テラーノベル
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全員が鏡の前に並び、それぞれ新しい衣装の細かな調整を受けていた。
「ちょっと、」
「ん?」
振り向いた首の後ろから、シャツのタグが少しだけ飛び出している。
「止まってて」
一歩近付く。
「え?」
返事を待たずに、指先を伸ばした。
タグを中へ押し込む。
その拍子に、指先が首筋へかすかに触れた。
ほんの一瞬だけ、白い肌の温度が指先に移る。
やわらかい。
思ったのはそれだけだった。
それなのに、息をすることまで忘れそうになる。
「タグ、出てた」
何事もなかったように一歩下がって、元の位置に戻る。
「気付かなかったわ、ありがとね」
柔太朗はいつも通り笑った。
「…ん」
短く返して、その場を離れる。
衣装合わせはそのまま続いていく。
誰も気にしていない。俺だけだった。
歩きながら、何気なく右手を開いてさっき触れた指先を見つめた。
もう何も残っていないのに、あの一瞬だけ触れた温度が、まだそこにあるような気がして。
タグをしまっただけだ。理由はちゃんとあった。だから。
また、何か理由があればいいのに。
そんなことを思った自分に、静かに息を呑んだ。
眠りひめ
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コメント
2件
「タグをしまっただけ」って自分に言い聞かせながら、また理由があればいいのにって思ってしまう…その揺れが本当に愛おしいです。ほんの一瞬の肌の温度が、あとを引く感じ、すごく分かります。あんりさんの描く距離感の繊細さ、毎回好きです。次話も楽しみにしてますね🌷