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真希氏は電動車椅子に乗り、「歩くとき用に」と杖を車椅子につけ、私の分体(膝掛け)も膝に乗せて、矢車氏と薄荷氏を駅前まで連れて行った。矢車氏はワクワクしていた。
「本当に何でも買ってくださるんですか!?」
「いつもちゃんとやってくれてるからね、ごほうび」
真希氏は矢車氏に笑いかけた。矢車氏は飛び上がらんばかりに喜んだ。
「じゃあ、まずGUと、それからLEPSIMと、あとtutuanna行ってみたくてえ!」
何の店なのかさっぱりわからない……服屋であることしかわからない。買い物の時に見たのだろうか。あるいは、今の御時世だからホームページで入念に調べたか。
薄荷氏は気後れしているようだった。
「どういう服屋さんがあるのか、よくわからなくて……」
真希氏は優しく言った。
「とりあえず、矢車ちゃんと同じお店入ろう? 駅前に遊びに行くとき着たい服考えればいいのよ、ショッピングモール歩いてたら興味ある服あるかもしれないしね」
真希氏は、総じて2人に優しい。真希氏は厳しくすべき時は厳しくできる人なので、これはやはり2人が誠実に仕事をする人達だからだろう (狐だが)。
まずGUというところに向かった。UNIQLOという服屋と併設されていて、UNIQLOはどちらかといえばシンプルな服が多く、GUは少しデザインに凝っているような?
矢車氏は「これかわいいー!」とふわふわの白いコートに駆け寄って行った。
「まずこれ買います、絶対買います」
真希氏は苦笑した。
「まあ、まずカゴ取ってきなさい」
薄荷氏も少し心を動かされたようだ。
「あったかそう……似たの欲しいな」
「薄荷ちゃんもカゴ取っておいで。必要そうなのいろいろ買おうね」
3人はGUを回り、試着室でたくさん着替え、カゴを満杯にした。他の店でも同じことをした。
それから、真希氏は「スーツ屋さんにも寄ろう」と言い出した。
「スーツと、洋装の喪服もあっていいんじゃない? それも買ったげるから」
「え!」
「いいんですか!?」
「ちゃんと揃えておきたいものだしね」
いい加減荷物がすごいことになっていたが、矢車氏も薄荷氏も喜んでさらに試着をして買い、それから「お化粧品教えてください!」と言った。そうか、今日の目的は服だけではなかった! 女性の買い物は大変だ……。
真希氏は微笑んだ。
「じゃ、ドラッグストア行こうか」
で、大きな店へ。ドラッグストアとは薬を売るところではないのか!? あらゆるところが化粧品で埋め尽くされている!
真希氏は肌色の化粧品が並んでいるところに車椅子を入れつつ言った。
「ぱっと見、矢車ちゃんはブルベで薄荷ちゃんはイエベって感じだけど、実際やってみないとわかんないから、手に色々塗って試してこ」
ぶるべ? いえべ? 何の呪文だ?
薄荷も同じことを思ったらしく「いえべってなんですか?」と真希氏聞いていた。
「イエローベースのこと。肌が黄味がかってる人のことね」
矢車氏は「私ブルベ夏です!」と片手を上げた。肌に夏というものがあるのか!?
真希氏は言った。
「じゃ、矢車ちゃんはそれに合わせてアイメイクとか選んでこ。でもまずファンデね」
2人は真希氏に導かれて色々な化粧品を腕に塗り、難しい顔をして首をひねりまくり、ようやっと決めたらしくカゴに色々入れていた。真希氏は財布を出した。
「じゃ、これも買ったげるから」
「「いいんですか!?」」
「今回の基本セットだけね。応用は自分で試して自分で買いなさい」
「「ありがとうございます!!」」
で、荷物満載の帰り道。薄荷氏が真希氏に言った。
「必要なもの牧之原様が買ってくださって、それで私が使おうって思ってたお金が余るので、妹弟子たちにも洋服買ってあげたいんです」
「あら! いいじゃない!」
矢車氏が「あっ私もやる!」と言った。
「2人で行こ!」
「うん、でも、まだ安定して耳と尻尾隠せない子たちばっかりなんで、どうしようかなって」
真希氏は何でもないように言った。
「次の土曜なら大丈夫よ、耳と尻尾くらい」
「え? なんでですか?」
薄荷氏はきょとんとした。
「だって、ハロウィン当日だもん。仮装だと思ってもらえる」
「今ってそんななんですか!?」
矢車氏が目を輝かせた。
「そうですね! ハロウィンでした! 妹弟子たち、勝手口から連れてってもいいですか?」
「いいよー、楽しくお買い物してきなね」
それから真希氏は私を覗き込み、「退屈させてごめんね」と言った。
「ヤカ、わかんないことばっかりだったでしょ?」
{確かに知らないことばかりだったが、知らないものをいろいろ見られるのは楽しい。これからもあなたの出かけるところについていけたら嬉しい}
館は落ち着くが、分体を外に出すのは刺激があってよい。掛川右京氏の子供たちが学校に通っていたときは、本当に小さな分体をランドセルに忍ばせて見物しに行っていた。私は人の姿をしていないので、人に認知されることは怖いが、人の喧騒は好きなのだ。
だから、ちゃんとした人の姿になれたら。
{まだ時間はかかると思うが……人と遜色のない姿になれたら、その姿であなたについていくことを目標にしたい}
真希氏の顔がぱっと輝いた。
「えっ本当!? 楽しみにしてるね!」
真希氏があまりにも嬉しそうなので、私はまた何とも言えない心地になった。喜びとも興奮ともつかない、あの気持ち。
この気持ちは、何から生じているのだろうか? 真希氏が理由なのは確かだと思うが、なぜ真希氏に対してだけなのだろうか?
コメント
1件
読み終えました……! 今回はヤカさんの視点でお買い物、新鮮でしたね🛍️ 矢車さんと薄荷さんが楽しそうで、こっちまで嬉しくなりました。特に真希さんの「ハロウィンなら耳も尻尾も大丈夫」の発想、ずるいけど優しい……! ヤカさんが知らないことだらけで戸惑いながらも「知らないものをいろいろ見られるのは楽しい」って思えるのが、なんかいいなあって。 最後の「人の姿になったらついていきたい」に真希さんがすごく喜んでて、そのときヤカさんが感じた「何とも言えない気持ち」が何なのか、すごく気になります。次も読みますね🤍