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彼は港に着くと、目の前に停泊する巨大な豪華クルーズ船を見上げた。ライトに照らされたその船は、まるで別世界へ誘うかのように神秘的な雰囲気を漂わせている。彼は深呼吸をし、心の中で覚悟を決めた。この船に乗らなければ、自分の体に戻ることはできない。彼は階段を上がり、船の入口にたどり着いた。
重厚な木製のドアを押し開けると、彼は明るく照らされたロビーに足を踏み入れた。豪華なシャンデリアが天井から吊り下がり、赤いカーペットが足元に広がっている。彼はその場で立ち尽くし、目の前の光景に目を見張った。
ロビーには、多くの女性たちが集まっていた。しかし、彼の目には何か異様なものとして映った。女性たちの多くは、ドレスを着ているものの、その仕草や表情に違和感を感じた。彼女たちは一様に居心地悪そうにし、体をぎこちなく動かしている。中には男性っぽい服装をしている者もおり、シャツにジーンズという姿が目立っていた。また、化粧をしていない女性も多く、その顔立ちはどこか男性的であり、無造作に立ち話をしている姿には、男性のような粗野さが漂っていた。
ある女性は、ドレスの裾を引っ張りながら恥ずかしそうにしており、別の女性は腕を組んで足を広げて立っている。まるで、女性としての立ち居振る舞いをまだ習得していないかのようだった。
「まさか…」
彼は息を呑んだ。そこにいる女性たちが、自分と同じように元は男性だったのだと気づくのに、それほど時間はかからなかった。表情や仕草、立ち振る舞いの全てが、それを物語っていた。彼らもまた、何らかの理由でこの女性の体を運ぶように命じられ、ここに集められたのだろう。
彼はロビーに立ち尽くしたまま、周囲を見回していた。ある女性に目が留まった。彼女はシャツにジーンズという、ラフで男性的な服装をしている。髪も無造作にまとめてあり、明らかに他の女性たちとは一線を画している。彼女は特に居心地悪そうにすることもなく、普通に立っていた。
「そうか、服を変えるという手があったのか…」
彼は心の中で呟いた。自分がホテルの部屋で与えられた下着やドレスをそのまま身に着けてきたことが急に恥ずかしくなった。もっと早く気づいていれば、外に出る前に近くの店で服を買って、もう少し男性的な格好をすることができたはずだ。今、自分の姿がどれだけ場違いに見えるかを思い知る。
胸が揺れる感覚、足元のハイヒールの不安定さ、周囲の視線。すべてが自分を女性として扱っている。それが彼にとって耐え難い屈辱だった。
「でも…時間がなかったんだ」
彼は心の中で自分を納得させる。時計を見ると、船が出航するまであとわずかしかない。もしホテルを出る前に服を買いに行っていたら、ここに間に合わなかったかもしれない。それでは元の体に戻るチャンスを失っていただろう。仕方ない、これは自分が選んだ道だ。今はただ、元の体に戻るためにこの船に乗るしかない。
彼は深呼吸をして、もう一度周囲を見回した。さまざまなスタイルの服装をした女性たちが、自分と同じように不安な表情を浮かべているのを見て、少しだけ安心した。自分だけが特別なわけではない。他にも同じ状況に置かれた人々がいるのだ。
「とにかく、これからだ」
彼は心の中で自分に言い聞かせ、ロビーの奥にある大きな扉に向かって歩き出した。扉の向こうには何が待っているのか分からないが、彼はその先に希望を見出そうとしていた。