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「ねぇはるくんは、アッチのことには興味がないの?」
頑丈と見せかけた脆い心を鷲掴みして崩すべく、高橋は流暢に言葉を発した。
「そのことについては……ちょっとくらい、なら」
突然なされた、卑猥な質問に困ったのだろう。頬を桜色に染め、何度も目を瞬かせる。初心なその様子を高橋は心の中で嘲笑いながら、どんどん押していこうと考えた。
「そんなの普通だよ。男なんだから性欲があって当たり前だし、適度にヌかないとつらいしさ」
「はあ。そうですね」
「教えてあげようか、男同士のアレ」
高橋の誘い文句に頭が混乱したのか、美麗な青年は口を開けっ放しにして、ぽかんとした表情を浮かべる。
「や、でも……」
困惑する顔を凝視した視線をやり過ごすべく、顔を俯かせたのを確認してから、見えるように手を伸ばした。
「はるくん、手を出して」
(――次々なされるお願いに、頭がついていかないだろう。ゆえに指示に従うしかない)
首を小さく傾げながら、恐るおそる差し出してきた右手を手荒に掴まえ、両手を使って優しくそっと包み込む。こういう緩急のつけ方が、相手の心を手玉に取るテクニックとして、高橋はよく使っていた。
「とても綺麗な手をしているね」
言うなり躊躇なく、親指を口に咥えてやった。
「ちょっ!?」
突然の奇行に青年は慌てて周囲を見渡したが、奥まっている席での行為を、誰も気にする奴なんていやしない。
目の前で整った顔を歪ませる表情を上目遣いで見つめつつ、親指に柔らかい舌をねっとりと絡ませ、音を立てて吸い上げてやる。
「あっ、ぅぁあ……」
声にならない声を出し、抵抗しようとする力を抜こうと、手首の内側を感じるように撫で擦った。
「いっ石川さん、止めてください」
「これよりも気持ちのいいコト、俺なら教えてあげられるよ」
瞳を細めて低い声で告げると、青年は息を飲んであからさまに狼狽える。
「これよりもって……」
「するかしないかは、はるくん次第。どうする?」
選択権を委ねてから、青年の手を解放してあげた。慌ててそれを引っ込め、テーブルの下に隠す控えめな様子は、まるでフルコースの前菜のようだと感じた。
先ほど触れた柔らかくて、しなやかな肌を思い出し、心の中で舌なめずりをする。早くメインディッシュを食わせろと、高橋が答えを急かそうとした矢先に、青年が観念した表情を浮かべて小さく頷いた。
それを目の前でしっかりと確認してから席を立ち、恥ずかしそうに頬を染める表情を見ながら、肩にそっと腕を回してやった。
「はるくん、行こうか」
高橋に促され喫茶店を出る。途中で帰ると口にするんじゃないか、内心冷や冷やしつつ、少しだけ離れているホテルに向かった。
ホテルの部屋の鍵を開けて、青年を先に中に入れた高橋は、おどおどしているひょろっとした躰にいきなり抱きついてみた。
「ひいっ!」
妙な悲鳴を上げると、青年よりも小柄な高橋の腕を強引に振り解き、首をキョロキョロ動かして後ずさりする。大きな躰を震わせ、怯えまくるその姿が可愛らしくて、腕を掴んで逃げないようにしようとしたら。
「ごめんなさいっ、先にシャワー浴びてきます!」
近づいた高橋の躰に体当たりして、思いっきり突き飛ばし、すぐ横にある扉を開けて中に閉じこもってしまった。
「ここに来て、怖気づいてしまったということか……」
高橋としては、どれくらい緊張しているかを確かめるべく、突然抱きついただけだった。包み込んだ腕の中で、青年の体温がみるみるうちに下がり、ほどなくして小さな震えが伝わってきた。
宥めようとして手を出したら、まんまと逃亡されてしまった。青年が逃げ込んだ向かい側にも同じ扉があったので、ため息混じりに開けてみると、こじんまりとしたトイレがあった。シャワーを浴びると言って、高橋の魔の手から上手くすり抜けた、美麗な青年の勘の良さに笑うしかない。
踵を返してバスがある扉の前に立ち、ノックしてやる。
コンコン!
きっと今頃膝を抱えて、躰を震わせながら、ここに来たことを激しく後悔している最中だろう。
「は、はい?」
「ラブホテルの休憩時間は、永遠じゃないよ。さっさとしないとこの扉をぶち破って、はるくんの身体を洗いに行くかもね」
「なるべく早く済ましますっ。すみません!!」
ひどく上擦った声でなされた返事に、どうしようかと思案した。悩んでしまう理由は、上着のポケットに入っている、二種類の薬のせい。
高橋は備え付けの冷蔵庫を開けた。お茶にミネラルウォーター、サイダーとオレンジジュースの4種類があり、青年の人柄や今の精神状態を考慮して、サイダーが入ったペットボトルを手に取った。
次の瞬間、耳に聞こえてくるシャワーの水音だけで、高橋の下半身が熱を持つ。バスの扉を壊して中に入り、手を出したくなる気持ちを抑えるべく、テーブルの前にある椅子に腰かける。別なことを考え、卑猥な気持ちを取り除くべく、目の前に集中した。
黙っていても、青年の躰を弄ぶことができるんだから――。