔を見合わせる。
kn「行くか…」
sha「はぁ!?もてなすって言って拷問とかされたらどうするんや!!」
kn「とにかく…行くしかないやろ…」
zm「速くしろ。のろいぞ。」
そう言ってこちらに振り返るゾムに大袈裟に2人は肩を揺らす。
kn「…俺は行くから…」
sha「なっ!?…うぅ…1人にしないでやぁ…」
そう言って2人はゾムのあとに続いた。
zm「好きな席に座れ。」
案内されたのは大きな客室だった。豪華な椅子に豪華な机。シャンデリアは落ち着いた煌びやかな印象を放っており、随分センスがいい。
出されたのはショートケーキ一切れと爽やかな香りのするレモンティー。一気に腹の虫が疼く。
kn「い…いただきます。」
シャオロンは相変わらず小刻みに震えたまま動かずにそのケーキを見ていた。コネシマは少し覚悟を決め、一口目を頬張る。隣から「勇者…」とシャオロンが言っているのをスルーしてゆっくり咀嚼をする。なにかとオスマンから毒味の仕方を教わっており、聞いた通りに毒味を進める。しかし、特に毒が入っているわけでもないらしく、落ち着いた甘みが口に広がっていく。
kn「……美味い…」
sha「なっ…!?」
zm「…」
甘過ぎない程よい生クリームにふんわりとした生地。イチゴは食べ頃のものなのかかなり美味しい。
そんな事を考えるコネシマを横目に、シャオロンも恐る恐るショートケーキ一を口に運ぶ。ほんとにチマっとした量だが、口に含んだ途端、彼も気に入ったのかコネシマより大きく口を開けてバクバクと食べていく。先程の疲労感が一気に押し寄せてきたのか甘いものが体に染みる。
zm「……それと一緒に紅茶を飲むのがオススメや」
すると、こちらの様子を黙って見ていたゾムが口を開いた。そう言ってゾムは角砂糖の入った容器を差し出す。
シャオロンは先程の抵抗感が全て吹っ切れたのか嬉しそうに角砂糖を1つ紅茶に入れ、くるくると回していく。
コネシマはそれに続いてシャオロンと同じように角砂糖を1つもらい、紅茶に入れた。
爽やかな香りが漂い、2人は毒味をするのも忘れたままそれを喉に流す。
kn「……美味しい……紅茶ってこんなにおいしいんや…」
sha「俺も初めて知った…オスマンが飲んでたのは甘過ぎて駄目だったけど…こんなに爽やかなものもあるんやな…」
zm「レモンは裏庭から取れたものや。よければ数個持ち帰るか?」
思いもよらぬ話に2人は顔をもう一度見合わせる
sha(なんか…普通にいい人やな…)
kn(…ヤバそうな人だったんやけど…勘違いやったかな…)
zm「いらないか?」
kn「あっ…!いります、いります!」
zm「そうか…では、ここで待っていてほしい。基本自由にしてもらってええけど、迷わないようにな。」
そう言って立ち上がり、部屋を出て行くゾムに2人は肩の力が一気に抜け出る。
kn「なんか…いい奴やな。」
sha「はぁぁ…怖かった…」グデーッ
kn「www」
sha「笑い事ちゃうよ…色んな事があったやん…いきなり声が聞こえなくなったり…大量の蛇に追いかけられたり…」
kn「あれ結局なんやったんやろ…」
sha「不思議なこともあるもんやな…」
そんな話に花を咲かせ、気づけば机の上のケーキも三分の一にさしかかった時、
zm「ほら、取ってきた。」
手さげ一杯に詰められたレモンをゾムに渡され、シャオロンとコネシマは目を輝かせる
zm「……そろそろ帰んないと皆が心配するで。」
sha「!せやな。」
そう言って2人はケーキを速めに頬張り、紅茶を流し込んだ。
kn「いやー、まさかこんなに玄関と近かったとは…」
sha「ずっっと間違った方向に進んでたんやな…」
zm「ほら、行くで。」
そう言って片手でなんなく扉を開けるゾム。
kn「え……?」
sha「は……?」
zm「?どうした、忘れ物か?」
kn「い…いや…何でもない。」
来るときバカみたいに重かった扉を少年が片手で開いている。その事実に2人は困惑したように目を丸くする。
zm「………よし。しっかり捕まってろよ。」
ギュッと握り閉められた手。不思議そうに首を傾げるシャオロン。
sha「なんやこれ…」
zm「目、瞑れ。えぐり取られたくないなら」
sha「ひっ…」
俺達は目を瞑った。
zm「絶対に離すなよ…」
kn「……もう……ええか…?」
返事はない。ただ、隣で聞こえるシャオロンの息づかいに、ゆっくりと目を開く。
そこは我々軍の裏庭だった。思いもよらない景色に、思わず隣にいるシャオロンの頬をひっぱたく。
sha「痛っ!?!?!?」
kn「しゃ、しゃしゃしゃしゃシャオロン!!!!!!」
sha「あ…あれ…!?」
見慣れた光景に先程までのことが夢だったのではと錯覚を起こしそうなほど不思議だった。しかし、手に握られた手さげとそれに詰められたよい香りのするレモンが、あの時の現実味をひきたたせる。その時、
em「あ!!いましたよコネシマとシャオロン!!!!!!」
エーミールが驚いたようにに裏庭に入ってきていた。それに続いてグルッペンとトントンも顔を覗かせる。
tn「お前ら戦争サボってなに遊んでん…」
em「本当ですよ…」
gr「ふむ…なにかあったのか?」
sha「あ、あのな!ちょっとガバッて逃げてたら不思議な館があって…」
tn「はぁ…?」
kn「そこにいたゾムって奴にもてなされたんや…」
gr「?夢でも見てたんじゃないのか?」
em「!」
em「あっあの!そのゾムって人、鶯色の服を着てませんでしたか!?」
kn「うぉ!?お、おう……フードのついたマントみたいなの着てたな…」
em「まさか…!!まさか本当にいたんですか!?」
sha「だからそうだって…」
em「う…噂は本当だったんですね…!」
1人で子供のようにキャッキャとはしゃぐエーミールに皆は眉を顰める。
tn「エミさんそのゾムって結局なんなん?」
em「よくぞ聞いてくれました!ゾムって言うのはですね…大昔の神様の名前です!!」
kn「…?じゃああいつは神様だったんか?」
em「いえ、多分貴方たちが会ったのは…」
「大蛇の末裔ですよ。」
コメント
4件
絵うまぁぁ……
初コメです。絵が上手すぎますね
フォロー失礼しますぅぅぅぅ