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ダンボール箱の中に入っていた〇〇とその同類たちと共に異世界を旅することになった件 〜ダン件〜
第146話 - 〇〇は『ケンカ戦国チャンピオンシップ』を観に行くそうです その17
28
2024年01月16日
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2024年01月16日
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「みんなー、ただいまー!」
『おかえりなさい!!』
「ぐあっ!」
ナオトがアパートの二階にある自分の部屋の扉を開けた瞬間、留守番していた女の子たちがナオトに抱きついた。
「お、お姉ちゃんたち! く、苦しいよー」
『あっ、ごめん。つい』
彼女らはナオトが苦しそうにしているのに気づくと、彼からパッと離れた。
ナオトがトテトテと部屋に入ると、みんなが幸せそうにナオトの頭を撫で始めたが……。
ジリリリリリリリリリリリリリン! と黒電話が鳴ったため、それを中断せざるを得なかった。
ナオト以外の全員は、なぜ電話がかかってきたのか分からなかった。
なぜかって? それは、ここが異世界だからだ。
ナオトは、パタパタと黒電話の方に走っていくと、受話器を取った。
「はい、もしもし。どちらさまですか?」
「……あら、ナオちゃん。ずいぶんと若返ったような声をしてるけど、大丈夫?」
「えーっと、もしかして、お母さん?」
「ええ、そうよ。お母さんよ」
「お母さん詐欺じゃない証拠は?」
「そういうところは相変わらず用心深いのね……」
「じゃあ、これから質問していくね。僕の性感帯はどこか教えて」
「左耳!」
「じゃあ、僕の好きな食べ物は?」
「スイートポテト!」
「えーっと、僕の名前の由来は?」
「三○月くんとア○ラちゃんとク○デリアちゃん、それぞれの名前の一文字をもらって並べ替えたのが、由来よ」
「えっ? そうなの?」
「冗談よ。本当は真っ直ぐな人になってほしかったから、直人《なおと》よ」
「……ふーん、そうなんだ。じゃあ、次にいくね。僕の……」
「本田《ほんだ》 直人《なおと》。二×××年八月十二日生まれ。血液型はO型。身長『百六十五センチ』。体重六十キロ前後。第三次世界大戦が終わった直後に産まれた私の可愛い可愛い息子。どんな逆境も乗り越えようとする精神は多くの人々の心を突き動かし、見た目からは想像もつかないリーダーシップを発揮することから『若き天才軍師』とも言われた存在……。このくらいでいいかしら?」
「……あ、あはは、どうやら、お母さん詐欺じゃないみたいだね」
「疑いが晴れてよかったわ。あっ、そうそう、これから|そ《・》|っ《・》|ち《・》に行こうと思うんだけど、いいかしら?」
「うん、いいよ」
「……」
「あれ? お母さん? ちゃんと聞こえて……」
「ちゃんと聞こえてるわよー」
「うわっ!! お、お母さん! いつのまに僕の背後にいたの!」
「うふふ、私がしばらく見ないうちに、こんな姿になっているなんてね……来てよかったわ♪」
突如、出現した身長『百三十センチ』のナオトのお母さん『本田《ほんだ》 あゆみ』の黒い着物には、いくつかの『ヒガンバナ』が描かれており、血の色によく似た赤い帯を巻いていた。
髪は黒髪ポニーテールで、両目を白いハチマキで覆っている。(あと、白い足袋《たび》を履いている)
補足だが、彼女は極度のムスコンである。
「お、お母さん! みんなが見てるから、やめ……ひゃん!!」
アユミは、実の息子であるナオトの左耳に甘噛みをした。
「相変わらず、左耳が弱いのね。久しぶりに、いじめたくなっちゃった。はむはむ♪」
「や、やめ、て。もう、これ以上は……」
「あらあら、私としたことが、ついついやりすぎてしまったわ。ごめんね、ナオちゃん」
ナオトは、お母さんの方を向くと。
「ううん、僕は大丈夫だよ。それで? お母さんは何しに来たの?」
「私がここに来た理由、知りたい?」
「知りたい! 知りたい!」
「じゃあ、お母さんのことを抱きしめてくれたら、教えてあげる」
「うん! 分かった! ギュー!」
「ああ、ナオちゃんの温もりが私を満たしていく。私の心と体がゆっくりと癒されていくこの感覚! やっぱり、ナオちゃんはすごいわね」
「そうかな? けど、喜んでくれたのなら、僕はそれで満足だよ」
「立派に育ってくれて、お母さん嬉しいわ。それじゃあ、私がここに来た理由を教えるわね」
「うん、教えて! 教えて!」
「私がここに来た理由は……」
「理由は?」
「あなたの異変を察知したからよ」
「えーっと、たしか、僕とお母さんの五感は……」
「そう、あなたと私の五感は繋がっているから、今まで体験したことは全て私にも伝わっているわ」
「えーっと、それじゃあ、僕を元に戻しに来たの?」
「まあ、その【無邪気】な部分だけしか治せないけどね」
「そっか。僕の【無邪気】な部分を治しに来てくれたんだね……。それじゃあ、お願いしてもいい?」
「ええ、もちろんよ。さぁ、ナオちゃん、目を閉じて」
「うん、分かった」
ナオトが目を閉じると、アユミは白いハチマキを取って【邪眼】を一瞬だけ発動させた。
その後、すぐに白いハチマキで両目を隠した。
「もう目を開けていいわよ」
ナオトが目を開けた瞬間、彼の精神は元に戻っていた。
「その……俺のために力を使ってくれて……あ、ありがとな」
「やっぱりナオちゃんは、童貞っぽさがある方がいいわね」
「えーっと、俺ってそんなに童貞に見えるのか?」
「さぁ? どうでしょうね。それじゃあ、私はそろそろお暇《いとま》するわね」
「もう行くのか? お茶くらい出すのに……」
「いいえ、大丈夫よ。元気そうなナオちゃんの顔が見られてよかったわ」
「……そっか」
俺がそう言うと、お袋はみんなの方を向いて。
「なんか前より人数が増えてるけど……まあいいわ。ナオちゃんのこと、これからもよろしくね?」
『はい!!』
アユミはナオトの方を向くと。
「それじゃあ、ナオちゃん。またね」
「ああ、またな。おふく……」
ナオトが言い終わる前にアユミはナオトの頬にキスをしていた。
ほんのり温かくて、柔らかい感触がナオトの身体中を駆け巡った。
「まったく。すぐにスキンシップをしたがるのは昔から変わらないな。けど、俺なんかを育ててくれてありがとな、お袋」
「何を言っているの? 私は、あなたがいたおかげでから生きてこられたのよ? だから、感謝しなきゃいけないのは私の方よ。ありがとね、ナオちゃん」
「大袈裟《おおげさ》だな。まあ、その、なんだ、今度来た時はゆっくりしていってくれよな」
「ええ、そうするわ」
「……それじゃあ、またな。お袋」
「ええ、また……」
ナオトは光の粒となって消えていった母親が立っていた場所に立つと「またね、お母さん」と言いながら静かに泣いていた……。