❤️💙💛
💛視点
「……はぁ、」
スタジオの外の裏に備えられたベンチに座り、そうため息を一つ零す。もうここに来てどれくらいこうしているだろうか。元貴達を待たせている、そう分かっているけど、なんだか身体が重くて上手く動かない。道中自販機で購入した温まっていたお茶も、すっかり冷めてしまった。
「良いことないなぁ……、」
最近は不運が立て続き、音楽も上手くいかない。今日の曲だって、つい朝包丁で切れてしまった指のせいで全然上手く弾けない。ぶつけた足の痣だって、ズキズキと鈍く痛む。まさに満身創痍、若井達にも迷惑をかけてしまっている。
「……行かなきゃ。」
自分に言い聞かせるよう呟き、何とか立ち上がろうと身体を動かしてみるが、やはり気が進まない。こんなにも身体が拒否をしているなら、少しくらい休んでもいいんじゃないか、なんて考えが過ぎり、もう一度座り直してみる。けれど、結局最後に苦しむのは未来の自分だ。
「………頑張ろ!!!!!」
「声でか。」
憂鬱な気持ちを吹き飛ばそうと大きな声で発した言葉に、後ろから誰かが返してきた。驚いて慌てて目を向けると、そこには何か小さい容器を片手に立っている元貴が居た。
「、!?も、元貴……!ごめん、すぐ行くね!」
「あー、いや、早く来いって言いに来た訳じゃないから。今スタッフさんたちもみんな休憩行ってるから、暫く帰ってこないよ。」
「…、そっか。」
不幸中の幸いか、もう少しだけ休んでいられるらしい。やけに天気のいい青空に、息を吐き、深く呼吸をする。休憩が終わるまでに何とかこの暗い気持ちをどうにかしないと。
「涼ちゃんシャボン玉好き?」
「え?」
いつの間にか隣に座っていた元貴から掛けられた脈略のない質問に、困惑した声が零れる。そんな僕に構うことなく、左手に持っていた小さい棒状のものを右手に持っていた容器に浅く入れ、取り出したそれの先端に口付けた。
「……なんか懐かしいね。」
子供の頃を思い出すような道具たちに、静かに呟く。そんな僕の言葉に目線を向けた元貴が、優しく微笑んで軽く頷いてくれた。そして、ふっ、と息を吹いた元貴の咥えていた吹き具から、虹を映す綺麗な透明な丸が沢山出てきた。ふわりとふわりと自由に飛んでいく姿に、視線が釘付けになる。
「…綺麗、!久しぶりに見たかもシャボン玉。」
「久しぶりなんだ?涼ちゃん1人でシャボン玉してそうなイメージだけど。」
「どういうイメージなの!!」
無邪気な笑い声をあげながら、もう一度液体に道具を浸した元貴に、取り出した吹き具を手渡される。流れるままにそれを咥え、上手く加減が分からぬまま強く息を吐けば、シャボン玉は出ずに、液体だけが飛び散ってしまった。
「涼ちゃん、それフルートじゃないよ。」
「……分かってるし。」
「もっと優しく吹くんだよ。俺がお手本見せてあげる。」
何故かドヤ顔の元貴に道具を返せば、慣れた手つきで一連の動作を行った元貴の吹き具から先程よりも量の多いシャボン玉が出てきた。あまり風のない今日は、風に流れていくことなく、僕たちの目の前でふわふわと宙に舞い続ける。
「これプロ名乗れるよ。ほらビギナー涼ちゃん、やってみて。」
「な、……僕だってやろうと思えばできるから!」
しっかりと上手にシャボン玉を作れた元貴にムッ、として、差し出された吹き具を受け取って、一回目よりも丁寧な手つきで液に浸した。
「……多すぎもダメだもんね、このくらいかな?」
「そこ拘るんだ??」
良い感じの量を纏えた道具を咥え、そっと、酸素を与えるように優しく息を吹き込む。すると、量は少なくとも、元貴と同じように沢山のシャボン玉が出てきた。すっかり周りはシャボン玉だらけで、表面に反射した虹色が僕の瞳にキラキラと映る。
「どう!!僕だってやれば出来るんだからね!」
「シャボン玉でそんなドヤる人初めて見た。」
「、、元貴だってドヤ顔してたから、!」
そんな会話を繰り返していた時、後ろの方から誰かの足音が聞こえてきた。振り向いた元貴に釣られて視線を向けると、何故かおもちゃのカメラの様なものを持った若井が居た。
「買ってきたのそれ?」
「そう、すごくねこれ?」
「……、??」
片手に持っていたカメラを自慢げに見せびらかしながら進んでいく会話が分からず、ブルー調のそれをじっ、と見つめてみる。
「で、涼ちゃんは?もうシャボン玉した系?」
「あ、うん…、!元貴に貸して貰った。」
「もっかいやってよ。写真撮る。」
そう言いカメラを構えた若井の姿に首を傾げる。今のおもちゃは実際に写真を撮れるほど凄いんだろうか、そう疑問に思いながらも、先程と同じように液につけ、吹き具を口に咥える。
「あ、…ちょっと近いかこれ。」
「……???」
何かブツブツと言いながら3歩後ろに下がった若井に、隣から元貴の微かな笑い声が聞こえる。
「はい、涼ちゃん!吹いて!」
若井の掛け声に合わせ、ふっ、と息を吹く。その瞬間、若井の手に持たれていたカメラが小さく点滅し、レンズの部分からシャボン玉を出した。僕の作ったシャボン玉と交わり、瞬く間に辺りを満たしていく。
「わ、……それシャボン玉だったんだ?」
「そう!凄くないこれ?ちゃんと光るんだよ。」
おもちゃを自慢する子供のように、何度もパシャパシャとボタンを押してシャボン玉を出す様子に笑みが零れる。隣で共に笑っていた元貴が、ふと質問を投げかけた。
「ちなみにそれいくら?」
「1000円!!!」
「俺の10倍辞めて。そんなガチって来なくていいから。」
「涼ちゃんが元気ないって言うから本気で来たんじゃん。」
突然出てきた自分の名前に、ビクリと肩が跳ねる。まさか若井に僕の心を悟られていたとは。なるべく態度に出さないように努力したつもりだったけれど、どこかでバレてしまっていたらしい。
「ねえ、涼ちゃん。」
少しだけ低くなった元貴の声。勝手に体が身構えるのは、今までの経験からだろうか。前だって、「1人で抱え込んじゃダメだから。俺たち2人が居るでしょ。」と小一時間くらいお叱りを受けてしまった。色んな感情が混ざり合い、泣きながら若井に抱きついた苦い思い出がある。嫌だな、なんて少しだけ思ってしまった自分を誤魔化すよう、視線を下に落とす。
「……頼ってよ。」
元貴から呟かれた短い言葉に、思わず顔をあげる。いつの間にか側まで来ていた若井が、にこりと薄く微笑んでくれた。いつもとは違う、元貴からの言葉。たった5文字のはずなのに、それがやけに心に染みる。
「…っ、ちょっと手洗ってくるね、!」
これ以上ここに居たら涙が零れてしまいそうで、適当な口実を付けてベンチを立ち上がる。なるべく上を向いて、涙が落ちないように歩みを進めた。
「…………っは、なんか目覚めた感じ、」
蛇口から出る冷たい水で顔を洗い、暗い気持ちのリセットを試みる。ずっと1人で抱え込んでしまっていてもしょうがない。何度も元貴が言葉をかけてくれているのに、それを避けていたのは僕だ。
「…よし。」
ポケットに入れていたハンカチで顔を拭き、深呼吸する。大丈夫、僕なら。
「どんな時もLovi’n you?」
「当たり前にあーいにじゅ」
「何それ馬鹿っぽい。」
「めくるめく時代の中 花を育ててる〜♪」
2人のいる元へと近づいたとき、微かに会話が聞こえた。どうやら元貴と若井が歌を歌っているらしい。2人でベンチに横並びに座りながら、シャボン玉を吹いて歌を歌い合っている。
「どーうか枯ーれーないよーに♪」
何とも微笑ましい状況に、ポケットから取りだしたスマホでカメラを向ける。
「注ぎ続けるんだ愛のすーべーて♪」
そう歌った若井が、持っていたおもちゃのカメラのシャッターを押した。それにつられて、僕もカメラのボタンを押す。パシャリと響いた乾いた音。驚いた顔でこちらを見た2人と瞳が合った。
「ねえ、2人とも。」
手に握られていたスマホをしまい、2人の近くへと歩み寄る。まだ消えずに残っていたシャボン玉が、道を開けるよう、空を目指してふわりと浮いて行った。屋根よりも高く、不思議と何処までも飛んでいく様子に、深く息を吐く。そして、座ったまま僕を見上げる二人に腕を広げる。一瞬驚いたように目を見開いた若井が、直ぐに意図を察して立ち上がった。そして、僕の求めていた通り、強く、ぎゅっ、と抱き締めてくれた。
「元貴も、来て。」
座ったままの元貴に手招きをすると、こくりと小さく頷いた後、僕の視界の後ろへと消えてしまった。困惑するのも束の間、直ぐに後ろから暖かい温もりが抱きついてきた。
「涼ちゃんだーーいすき。」
「えへへ……、僕もだよ。」
後ろから聞こえるふわふわとした声に、思わず頬が緩む。言葉なくとも通じ合える、この特別な空間。けれど、やはり言葉で与えられる愛情というのは、なんとも幸せな気持ちになれる。
「若井は?僕のことすき、?」
「…………だいすき。」
元貴とはまた違う反応が愛おしく、先程よりも強く抱きしめる。苦しいよ涼ちゃん、と言いながらも抱き締め返してくれる若井が、僕も大好きだ。今まで抱えていた憂鬱がすっかり消え、心が幸せで満たされる。2人からの愛情を受け取った証に、精一杯の愛を込めて言葉を紡ぐ。
「若井も元貴も、僕の中の1番だよ。ずーーっとだいすき。」
あなたにあげるこの僕の全て
コメント
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可愛い…樒様の物語読んでるだけで頭良くなる気がします!
また❤️💙💛のお話ですね!!最高です…😇💞私も最近1人でシャボン玉してたので少し似てて嬉しいです🪄🫧涼ちゃんドヤ顔好きすぎます🤭若井さんも涼ちゃんのためにカメラ型のシャボン玉製造機?買ってきてて涼ちゃんの事元気づけようとしてるの最高にcuteですね💘😚最後みんなでLove me love you歌ってるの尊い🤦♀️💓大好きって言い合ってるの本当好きすぎますわ…😇💘💘