「これで噂は無くなるかな」
陸は帰り道を歩いていた。すると、背後から荒く生暖かい息を感じた。
「ひっ…」
人ならざる者を相手にすれば強い陸でも、人間相手、それも大人では太刀打ち出来ない。
(鍛えれば良かった…いや、まず女顔じゃなければ)
そんなことを考えつつ逃げようとするが、腕を強く掴まれた。
「ッ!」
逃げられない。
(誰か、誰か誰か)
陸は抗おうとするが、力が強くなるだけだ。それでも反抗を続けると、うるさいとでも言うように殴られた。
血の味がする。口の端でも切れたのだろうか。
(痛い…)
小さいときからこの様なことはあった。
何で自分が、と思ったこともあった。
それでも腐らずに生きていけたのは、彼にとっての光があったからだった。
「「陸!」」
ほら、来てくれた。
陸は声の方へ顔を向けた。逆光に照らされた幼馴染み達が見え、安心感で涙が溢れる。
「徹君…岩ちゃん…」
こういうときにいつも来てくれる。
岩泉はおじさんを殴り飛ばし、及川はすぐに駆け寄ってきてくれた。
優しげな声と顔で及川が問う。
「大丈夫だった?」
その言葉に陸は少し頼りなく答えた。
「大丈夫…だと、思う」
正直、大丈夫ではない。
口の端から血は出るし、掴まれたところはアザになっているし。
(でも、心配かけたくない)
アザの付いた方の腕を隠す仕草を見せた陸に、岩泉は隠した腕のアザじゃない場所を掴んで言った。
「これが大丈夫なわけ無えべ」
及川が顔をしかめ、陸に聞いた。
「何で隠そうとしたのさ」
陸は観念し、「たはは」と笑って言った。
「いやぁ、さっきの人におもっくそ腕握られちゃって…」
それを聞いた二人は目をつり上げ、「笑ってる場合じゃねえ!」と陸を叱り飛ばした。
「ん」
「ほら」
及川と岩泉の二人が同時に手を差し出す。
「ありがとう、二人とも」
その手を取って立ち上がり、多少痛む腕をさすりながら家路に付いたのだった。
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