校門の前からにぎやかな音楽と声があふれていた。三年生最後の文化祭。晴れ渡る秋空の下、陽たちのクラスのカフェには朝から行列ができていた。
「いらっしゃいませー!」
エプロン姿で声を張る澪は、笑顔を絶やさず接客に立ち回っていた。その様子を見ながら、陽は心の中でつぶやく。
(……なんか、遠いな)
最近、澪と目が合うたびにぎこちなくなってしまう自分がいた。受験のこと、片桐のこと、気にしすぎだと分かっていても。
「ねぇ陽、仕事代わってくれる?」
花が声をかけてきた。陽はハッとして、「あ、うん」と頷いた。花は少し笑って、「無理しないでね」と軽く手を振った。
午後になり、各教室を自由に回れる時間。陽はひとり廊下を歩いていたが、視線の先に見覚えのある背中を見つけて足を止めた。
——片桐悠真。
陽の隣のクラスのイケメンで、最近なぜか澪とよく話しているらしい。
「澪ちゃん、ステージのあとちょっと時間ある?」
片桐が気さくな声で話しかけている。その手には、2人分のドリンクが。
陽は思わず目をそらした。
どうしてそんなに気になるのか、自分でもよくわからない。けれど胸の奥がざわついていた。
一方、教室裏のベンチに腰かけていた柚葉は、友達に勧められて来たという演劇を見た帰りだった。
「文化祭って、思ったより楽しいかも」
ポツリと呟いたその時、偶然通りかかった迅が声をかけてきた。
「楽しんでるじゃん。柚葉ちゃん、来年は中心になって準備しないとだよ?」
「え、やだ。裏方がいいです……」
「その割にはずっと笑ってたけど?」
不意に図星を突かれて、柚葉は照れたように笑う。
気づけば、陽に向いていた視線が少しだけ、隣に立つ迅の方へと揺れていた——。