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そして、そんな感情と共に、仕事でなくても自分を写真に収めてくれることが嬉しかった千鶴は、やっぱり自分は蒼央にとって特別な存在なのかと期待していた。
「あの、もし可能なら……過去に撮った蒼央さんの写真も、見てみたいです……」
蒼央の写真をもっと沢山見たくなった千鶴がそんな願いを申し出ると、
「大した写真はねぇけど、まあお前にならいいか。今アルバムを持ってくる」
ソファーから立ち上がり、アルバムがしまってあるらしい寝室へ向かって行った蒼央。
彼のこれまでの写真を見れる事が嬉しくなった千鶴の表情は笑顔で溢れていく。
「ほら。まあ、他にもあるが、今のところ見せられるのはこれくらいだな。後はどれも見せられるようなモンじゃねぇから」
「そうなんですね。ありがとうございます! これは、いつ頃撮られた写真なんですか?」
「そのアルバムはまだデビューしたての頃に撮った写真だな」
蒼央が持って来たアルバムは全部で三冊。
青色の表紙がデビューしたての頃、ピンク色の表紙が二十代前半、黄色の表紙が二十代後半になってから現在までに収めた、人に見せられる写真を収めたアルバムだと説明を受けた千鶴は、一枚一枚ページを捲りながら蒼央が収めた写真の数々を眺めていた。
そんな中、蒼央のスマホに佐伯から電話が掛かって来た事で彼は再び寝室へ。
一人リビングに残された千鶴は青色のアルバムを見終えてピンク色のアルバムを開いていく。
すると、あるページを境にいつも同じ女性を被写体にした写真がいくつも収められている事に千鶴が気付いて彼女に注目する。
(この人、凄く綺麗)
写真に収められているその女性は小柄で儚げで、可愛いと美人の両方を合わせ持つような魅力溢れる人で、千鶴は純粋に綺麗だと思っていた。
そして、それと同時に千鶴の胸がチクリと痛み出す。
そしてその痛みはページを捲るたびに強さを増していた。
「――千鶴?」
「え!?」
アルバムに熱中していた千鶴は電話を終えてリビングへ戻って来ていた蒼央に気付かず、突然声を掛けられた形になって驚き、声が裏返ってしまう。
「悪い、そんなに驚くとは思わなかった……」
「い、いえ! 私がアルバムに熱中していたせいで気付かなかっただけなので、気にしないでください!」
そして慌てた千鶴はピンク色のアルバムを閉じると、黄色のアルバムに手を伸ばして開いていく。
すると、黄色のアルバムを一ページ、また一ページ捲っていくも、ピンク色のアルバムには沢山写っていた先程の女性の写真が一枚も見当たらない。
「何だ? 何かあったのか?」
「いえ、何も! どの写真も、とても素敵だなって思いました!」
「そうか。ありがとう」
何かあったかと問い掛けられた千鶴は内心、蒼央に問いたかった――『蒼央さんにとって、あの女性は、特別な人なんですか?』と。
けれど、そんな勇気が無かった千鶴は言葉を飲み、忘れようと心の奥にしまい込んだ。
それから暫く部屋で過ごした後、蒼央に送ってもらって帰路に着いた千鶴。
お風呂に入り、ストレッチを終えた千鶴は寝る支度を整えてベッドへ倒れ込む。
天井を見つめながら考えるのは、蒼央のアルバムに写っていた女性のこと。
考えたく無いと思えば思う程、頭に女性の姿がチラついてしまい思い出してしまうのだ。
「……あの人、蒼央さんとどういう関係なんだろう? 綺麗な人だったから、モデルさん? でも、あんな人雑誌とかテレビで、見たことないような……」
アルバムに飾ってあったということは仕事で撮った写真とは違うわけで、あれは全てプライベートで撮ったものということになる。
自分だけが蒼央の特別だと思っていた千鶴にとって思いもよらぬ存在となっていた。
「……胸が、チクチクする……」
そして、これまで感じたことの無い胸を刺すような痛みに苦しみながら、千鶴は明かりを消して目を閉じた。
一方その頃、蒼央はというと――。
「……千鶴は俺が守ってやらないと。あんなにモデルとしての素質があって、本人も、それを心から楽しんでいる。千鶴なら、絶対に日本だけでなくて世界でも活躍出来る――コイツみたいに……」
千鶴が見ていた自身の過去のアルバムを見返しながら、そう呟いていた。
蒼央が見ていたのはピンク色の表紙のアルバム。
そして、例の女性が映る写真を眺めながらページを捲っていく。
そんな時、蒼央のスマホに一通のメッセージが届く。
メッセージの主は蒼央の師匠である久保田 大翔から。
今現在彼は海外に拠点を置いていて、変わらずフリーカメラマンとして世界各国を旅しながら様々写真を撮っている。
そんな大翔が久々に日本に帰国するという連絡を受けた蒼央は、都合のつく日に会うことになり、その際、千鶴も同席させたい旨を伝えると、
《それは楽しみだ。俺も一度会ってみたいと思ってたんだよ。それじゃあ、楽しみにしてる》
勿論大翔も千鶴の噂は知っていたようで、彼女に会えるのを楽しみにしているという返事が返ってきた。
そして翌日、大翔に会うことを千鶴に伝えると、
「本当ですか? 蒼央さんの写真の先輩にお会い出来るなんて、私も嬉しいです!」
千鶴もまた、大翔に会えるのを楽しみだと笑顔で口にしたことで、蒼央は大切な二人を引き合せるその日がより一層楽しみになっていた。
大翔に会うことを知った千鶴は心の中で、
(……蒼央さんのお師匠さんなら、あの写真の女の人……知っているのかな? 聞ける機会があったら、聞いてみたい……けど、こっそり探るような真似しても、いいのかな?)
写真の女性の存在を大翔にこっそり聞いてみるべきか、直接蒼央に聞くべきか、やはり何も知らない方がいいのか一人悶々と悩んでいた。