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◇
騒動のあった後日、シレントはひとりで聖デウス図書館にきていた。
教会のように厳かな雰囲気ある図書館の中は静寂に満ちていて、聞こえてくるのは紙の擦れる音か、誰かが歩く靴音だけ。訪れるのはこれからの自分たちの未来のために、多くを学ぼうとしている勤勉な若者たちが中心で、シレントは彼らを羨ましいと思う。若くして都会で暮らしていれば、こんな道もあったのだろうかと。
それは心の隅に置き、目的の本を探す。受付で聞いて、管理されている番号の振られたエリアの本棚から歴史書──五百年前に起きた聖魔大戦に関連する書物を何冊か見つけて、広いテーブルに積み上げて読み漁った。
(……見つからないな)
書物の中に記された魔族たちの名前がないかをくまなく調べていく。
肝心な名前は見つからず、戦争の内容さえ曖昧なものばかりだ。
「やっぱり五百年前の歴史となると厳しいかなぁ……」
廃都インサニアで見た吸血鬼のゼロは、あまりにも強大だ。その振る舞い、インサニア全体へ響かせる圧力ひとつで、ヴォリーダを従わせていると考えたとき、そのどちらも倒す労力は、果たしてどれだけの人数を犠牲にするものだろうか。
想像したくもない、とシレントはため息をつく。
「ンだよ、どこに出かけたかと思ったら図書館かぁ?」
「あ、レアナ。どうして此処に……」
「ばーか。昨日の今日でウロウロしてっから心配だっただけだよ」
肩をぶち抜かれた後のシレントは、傷まで癒してもらったとはいえ疲労は残っていて、帰ってくるなり翌朝まで眠り続けた。にも拘わらず、けろっとした様子で出かけてくるなどと言うものだから、レアナは心配で様子を見に来たのだ。
「あのルルとかいう女から色々聞いたんだが、また魔族に襲撃を受けたって? それも二体とくりゃあ、生き残ってる方が奇跡みたいなもんだ」
「……そうだね。ごめん、何も言わなくて」
目の前で握り潰された白金級の冒険者を思い出す。
どれほどの時間を費やして、その地位に辿り着いたのかは知らないが、少なくとも人並み以上の研鑽を積んで名が知れ渡る実力者になる。それがいとも容易く死んだとなれば、そもそも魔族が一体であっても生還は奇跡だ。シレントはレアナに言われて自分のいた状況がいかに狂っていたかを理解する。
「ただ、急いで調べたかったんだ。魔族のこと」
「ゼロとかってえ魔物を殺すために?」
「それもあるけど……彼女からは敵意を感じなかったんだよ」
敵だと言えば違ったのか。それとも、端から敵として見られていたか。あるいは他の兄弟に任せておけばいいとやる気がなかったか。いずれにせよ、ゼロは最初から戦意がなく、会話も成立した。
「そもそも人類を敵視してなかったら、多くの人間の犠牲を生まずに済むんじゃないかと思ったんだ。それで、彼らを止める手段だけでも欲しくて」
「あの海の遺跡で会った奴はそうじゃなかったろ」
「まぁ、それはそうなんだけどさ……」
海の遺跡にいた魔族、ドルクトスは会話こそ成り立つものの、その身を包む濃霧のような怨嗟が対話を阻んでいた。比べて廃都インサニアで出会ったゼロ、そしてヴォリーダは桁違いの強さからか、対話に余裕があった。
憎しみなどでは動いていない。シレントは少しだけ希望を持ったのだ。
「もし共存できるなら、その方が良いと思わないか」
「私は知らねえよ、会ってないからさ。行ってみるか?」
気楽に言うレアナに、シレントが肩を落とす。
「悪くはないけど、敵対したらその瞬間から殺し合いだ。万全でもなければ、僕たちには戦力が足りない。たった数人でどうにかできない」
「おお、そのことなんだけどよ」
シレントの隣に座って肘を突き、レアナが嬉しそうに言った。
「お前の友達が入りたいってさ。ルルって奴!」
「そうか。よかった、来てくれたんだね」
「誘ったんだってな。あの生意気な奴、死んだって?」
嫌いといえども他人の死を嘲ったりはしない。レアナも流石に、そんな死に方をするほどだっただろうか、と気の毒に思っていた。
だがシレントはどちらかと言えば、そう思うタイプだ。死んだことは可哀想だと思っても、それを気の毒だとは感じない。自業自得だと憤りさえした。
「ディルは仲間を見捨てて逃げようとしたんだ。挙句、傷を治してやったら成果が急に惜しくなったんだろう。相手を見誤ったなら仕方ないさ」
「そういうもんかねぇ……。ま、別に私も悲しいとは思わねえが」
レアナは立ち上がって、本を一冊手に取った。
「とりあえず何冊か借りて帰ろうぜ。私も魔族のことは気になってるし、全部読んだわけじゃないんだろ。皆で手分けして調べねえか?」
家にルルも待たせている、とレアナは言った。
仲間に入れるにしてもクローディアが医者のところで経過を伝えに行っているので、帰ってくるまではルルを手放しで迎え入れるわけにはいかなかった。
「……でもよ、ありゃ本当に銀級か?」
「パーティ全体に引っ張られればそうなる。ディルとシャーロットは個人でも銀級の腕があるから、ルルも自然と階級があがってしまったんだろうね」
借りる本を決めて積み上げ、シレントとレアナで分けて抱えた。
「彼女、気に病んだり思い詰めたりしなかったかい?」
「むしろ気合ばっちりって感じだ。どうせしばらくは私らも出られないんだ、ちょっとくらい鍛えてやりゃあ、中級魔法くらいは使えるだろ」
三人とも、ダンジョンに繰り出している場合ではない。二人は怪我の影響を鑑みての経過観察。一人は武器の破損により、探索不可能。
となればできることは決まっている。ルルの実力が足りないのであれば、鍛えてやればいい。ちょうどその時間を埋めるくらい、三人は暇を持て余した。
「そうだねえ。僕も良い考えだと思う」
「おう。じゃあさっさと帰ろうぜ、あんまり待たせるのも悪いしな」
コメント
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おおお、第22話読んだよ〜!!📚✨ シレントが図書館で歴史を調べてるところ、なんか切なくて胸がギュッてなった……「若くして都会で暮らしていれば」って思うシーン、過去を引きずってる感じが伝わってきて切ない😢 でもレアナが心配して追いかけてくるところ、めっちゃいいコンビだなって思った!「ばーか」って言いながら来てくれるの、信頼関係感じる〜♡ そしてゼロに敵意がなかったって希望を持ってるシレントの言葉、すごく響いた……「共存できるなら」っていう考え方、素敵だよ!!😭💕 最後のルル迎え入れる流れも、仲間増えてにぎやかになりそうでワクワクするね!次回も楽しみにしてるよ〜🌸
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大正
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*‥・うらら°🌱🐇☁・‥*
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耀聖(ようせい)
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