テラーノベル
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どれくらい眠っていたのかはわからない。
夢も見なかった。
ただ、何もない暗闇の中をずっと漂っていた気がする。
気づけば、カーテンの隙間から光が差し込んでいて、
まぶしさに顔をしかめた。
まだ、生きていた。
まだ、終わっていなかった。
頭がぼんやりしている。
体は重い。
喉が乾いて、声が出なかった。
起き上がろうとしたけど、
体が動かない。
いや、動かしたくないだけかもしれない。
そのとき、
玄関のチャイムが鳴った。
一瞬、幻聴かと思った。
だって、こんな場所に誰が来る?
宅配も頼んでいないし、
もう何日も人と連絡を取っていないのに。
鳴りやまないチャイム。
…本当に、誰かが来てる。
無視しようと思った。
でも、しばらくしてから、
聞き慣れた声がドア越しに響いた。
「……元貴、いるんでしょ」
心臓が跳ねた。
その声だった。
若井だった。
たまにしか連絡をよこさないくせに、
不思議と、どこか“見透かしてくる”若井だった。
「来た。…ごめん、勝手に」
黙っていた。
でも、何かが揺れた。
「返事ないけど……。
それでも、なんか、嫌な予感したんだよ」
その声が、少しだけ震えていた。
「勝手に心配して、勝手に来た。
でも、怒られてもいいから、
……無事かどうかだけ、顔が見たい」
ドアの向こうのその声に、
何かが、確かに反応した。
目から、音もなく涙がこぼれた。
理由なんて、わからない。
ただ、ずっと張り詰めていた何かが、
その声で、崩れた。
立ち上がった。
足はふらついたけど、
壁をつたって玄関まで行った。
ドアノブに手をかける。
開けるのが怖かった。
こんな姿、見せたくない。
でも、見てほしい気もしていた。
ほんの少しだけドアを開けた。
向こうで、その人が驚いた顔をして、
でもすぐに、安心したように微笑んだ。
「……よかった。
やっぱり、生きてた」
その言葉に、
また涙が止まらなくなった。
ただ、それでも思った。
こんな俺でも、
まだ“誰かに見つけてもらえる”ことがあるんだ。
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