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ライ
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#異世界転移
花月夜れん
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まくら
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18 ◇恵子と財前が夫と不倫女の勤める会社に乗り込んだそのあとで
実は同期入社でもともと仲は良かったのだが、ここ数年仕事上のパートナー
でもある妻子思いの財前隆三というのがいて、この日、弁護士代わりに
恵子と一緒に乗り込んでくれたのである。
恵子は浮気相手といつまで経っても別れようとしない夫の女遊びに
ほとほと嫌気がさしていた。
―――
財前とは、仕事で一緒に働くようになって5年目。
彼の奥さんが亡くなったのは一年半前。
その時は、病死とだけ聞いていた。
それが──
先月残業していた時に、それはどんな話がきっかけでそんな風な話を彼から
聞くことになったのか、忘れてしまったけれど──。
奥さんが、長期入院の末に亡くなったのだという話を聞かされた。
そして、休日には、息子を連れて毎週病院に通っていたことも。
病名ははっきりとは聞いてないけれど、最初の入院から2年半、奥さんは
入退院を繰り返していたみたい。
結婚後、妻子ひとすじの真面目な男、財前隆三の妻が2年半の闘病の末に
男の子と夫である財前に心を残してこの世を去った。
奥さんが亡くなったと聞くまで、私は彼の家庭の事情はまったく知らずにいた。
いや、正確には、先月知ったのだ。
今になって彼もようやく奥さんの亡くなった経緯を話せるようになったということだろう。
1年半前、彼の妻が病死したと聞いた時には起きなかった気持ちの爆発。
財前が妻の元へ息子を連れてせっせと通ったという話を聞き、俄然
何かが恵子の中でブチ切れたのだ。
―――――
それを知った時に、8年もの間黙認してきた自分の夫の所業に対して
恵子は突如、堪忍袋の緒が切れたのだった。
何故か、ここのところで気持ちが弾けてしまったのだ。
そう、気持ちを隠し抑えて生きていく虚しさが急に増大したのだ。
財前には夫の浮気の件は、随分前にポロっと零したことがあった。
その時は、怪しい点があるのだと伝えていた。
◇ ◇ ◇ ◇
妻を亡くし、息子とふたり暮らししている財前が、ある日私に訊いてきた。
「まだ、旦那は女と別れてないのか?」
「たぶんね。別れるのを待ってたけどさ、待ちくたびれたわ~。
私、もうアラフォーなんて言ってられない年になっちゃったわよぉ~」
「お恵さん、別れろよ、そんなロクデナシ」
「うん、私もそろそろアイツ処分しようかなって思ってるんだ。
で、調査してたんだけど、私の知らない2人めの女もいたのよ。
健気に女と別れるのを待ってた今までの自分に馬鹿って言いたい気分よ。
別れるどころか、新しい子まで作っちゃって。アイツは私のことを何だと
思ってるのかしら。身の回りの世話をしてくれる母親か女中だとしか思って
ないんじゃない? この際だから、きっちりと落とし前をつけるつもりよ」
「じゃあさ、落とし前付けたら俺んところに来い。
飛び込んで来いよ」
「ありがと。考えとく……」
そう遣り取りしている私たちは時間外のオフィスで椅子に座り
コーヒー片手に話をしていた。
そう返事したけど、私の返事は早くも決まっていた。
私は身近で彼の夫としての誠実さを数年間、間近で見て来た生き証人だ。
私は彼のような誠実な男性をずっと、学生の頃から待ち続けていたのだもの。
返事はYes以外に考えられなかった。
そしてこの後の話で、玄帥の会社へ乗り込む時には一緒に行くよと
彼は言ってくれたのだった。
助っ人を得た恵子の、玄帥と石田唯の勤める会社への乗り込みは
上々だった。 関係者の前で恵子は泣いて見せ、浮気をされて
打ちひしがれたか弱い妻をたっぷりと演じた。
財前はもしかすると引いたかもしれないが……自分の役者ぶりに。
そう思いながらの乗り込みからの帰り道、財前が言った。
「今日は良い日になったな。
積年の恨みを果たした日だからな。
上手いモン、食いに行こう」
そう労われて、恵子はますます財前のことを惚れ直すのだった。
もちろん、四の五のウダウダ離婚届に判を押そうとしない玄帥とは
その後一度も会うことなく、弁護士に丸投げして恵子は離婚した。
そして結局キャパ嬢の京子には甘いかもしれないが、慰謝料請求したのみで
放流することにした。
幸せを掴んだ恵子には、一度たっぷりと留飲を下げることができたことも
あり、満足できたからだ。
そう、未来の夫となるべく男性の前でこれ以上、らしくない
自分を出すことに躊躇いが出てきたということもあった。
そして早く幸せな未来を財前とその息子と3人で紡いでいきたいという
気持ちが勝っているということもあったため。
離婚後、しばらくは結婚できないが、恵子と財前はすぐに一緒に
暮らし始め、幸せの第一歩を歩き出したのだった。
19◇再び・滉星とひまり編
夫は石田という女性との浮気を告白した日から
ひたすら何かにつけ、謝罪してくる。
「ひまりを見ていて、俺がどれだけのことを仕出かしたのか
どれほど苦しめたのか、すごく後悔してる。
もう絶対石田さんとは連絡も取らない、約束する。
きっちりと別れることを話し合って納得してもらってるし……」
『あれで? あんないきなりの一方的な電話での別れで? 話し合いだなんて
言えないような別れで?』
果たして彼女が本当に納得するのだろうか、甚だ疑問である。
私のことを早く排除して夫との関係を強化するために私にふたりの
関係を暴露してくるような人が、そう簡単に引き下がるとも思えない。
そもそも夫は彼女と直近までズルズルと付き合っていて……
どうして彼女は夫との合意なく、私にふたりの関係を暴露してきたのか?
「ね、どうして彼女は私にふたりのことを暴露してきたのかしら?
あなたは今私と別れないと言いながら、私がふたりのことを知らないで
いた時には、彼女と付き合い続けていたのでしょ?
ふたりで楽しくやってたのでしょ?
彼女の言動もあなたの言動も、私には雲を掴むようでまるで分からないわ」
「実は離婚してほしいって、彼女が途中から言い出して……。
俺は、付き合うだけでいいからって言うから付き合ってたのに……。
離婚してほしいっていうのは受け入れられなくて、ずっと彼女のお願いから
逃げてた。
だからたぶん、焦れて君に暴露してきたんだろうね。
君に知られれば俺が君に離婚されるって考えたんだと思う」
そんなことで彼女は私に暴露してきたというの?
何も知らない私に不倫の事実を知らせて動揺させ苦しめて、私をないくらい
不幸に陥れて結婚を目論んでたっていうわけ?
酷い、なんで……何でそんな酷いことができるの?
私を巻き込まないでほしい。
ふたりはちゃんと話し合いをして、そしてその結論いかんでは私にふたりで
心からの謝罪をして別れてほしい、離婚してほしいと話し合いの場を持つ
……それが大人としてのけじめでしょ。
例えば、滉星の私と別れたくないというのがもしも本当だとして、それなら
どうしていつまでもダラダラと石田さんと付き合っていたのか?
どうして私にバレる前に別れてくれなかったのか。
私には身勝手なふたりの言動が全く理解できない。
私じゃなくたって、そんな無茶苦茶な話を誰も理解できないし、理解する
必要もないし、ただただ理不尽なことをふたりから押し付けられている感が
半端なくて、気持ちがついていかない。
そのような中で、大好きな人が自分の裏切りを謝罪してくるその姿に涙が
出る。目の前で繰り広げられる茶番。
もう何を謝罪されても心に響かない。
その言葉を受け取れない。
私の心が拒否するのだ。
なのに一方では、頭の片隅で
『あんなに必死に謝ってるでしょ。どうして受け入れてあげないの?』
って、そう別の場所から冷静に見ている自分もいる。
だけど、自分の中心で核となる私がそれを受け入れられなくて
とても苦しい。
だから……離婚はしたくないと拒絶し続ける夫から逃げるようにして
私は家を出た。
彼と一緒にいるだけで苦しいのだから仕方がない。
好きなのに、彼の何もかもが信じられないなんてこんな苦行ってある?