〜斗真side〜
俺は思考を停止させ、言葉を失った。
先輩が両親を手にかけたというのが信じられなかった。
そんなことできるような人だとは思えなかったからだ。
そんな話をしている時も先輩はずーっと穏やかな表情をしていた。
斗真「先輩の家庭では、それが愛なんだから、仕方ないですよね。辛かったはずなのに、ご両親を最後まで愛していたんですね。」
本当は怖かったけど、「暴力=愛」という価値観を先輩がもう捨てていると思ったから、同情した。
太陽「君は優しいね、僕がいつも1人でいることが多い理由はね、今話したことを誰かが噂話として広めたからなんだ。誰にも言ってないのに、噂って怖いね笑」
先輩の浮かべた笑みは不気味で曇っていた。
太陽「今年入ってきた1年生の園芸部の子達も、その噂が回った途端、退部しちゃったんだ、まだ2ヶ月しか経ってないのに。」
斗真「辞めた人たちって先輩からじゃなくて噂で聞いただけですよね?噂ごときでそんな、」
太陽「噂でも、部活の先輩が人殺しなんて聞いたら辞めちゃうのも当然だよ。」
先輩は暗い空気を仕切り直すように
「さぁっ!この話はおしまい!!もっと明るい話しよ!」
と言いながら大きく手を叩いた。
たった17年間でこんなにいろんなことが起こっている人を俺は見た事がなかった。
頼むからこれからの人生は幸せになって欲しい。
太陽「斗真、好きな動物は?」
斗真「虫です。花によって近づいてくる虫は違ったりするから、それを分析するのが好きなんです。」
太陽「へーいいね、虫って綺麗だよね。小さいのに懸命に生きてる。」
斗真「、先輩は?好きな動物。」
太陽「犬かな、静かに寄り添ってくれる犬。吠えないの。」
斗真「いいですね。嫌な顔せず話聞いてくれるし。」
太陽「言葉が通じない故、笑」
斗真「はい笑」
去り際に、
太陽「元辛い者同士、支え会おうね」
先輩は穏やかで不穏な笑みを浮かべた。