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46 - 第46話 君と僕の酒物語 冴香&龍雅編

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2023年06月24日

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海を管理官の居る場所まで案内して、後ろからいきなり襲われた時の怪我がよくなり、俺が店の準備をしていた時、珍しい客が二人来た。

「流。二人で」

松村が店の扉を開けて人差し指と中指を立てた。

相変わらず端整な見た目の松村の後ろには、彼と変わらないくらいの身長の冴香が居た。

彼に手を引かれている冴香の手には包帯が巻き付けてあった。

「べ、さ、冴香。お前、その手どうしたんだよ?」

「いろいろあったの。ねえ、今日は管理官に休むって言っといて」

「あ、ああ。分かった」

俺は棚から一つコップを取り出すと、松村の前に置いた。

レジの隣にある、千円札が入れているグラスの向こうに松村の顔が歪んで見えた。

「今日は誰が来たの?」

「雪だよ」

俺が言うと、冴香は感心するように頬杖をついた。

「大層なこと。あんな怪我しといてまだ仕事するのね」

「んで、注文」

俺がカウンターに両手を置いて、体重をかけると、冴香は気が付いたように俺に言った。

「ああ、松村にカシスソーダを」

松村は少し驚いた顔を一瞬見せると、彼女を疑るように冴香の方を見た。

「なんか企んでんのか?」

「いいや、別に」

冴香は松村から視線を逸らした。

「ああそう」

松村は不思議に思いながら、冴香の方を指さした。

「じゃあ、ギムレットで」

俺はカクテルグラスを取り出すと、冴香の前に置いた。

不器用な二人だなと思いつつ、俺は二人の姿を見た。

俺は冷蔵庫から酒を取り出すと、カウンターに置いた。

時間は夜の八時。

部活は終わり、もう帰っている時間だ。

雪はまだ管理官と話している。

無駄に薄暗いこのバーの照明はどうにかならないものだろうか。

冷蔵庫は明るくて見やすいが、レジに入れてある金が見づらいんだよ。

……しかし、その薄暗さが不思議と似合うのが、この二人だ。

学年でもトップクラスで身長が高く、色気のある二人だ。

この二人が本当に酒を飲んでいても不思議じゃないように思える。

静かな店内の中で、冴香がゆっくり口を開いた。

「今日は、ありがとう」

「ああ、いいよ」

俺はカウンターに置いたカシスソーダのボトルを手に取ると、松村の前に置いたグラスにカシスソーダを注いだ。

「サンキュ」

そしてもう一つギムレットのボトルを手に取り、冴香の前のカクテルグラスに注いだ。

カシスソーダの酒言葉は、『あなたは魅力的』。

一方でギムレットの酒言葉は『勇気を出して』。

全くかみ合っていない会話だな。

「カシスソーダって、甘酸っぱいんだな」

「まあ……うん」

冴香は松村から顔を逸らしたままだった。

冴香はグラスを手に取り、口まで運ぶと、言った。

「ちょっと酸っぱい」

俺は二人のもどかしい距離感に蕁麻疹が出そうになる。

素直にならない彼女の彼への伝え方か、はたまた、意味を知らなかったのか。

松村の勇気を出しては、どういう意味だろう。

「なあ、冴香。勝つには勇気がいる。お前、分かってるだろう」

「何の話?」

「お前さ、今日あったんだろ?敵になる男に」

「……」

「そんなことを殺し屋に言うのは愚行よ。言わなくたって分かってる」

冴香は、カクテルを一気に飲むと、席を立ちあがった。

松村はそれをまねるように一気飲みし、財布を開け立ち上がった。

「俺が払おう」

「悪いわね」

冴香は、松村に背を向けると、出入り口から出て行った。

「松村。お前、冴香の事、どう思ってる?」

「別に。大したこと思ってないが、まあ、死んでほしいとは思わないな」

松村は千円を取り出すと、隣に置いてあったグラスに丸めて入れた。

「じゃ」

彼は財布をしまうと、出て行った。

サジェスのメンバー用に置いておいたグラスに無造作に入れてある、松村の千円札を見て、あほらしくて、笑けてしまった。

しかし、どうしても悲しそうに見えてしまった、親友の後ろ姿。

俺は後にその背中の意味を知ることになる。

「ふぁあ~」

バックヤードから出てきたのはリュゼだ。

「お?グラスが二つある。誰か来てたんだな」

「ああ。酒で会話して帰ってったよ」

「なんだそれ。比喩?詩人か?」

雪は馬鹿にしたように、俺の顔を見た。

「じゃあ、あたしも一杯飲もうかな」

雪は松村の座っていた場所に座ると、酒を一つ頼んだ。

「ブラッド・アンド・サンドで」

俺は冴香の持っていたカクテルグラスに、それを注いだ。

酒言葉は、『切なさが止まらない』。

さっきの二人を表現するような酒を頼んで、一瞬、さっきの会話を聞いているのかと思ってしまった。

雪はそれを一気飲みすると、「複雑な味だな」とつぶやいて、席を立った。

「じゃ、今日もツケで」

雪はそう言ってここを出て行った。

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