テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
休日の午後。望月愛梨は、自室のベッドの上で膝を抱え、ぼんやりと天井を眺めていた。
窓の外からは、遠くで聞こえる蝉の声と、たまに通る車の音だけ。
(はぁ……今日はさすがに来ないでしょ)
机の上に置かれた二つの輝く鍵――ひとつは赤く煌めくルビーのキー、もうひとつは澄んだ輝きのダイアのキー。
愛梨はそれらをそっと手に取り、掌の上で転がすように眺めた。
「これ、どうすれば――」
言いかけた瞬間、二本のキーがまばゆい光を放ち始めた。
目を細めてもなお、視界が白く染まる。光はどんどん大きくなり、まるで部屋そのものを包み込むようだった。
「うわっ……!」
思わず目を覆った愛梨の前で、光の中心から小さな影がふわりと浮かび上がる。
次第に形がはっきりしていき――まるでぬいぐるみのような、小さなマスコットが現れた。
パステルグリーンの体、猫のように丸い耳、クリクリとした大きな瞳。そして首元には小さなフリルのネクタイ、肩にはちょこんと小さなカバン。
「はじめましてパラ! 僕の名は“パララ”パラ!」
「え、だ、誰!? てか遅くない? 普通こういうのって初めて変身する前に来るんじゃ……」
「そんなことより……僕を出してくれてありがとパラ!!!」
「……う、うん?」
「君のそのキーのおかげで復活できたパラ〜!」
「へ、へぇ……なんで?」
パララの瞳が一瞬だけ沈む。
「……実は、僕たちの国が……あのブラック・クローバー、通称ブラクロに壊されたんだパラ……。魔法少女……助けてほしいパラ!」
愛梨は小さく息を呑む。
「……ブラック・クローバーって……ミミカっていう女の人がいる組織?」
「そ、そうパラ! 君が戦ったあのゼツボウのモングーは、アオメっていう男幹部が作ったやつパラ。モングーは鬱を振りまく最悪なやつパラ……だから助けてほしいパラー!」
「わ、私が? 無理だよ……私、そんな正義とかないし……」
二人――いや、一人と一匹(?)は、なぜか一緒に外を歩いていた。
愛梨は両手でパララを抱きしめながら、心の中で小さくため息をつく。
(……なんで私、このぬいぐるみみたいなの抱えて歩いてるんだろう)
「クンクク……お腹空いたパラぁ」
「えっ?」
「食べたいパラ〜」
パララの視線は、道端のたこ焼きキッチンカーに釘付けだった。
「ありゃ食べたら魔力が高まるパラ〜♡ パラパラ〜パラパラ〜パラパラパラ!」
「……半分こ、半分こだからね」
愛梨は財布を取り出し、熱々のたこ焼きを購入した。
だが次の瞬間――
「……ハムハムハムハム」
パララは信じられない速さで、すべて平らげてしまった。
「ゲフゥ、美味しかったパラぁ」
「半分こって言ったよね!? なんで全部食べちゃうかなぁ……(てか、この妖精って食事するんだ……)」
その頃――
暗がりの路地の奥で、里香が両手を胸の前にかざす。
「……闇よ、現れなさい」
呪文とともに、黒い霧が形を成し、巨大なモングーが姿を現した。
「ゼツボウ……!」
街の人々が悲鳴を上げる。
「嘘……また!?」
モングーは建物を破壊しながら進み、空気を一瞬で絶望に染め上げた。
愛梨の手が震える。彼女はポケットの中のキーを強く握った。
「ど、どうしよう……」
「早く変身するパラ!」
「えっ、でも……あんなの戦えない……」
「できるパラ! だって……あの時も、その前も……君はずっとモングーと戦ってきたパラ!」
愛梨は息を呑む。脳裏に、これまでの戦いの光景がフラッシュバックする。
遠くのビルの影から、里香がその様子をじっと見つめていた。
(情緒不安定……やはり彼女には向いていないでしょう)
パララは真剣な声で言う。
「……君が泣きたくなるほど辛いなら、それは……君が本気で守りたいって思ってるからパラ!」
愛梨の震える手が、ゆっくりとキーを掴む。
(私なら……できる、よね)
次の瞬間、光が彼女を包み込み、鮮やかな魔法少女の姿が現れる。
「……!」
パララはその後ろ姿を見つめ、胸を高鳴らせた。
(すごいパラ……魔力が、今までの子よりも大きいパラ……)