アートディレクターの石川さん、チームの責任者だから仕方ないけど…
成果を追いすぎて、スタッフを困惑させるタイプで…
『頼むよ。この前も君は…』
石川さんの愚痴、絶対長くなるよ…
聞きたくないな…
『石川ディレクター。すみません。森咲さんには俺が用事を頼んでしまったんです』
突然、本宮さんが会話に入ってきた。
『そ、そうなんだね。わかった』
石川さんは、そう言われて頭を掻きながら部屋を出ていった。
『ありがとうございます…本宮さん。すみません…』
私は、頭を下げた。
『朋也でいい』
『え…?』
『だから本宮さんじゃなくて、朋也でいいって言ったんだ』
え、えっ?
下の名前を呼び捨てにしろと?
『あの、でも…本宮さんは先輩だし、それに…』
私は戸惑った。
『俺が社長の息子だってことは一切考えなくていい。恭香には朋也って呼んで欲しいんだ』
ドキッとした…
心臓が小さな音を立てる。
『でも…』
そんな真剣な顔で私を見ないで…
『二人の時だけは朋也でいいから。わかったな』
わかったなって…
そんなこと急に言われても…
すぐには無理だよ…
ねえ、どうして?
何でそんな言葉を…私なんかに言うの?
『先輩!打ち合わせまだですか?待ちくたびれましたぁ~』
梨花ちゃんにそう言われて、我に返った。
『ごめん!そうだね、すぐ行くね』
私は本宮さんに頭を下げて、逃げるように梨花ちゃんのところに小走りで向かった。
本宮さんは腕組をして、少し私を見ていたけど…
すぐに夏希と打ち合わせを始めた。
なぜ私なんかを見るの?
美人でも、可愛くもない私を…
もしかして…
からかわれてるの?
だとしたら、すごく悲しい。
失恋の痛手にプラスして、先輩のイジメ…?
そんなのメンタル持たないよ。
ひとつの作品を手掛けるために、それが完成するまでチームみんな同じ部屋で一緒に過ごすんだよ。
仕事なんだから、それは当たり前のことなんだけど…
もしこれが本宮さんのイジメなら、ちょっとキツイかも。
まだまだこの企画は始まったばかりだし…
本当に今日はいろいろあった。
私は、なんとか一日の仕事をこなして就業時間を終えた。
何だかとっても疲れた気がする。
思わず深いため息をついた。
一弥先輩と菜々子先輩は…
早々と、仲良く一緒に帰っていった…
今からデートかな。
いいな、うらやましい…
一緒にご飯食べたり、お酒飲んだりするのかな?
それとも映画見たり?
いろいろ話して、お互いの気持ちを言い合ったりするんだろうな。
嫌だ…想像したくない。
『先輩お疲れ様です~明日もよろしくお願いしま~す』
『あっ、梨花ちゃん。今日はいろいろごめんね、明日また』
『は~い。また~』
梨花ちゃん、パーマあてたんだ…
肩まで伸びた髪、クルクルしてて可愛い。
笑顔もとても愛らしいし…
そんな風に屈託なく笑えるって…素敵だね。
私達コピーライター組は、結局良いアイディアが出ないままだった。
明日からまた頭をフル回転させなきゃ。
『恭香、先に帰るね。今日約束あるから』
『あ、夏希。うん、またね。お疲れ』
『バイバイ』
夏希が手を振った。
約束って…
彼氏いないみたいだから友達とかな…
夏希は、ショートカットが良く似合う本当に爽やかな女の子。
背は高くないけど、目鼻立ちがハッキリした美人。
彼氏がいないのが不思議で仕方ない。
好きな人もいないって言ってたし…
本当かな…
でも、男女関わらず友達は多いみたい。
いい子だもん、夏希は。
いろいろ助けてくれるしね。
本当に頼りになる友達だ。
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