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「おはよう」
翌日。
左腕に包帯を巻いて登校した陸を見て、昨日の事件を知らない国見や金田一達は驚いていた。
監督達は及川が話を通しておいてくれたのか、少し心配されるだけで済んだ。
「如月、腕大丈夫なのか?」
「はい。利き手じゃないので助かりました。多少マネージャー業に支障はありますが…」
「大丈夫だ、何かあったら言えよ」
溝口コーチの優しい言葉に、「はい!」と返しつつ、ドリンクを作るべくぽてぽてと走り出した。
その後、松川が話しかけてきた。
「何かあった?松くん」
ボールの空気入れ忘れたのがあったのかなと思いつつ松川に訊ねると、「やっぱ大丈夫だった」と練習に戻ってしまった。
体育館に戻ると、どうも空気がおかしい。いつもと違う。
京谷はいつものように岩泉に突っかかっていないし、いつもの和気あいあいとした雰囲気ではない。
(…とりあえず、聞いてみようかな)
ちょうど近くにいた京谷に声をかけた。
「ねぇねぇ、狂犬君」
すると、京谷は左腕の包帯をチラ見したあとにふいと目を背けた。
「…なんスか」
腕を見たくないのだろう。少し機嫌の悪い京谷から腕を隠し、訊ねた。
「何かあったのかな?」
言った瞬間京谷がため息をつく。陸は慌てて言った。
「いや、これでもマネージャーだし、男同士だから相談乗れるかと思って…」
「知らねぇ 」
とりつく島もない。
(どうしよう)
話すか話すまいか。考えていると、京谷も同じことを思ったようだった。
無言で気まずい時間が過ぎる。
少し経ったときだった。
「みゃあ」という鳴き声と共に、人懐っこそうな猫が来た。
「どっから入ってきたのかな」
陸が問うと、「野良か」と京谷が言った。
「うん、狂犬君も触ってみてよ。ふわふわだよ」
にひひと笑いながら京谷に言う。猫を撫でると、少し表情が柔らかくなった。
それにつられて笑ってしまった陸を見て、京谷はホッとしたようだった。
少しの間猫と戯れると、他の部員も集まってきた。
「お、猫じゃん」
「花ちゃんも触る?」
「及川とか岩泉にやってやれよw」
笑い気味に言われ、「はーい」と返した。
その時だった。
ぴょーんと猫が大ジャンプをかましたと思うと、陸の顔に飛んできた。
「へぶっ」
情けない声を出しながら倒れる。このままでは頭を強打してしまう。
覚悟を決めたときだった。
誰かが頭を支え、阻止してくれた。猫を右手でひっぺがし、助けてくれた人物に視線を向けた。
「徹君…!」
「もー、何やってんのさ…。お前も、大事なマネージャーなんだから怪我させないでよね」
心底仕方なさそうに言いながら猫にも説教をする。それが微笑ましくてまた笑ってしまった。
「なに笑ってんの」
「いや、何も」
そう言うと、及川は「あっそ」と言い、目を背けてしまった。
「なぁ、徹君何かあったんかな」
俺が聞くと「知らん」と全員に一斉に答えられた。
この様なことは過去にもあったのだが、こういうときは大体何かある。
「ねぇねぇ、徹君やーい」
つんつんとちょっかいを出す。ぎろりと睨まれ、陸は聞いた。
「徹君、何かあったんなら言ってよ?」
「分かってるよ」
わしゃわしゃとひとしきり陸の頭を撫でた後に体育館に戻っていった及川を追って部員達がぞろぞろ体育館に入っていく。
「バイバイ、ねこちゃん」
陸も猫に別れを告げて仲間の元へと戻っていった。