高級ホテルのバーに座っていた彼は、静かにグラスを傾けながら一人の女性と会話を楽しんでいた。彼女は長い黒髪と妖艶な笑みを浮かべており、その瞳には何か秘密があるように見えた。
「運び屋の仕事に興味ない?」
彼女が突然切り出した。
「運び屋? それは何を運ぶんだ?」
彼は酔いの回った頭で曖昧に問い返す。彼女は一瞬だけ目を細めて微笑むと、小さな紙片を彼の手に押し付けた。
「それは秘密。でも、今夜だけの仕事よ。興味があるなら、部屋まで来て」
その瞬間、彼の意識は暗闇に包まれた。
目が覚めたとき、彼は高級ホテルの一室にいた。柔らかなベッドの上で、全裸の自分を確認する。頭は鈍く痛み、身体は重い。何が起きたのか、記憶が曖昧だった。
「なんだ…ここは…」
彼は手を動かし、無意識に自分の胸に触れた。そして、驚愕の表情を浮かべる。そこには、自分のものではない、柔らかく膨らんだ感触があった。慌ててベッドから飛び起き、足元に置かれた姿見に駆け寄った。鏡に映るのは、バーで会ったあの女性の姿だった。
「嘘だろ…これが…俺?」
彼は震える手で自分の体を確認した。長い黒髪、細い首、そして豊満な胸。下半身に視線を落とすと、そこにも確かに女性の身体があった。信じられない思いで鏡を見つめ続ける。
そのとき、ベッドサイドに置かれていた封筒に気づいた。彼は封を切り、中の手紙を取り出す。
「あなたが運ぶのは、この体です。日付が変わるまでに、港に停泊している船まで来なさい。そうすれば元の体に戻してあげる」
彼の心臓が激しく鼓動し始めた。彼は急いで部屋を見回し、クローゼットを開ける。そこには黒いレースの下着と、赤いドレスが吊るされていた。ためらいながらも、それを身に着ける。ドレスはぴったりと体にフィットし、鏡の中の彼は完全に美しい女性に見えた。さらに、ベッドの足元には黒いハイヒールが置かれていた。仕方なくそれを履き、ふらつく足取りで歩き出すと、胸が揺れる感覚に驚いた。
「こんな体で、どうやって…」
彼は心の中で呟きながら、部屋を出てエレベーターに向かった。ロビーを通り過ぎ、外の世界へと足を踏み出す。慣れないヒールでふらふらとしながらも、彼は何とか最寄りの駅にたどり着いた。
電車に乗り込むと、彼はすぐに周囲の視線を感じた。乗客の男性たちが、興味深げに彼の方をちらちらと見ている。自分が女性の体であることを思い出し、彼は恥ずかしさと不安でいっぱいになった。胸が揺れる感覚が気になり、腕を組んで少しでも隠そうとする。
「くそ…こんな目に遭うなんて」
駅から港へと向かう道中、彼はますます焦りを感じた。時間がない。日付が変わるまでに指定された船に乗り込まなければ、元の体に戻れないかもしれない。
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