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『【片想い消去済】もう俺を好きじゃない君を、今度は俺が追いかける』~d×n~
Side翔太
『片想い保管局』。
街の片隅にあるその無機質な白い建物の存在を俺は随分前から知っていた。
深夜のテレビCMやSNSのタイムラインに時折流れてくる広告。
そこにはいつもどこか作り物めいた穏やかな笑顔を浮かべた男女が映っていて「あなたの苦しい恋私たちが大切にお預かりします」というキャッチコピーが添えられていた。
叶わない片想いを専門機関に預ければその人を好きだった記憶だけを綺麗に消してもらえる。
相手と過ごした出来事や交わした言葉の記憶はそのままにただ『恋心』という感情のフィルターだけを抜き取ってくれるのだという。
初めてそのシステムを知った時俺はなんて残酷でそしてなんて救いのある場所なんだろうと思った。
けれど同時にこうも思ったのだ。
俺には一生縁のない場所だと。
なぜなら俺は涼太のことが好きだったから。
苦しくて切なくてどうしようもないくらい胸が痛む夜があってもそれでも涼太を想うこの気持ちを手放すことなんて絶対にできないと思っていた。
涼太は俺の親友だ。
出会ってから何年も経つ。
一緒にいるのが当たり前で周りからも「いつも一緒にいるね」と言われるような関係。
俺にとって涼太は世界の中心だった。
大げさではなく本当に。
朝起きて窓の外を見て天気が良ければ「涼太も今日気持ちよく起きられたかな」と思う。街を歩いていて美味しそうなケーキ屋を見つければ「涼太は甘いもの好きだから今度一緒に来よう」と無意識に考えている。
面白い映画を観た時綺麗な夕焼けを見た時仕事で少し嫌なことがあった時。
どんな時でも一番に顔が浮かんで一番に声を聴きたくなるのはいつだって涼太だった。
涼太の隣にいる時間は俺にとって何よりも幸せでそして何よりも残酷な時間だった。
涼太は背筋がピンとしてて少し低くて落ち着く声をしていて笑うと目尻が優しく下がる。俺の名前を呼ぶ時のあの少し甘えるようなそれでいて包み込んでくれるような響きがたまらなく好きだった。
ソファで並んで座ってテレビを見ている時涼太の肩が俺の肩に触れる。
ただそれだけで心臓がうるさいくらいに跳ねて息が浅くなる。
涼太の体温が服越しに伝わってくるたびにこのまま時間が止まってしまえばいいのにと本気で願った。
けれど涼太が俺に向ける視線には熱がない。
いや親友としての温かな熱はある。
大切にしてくれているのも痛いほど伝わってくる。
でもそこに『恋』はないのだ。
涼太にとって俺はどこまでいっても『一番気の合う親友』でしかなかった。
「翔太といるとほんと楽」
いつだったか二人で缶ビールを飲みながら夜風に当たっていた時涼太がふとそんなことを言った。
「楽?」
「うん。なんかさ恋愛とかそういうの抜きにして素でいられるっていうか。気使わなくていいし」
「……そっか」
「俺たち、おじいちゃんになってもずっと親友でいられる気がする」
涼太は夜空を見上げながら本当に嬉しそうに笑っていた。
その横顔があまりにも綺麗で俺は泣きそうになるのを必死に堪えながら「うん、そうだね」と笑い返すしかなかった。
涼太は悪気なんて一切ない。
ただ純粋に俺との関係を心地よいと感じてくれているだけだ。
それが分かるからこそ余計に苦しかった。
『恋愛じゃないから楽』『ずっと親友でいられる』。
涼太がその言葉を口にするたび俺の心には見えないナイフが突き立てられた。
【お前が入り込む隙間はどこにもないのだ】と優しくけれど決定的に拒絶されているような気がした。
それでも俺は涼太のそばにいたかった。
親友という特等席を手放したくなかった。
涼太の一番近くで涼太の笑顔を見ていられるなら俺のこの気持ちなんてずっと心の奥底に隠しておけばいい。
そう言い聞かせて何年も何年も自分の心に蓋をしてきた。
だけど感情というのは厄介なもので隠そうとすればするほど抑え込もうとすればするほど内側で膨れ上がっていく。
涼太が他の誰かと楽しそうに話しているのを見るだけで胸の奥が黒い感情でドロドロに濁っていくのが分かった。
涼太のスマホが鳴って画面を見て涼太が少しだけ表情を和らげた時「誰からの連絡?」と聞きたくなるのを必死に飲み込む。
ただの親友なのに。
俺にはそんなことを聞く権利なんてないのに。
嫉妬して独占したくなってそんな醜い自分に気づくたびに自己嫌悪に陥った。
限界が近づいているのは自分でも分かっていた。
このままじゃいつか俺は涼太の前で泣き喚いてしまうかもしれない。
親友という仮面をかなぐり捨てて涼太にすがりついてしまうかもしれない。
そんなことになれば涼太はきっと困った顔をするだろう。
そして今のこの心地よい関係は完全に壊れてしまう。
それだけは絶対に嫌だった。
決定的な出来事があったのは季節が秋から冬へと変わろうとしていたある冷たい雨の夜だった。
その日涼太は俺の部屋に遊びに来ていた。二人で適当にデリバリーのピザを頼んで映画を観て他愛のない話をして。
いつも通りの穏やかで幸せな時間。
外では冷たい雨が窓ガラスを叩く音がしていて部屋の中は暖房が効いていて暖かかった。
涼太はソファに深く腰掛け少し眠たそうに目を細めながら俺が淹れたコーヒーを飲んでいた。
「なんか、今日寒いね」
「うん、急に冷え込んだからね。涼太、風邪ひかないようにね」
「翔太もね」
涼太が俺を見てふわりと笑う。
その笑顔を見た瞬間俺の中で何かがぷつんと切れる音がした。
ずっと張り詰めていた糸が限界を迎えて弾け飛んだような感覚。
好きだ。どうしようもなく涼太のことが好きだ。
この想いをほんの少しでもいいから涼太に知ってほしい。
俺がどれだけ涼太を想っているか気づいてほしい。
そんな衝動が理性を軽々と飛び越えて口をついて出た。
「……涼太」
「ん?」
「もし俺が涼太のこと好きって言ったらどうする?」
言ってしまった。
冗談めかしたトーンを装うのが精一杯だった。
心臓が肋骨を突き破りそうなほど激しく鳴っている。手は微かに震えていて俺はそれを隠すようにマグカップを両手で強く握りしめた。
涼太はコーヒーを飲む手を止めた。
そしてきょとんとした顔で俺を見た。
数秒の沈黙。
俺にとっては永遠にも等しい時間だった。
涼太の瞳の奥に何か少しでも動揺や戸惑いやあるいは期待のようなものが浮かんでいないか。俺はすがるような思いで涼太の顔を見つめた。
しかし涼太はふっと息を吐くと照れ隠しのように小さく笑った。
「翔太が?恋愛的な意味で?ふふっ、何の冗談?ないでしょ」
あっけらかんとした本当に何でもないことのように放たれた言葉。
涼太は再びマグカップに口をつけ「何言ってんの急に」と付け加えた。
「……うん、冗談だよ。ごめん」
俺は引きつりそうになる頬を必死に持ち上げて笑った。
涼太は「びっくりさせんなよ」と笑い返し再びテレビの画面へと視線を戻した。
終わったと思った。
続きは、pixiv¬eにて同タイトルで公開中です。
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R-18『【騙された】親友と映画を観るだけのはずが、画面と同じことをしてセフレになりました』
本編とはひと味違う、特別な一篇。↓
テレビからはまだ映画のキスシーンの音が流れ続けている。
しかし今の俺にはそんなものはもうどうでもよかった。
ただ目の前にいる涼太の体温涼太の匂い涼太の唇の感触だけが俺の全てになっていた。
俺は恐る恐る自分の手を涼太の背中へと回した。
涼太の体がビクッと小さく震えたのが分かった。そして彼は俺の腰を強く引き寄せさらに深く俺の唇を塞いだ。
息が苦しい。
でも離れたくない。
このまま涼太の熱に溶かされてしまいたい。
俺たちは付き合っていない。
ただの友達だ。
でも今俺たちは確かにキスをしている。
触れ合うだけの羽のように軽いキス。それはほんの一瞬の出来事のはずだった。
しかし涼太の唇が離れかけた直後再び俺の唇を塞いだ瞬間から空気は一変した。
「ん……っ」
俺の口から漏れた小さな吐息を合図にしたかのように涼太の手が俺の後頭部をしっかりとホールドした。
逃げ道を塞ぐようなそれでいてひどく大切に扱うようなその手のひらの熱に俺の思考は完全に停止してしまった。
テレビのスピーカーからは映画の中の男たちが交わす生々しくも情熱的なキスの音が絶え間なく流れ続けている。
その音と全く同じようにいやそれ以上に熱を帯びた行為が今俺と涼太の間で繰り広げられていた。
涼太の唇が俺の唇を少し強引にけれど決して痛くない絶妙な力加減で割り開いてくる。
戸惑いから固く閉ざしていたはずの俺の歯列は涼太の舌先がそっと触れただけでいとも簡単に解錠されてしまった。
「あ……んっ……」
※最初から最後まで甘く、濃く、容赦なく。読み応えたっぷりのR-18作品となっております。
コメント
1件
翔太の視点で語られる片想いの重さと切なさ、すごく響きました…!「恋愛じゃないから楽」という涼太の何気ない一言が、翔太の心にどれだけ深く刺さったかと思うと胸が締め付けられます。最後のキスシーンは、あの衝動が現実になってしまった感じがして、続きが気になりすぎます…!心理描写がとても丁寧で、翔太の苦しさが手に取るように伝わってきました。素敵な物語をありがとうございます🌷