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5歳の 時から紡は施設にいた。居心地は悪くなかった。お母さんのように嫌味を言う人はいないし、お父さんみたいに顔やお腹を殴る人もいない。ご飯は余ったものじゃなく、紡のために誰かが作ってくれたもの。お風呂に入れて、綺麗な服を着せてくれる人がいる。夏は涼しいし、冬はあったかい布団で寝れる。これ以上幸せなことはなかった。
でも、自分たちの他にも子供はたくさんいて、みんな以前の紡と同じような扱いを受けている。と思っていた。紡はその環境しか知らなかったから。
紡が自分の環境が異常だったのだと知ったのは小学校に上がる前。何度何度も紡ぐの元を訪ねていた東夫妻が紡ぐを引き取った 日。何度も会っていたし、とてもいい人たちなのも知っていた。でも東夫婦が紡の父母になると言うことは紡にとって、あの地獄のような日々がまた始まることを示していた。ほんとは泣いて嫌がりたかった。何が起こるかわからない父母の家へ行くより大好きな先生たちのところにいたかった。でも嫌だなんて言ったら何をされるだろう。お父さんお母さんはどうだったか。きっと紡をただでさえ狭いアパートの小さな押し入れに押し込んで暗闇の中泣く紡を笑うだろう。そんなのもう嫌だった。暗いのは怖い。だから紡は優しい東夫妻がどうか優しいままであるようにと願い、先生や園の友達と別れた。
そして紡は元の名前 相澤紡から 東紡 になった。
運命の時などとよく耳にするがこの出来事のことを紡は運命というんだと思っている。東夫妻の元に行って園での待遇が特別ではない、ごくありふれた家庭のものと知った。紡は家庭の愛を知った。親から傘愛を受ける喜び、暖かさ、幸せを知った。教えてくれたのは東夫妻の二人。二人にはかつて子供がいたが、神堕ちによって殺された。
紡は今これからの人生を変えるであろう大きな選択を迫られている。今まで神殺者なんて他人事だった。神堕ちなんて空想だと思っていた。でも現に今紡はその神堕ちに追われ、腕の骨を折られた。もしかしたら今この場にいたかもしれない東夫妻の実子、紡の兄になるはずだった人も神堕ちにより殺された。紡は東夫妻に救われた。恩返しがしたい。血の繋がっていない紡を二人は実子に重ねただけかもしれない。紡は代わりなのかもしれない。それでも紡はいつも二人に感謝していた。施設に行っても過去に囚われ続けていた紡を解放してくれた二人には人生を賭けても恩返しすべきなのではないか。そしてそれが今なのではないか。
対馬と田森はゆっくり考えろと紡と母を二人部屋に残して外に出た。
紡はまだ安定しない足取りで母に歩み寄る。
「紡、?大丈夫よ。心配しないで、お母さんがなんとかするよ」
「おばさん、僕行くよ。」
「何言ってるの、?」
「いやでもどのみち強制的に連れて行かれるんだよ。なら自分の意思で行こうって決めていく方がいい。」
「でも紡、、、!いきなりすぎるわよ。危険よ、、、」
「確かに危険だけど、おばさんたちに恩返しするいいチャンスだと思うんだ。塾とかいろいろありがとう。僕は親たちが繋がってる子たちよりも幸せだったと思う。 」
「紡、、、」
母の目が涙ぐんでいる。
「いくら勉強ができてもおばさんやおじさんを守れないから。」
そういってた折れた腕を慎重に動かし母を抱きしめる。
「すごく不安だけど僕のおかげで人が助かるかもしれない。素敵なことだよ。」
母が声を殺して涙を流す。やめてくれ。決断するのが怖くなる。本当はこの家で家族3人幸せに穏やかに暮らしていたい。本当は誰かを助けるなんてどうでもいい。平和に普通の暮らしがしたい。それだけなのに、いつだって神様ってやつは紡に厳しいのだ。たくさん苦しいことがあった。でもまだ足りないか?度重なる災難に苛立ちを覚える。
神殺しか、面白い。
僕にいつまで経っても確実な幸せを保証してくれない神を、幼い紡を辛い過去に捉えた神を、大切な母に辛い思いをさせる神を、快く殺してやろうではないか。今までの苦しみを全て返してやろうではないか。たとえ死んでも、こらまで以上に苦しくても、何度でも神を殺してやる。
「じゃあ行くね。“母さん”」
「!、、、気をつけて、、、」
母から体を離しドアノブに手をかける。テレビで知ってる程度の神殺者。今まで想像上のものと思っていたのに、自分は今それになるのだ。実感が湧かないな、と呑気に考える。
玄関の外で2人はこの答えを知っているかのように堂々と立っている。答えるまでもないだろう。
「、、、これからよろしくお願いします」
2人は顔を見合わせにっと笑う。
「「こちら側へようこそ‼︎」」
第三話🔚