舞台は1915年、ある戦場にて。
硝煙の匂いに包まれながら、私はドレスではなく泥だらけの軍服を着ていた。
「まあ、これが“世界舞台の主役”ってやつ? ずいぶんと地味な舞台装置ね。砲声のオーケストラに、銃声の拍手、観客はみんな死体か。」
フランスのあの女は、相変わらずヒステリックに泣き叫んでいる。パリを守るための涙か、それともプライドを守るための悲鳴かしら。
イギリスの兄貴分は、相も変わらず舞台袖から嫌味ったらしく「まだやってるのか」と囁きながら、海から私の喉を締め上げる。
ロシア? あのマヌケは、足取りこそ重いけれど、踏まれたらひとたまりもない。だから、私は先に蹴飛ばしてやったのよ。もっとも、蹴ったはずの足がまだ痺れてるけど。
そしてアメリカ。あの若造は、最初は観客席に座ってポップコーンでも食べてたのに、気がついたら舞台に飛び込んできた。しかも、銃を持って。観客が役者に化けるなんて、最低の演出だわ。
「…はぁ、ほんっとにイラつく」
私は笑うしかなかった。
血と泥にまみれて、兵士たちが倒れていく音を聞きながら。
「やっぱり、私って主役よね。だって、みんな揃って私を叩きに来るんだから。」
でも――心臓の奥で小さく囁く声がある。
「もう立っているのもやっとじゃない?」
それを振り払うように、私は泥の上で姿勢を正す。
「いいわ、幕が下りるまで笑ってやる。
……もっとも、その幕を引くのは私じゃなさそうだけどね。」