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まなこ〜友
117
#ますしき
T
5,800
私は今、猛烈に怒っている。
理由はもちろん、奴との一夜の過ちのあとに交わした、あの会話だ。
あの男は「いつ手を出すか」という発言をしていた。
最初から、私とこうなることを狙っていたのだ。
私がいい友達に戻れそうだと思っていたことを知っていながら、それを嘲笑うように、あの男は私に手を出した。
大前提として、私にも非があることはわかっている。
それでも、怒らずにはいられなかった。
クズは死ななきゃ治らない。
できることなら、この手で奴の頭にレンガを投げつけてやりたいなんて、そんな物騒な考えが、頭をよぎる。
オフィスでそんなことを考えながら仕事をしているせいか、キーボードを打つ指が、いつもより強い。
エンターキーを押すたびに、何度隣のデスクの人の身体をビクッと揺らしたかなんて、もう数えきれない。
(本当、ムカつく)
別に、ワンナイトがどうこうという話でもない。
お互い酒に酷く酔っていただけなら「お互いに気をつけよう」で終われた話だ。
けれど、そこに計画があったとなれば、話は別だった。
私の危機管理能力が|杜撰《ずさん》すぎたこと、私が悪いというのも理解している。
簡単に男を家に上げるべきではなかったことも、上がるべきでなかったことも、普段ならもっと警戒できたはずなのに、どうしてあんなに危険な男の前で、私はあんなにも無防備だったのか。
そこだけは本当に恥じるべきで、きちんと反省しなければならない、とそう、思った。
脳みそが下半身についているようなクソ男のせいで、玲くんに会えなくなってしまった。
あのバーに行けば、クズにも必然的に会わなくてはならない。
私の唯一のオアシスを、あの男はそれさえも壊していった。
キーボードをカタカタと叩いていると、デスクに置いていたスマートフォンの画面が、ふっと光った。
«昨夜、大丈夫だった?»
玲くんは昨夜、忠告してくれていたし、きっとずっと心配してくれていたのだと思う。私は玲くんの話も聞かずに、結局こんな状況になっているというのに、それでも連絡をくれるなんて、本当に、優しい人だ。
(ああ、玲くんに会いたい)
そう願っても、今だけは会いに行けない。
かといって、雅があのお店を辞めることもないだろう。
このままだと、私は一生、玲くんに会えない気がした。
«大丈夫! またお酒飲みに行くね»
そう返事をしたものの、あいつのせいで私が我慢しなければならないことに、じわじわと腹が立ってくる。
どうにかならないかと考えているうちに、ふと、名案が浮かんだ。
あの男にだって、休みはあるはずだ。
そこを狙って会いに行けばいい。
«ちなみに雅が出勤しない日ある?»
雅と話す時間も、作ってくれるお酒も好きだったから、そこだけは本当に残念だけれど、今は、私がこれ以上、手を黒く染めないためにも、距離を置くことが最善だと思った。
今、会ってしまったら……
──────間違いなく、手が出る。
⏲
数週間後、玲くんから雅が出勤していない日の連絡をもらい、その日に合わせてバーへ向かった。
いつも通り、茶色の重たいドアを押す。ベルの音を鳴らし、入口で一度立ち止まってからカウンターの中を見渡すと、玲くん以外の従業員の姿があった。そこに雅らしき人影は、ない。
それを確認して、ほっと息をついてから玲くんの方を見る。けれど、彼はどこか申し訳なさそうな表情をしていた。
「久しぶり……?」
そう声をかけると、状況が読めないまま首を傾げる。
「夏帆ちゃん、遅かった……、ごめん」
玲くんの目の前、カウンター席に視線を落とした瞬間だった。よく見慣れた男が、煙草を指に挟みながら、こちらを見ている。
会いたくなくて、わざわざ奴が出勤しない日を選んだはずなのに…、どうして、この男がいる。
「よっ」
「……帰る」
「待て待て待て。来て、飲まずに帰るのはマナー違反じゃねぇの?」
「あら。酒に酔った女の家に押しかけて抱くのは、マナー違反じゃなくて?」
「自分を恨めよ。俺が100悪いわけじゃねぇだろ」
こいつが絶対に八割はこの男が悪いくせに、ド正論をぶつけてくるのがまた腹立たしい。
どうにかして、こいつと寝たという黒歴史だけを、お互いの記憶から抹消できないものかと、そんなことまで考えてしまう。
「せめて、こいつを殺して亡き者にできれば……」
「自分で、とんでもねぇこと言ってる自覚ある?」
今だけは、この男を刺しても罪に問われない法律が欲しい。
コメント
1件
もう雅くんのクズっぷりエグすぎない!?!?😭💢 わざわざ出勤しない日狙って行ったのに「よっ」って待ってるとか完全に計算じゃん…! でも主人公の「♡♡♡て亡き者にしたい」発言、めっちゃわかる〜〜〜!怒りMAXなのにどこかコミカルで、思わず笑っちゃった😂 玲くんの優しさとのギャップがまた心に沁みる…次どうなるの!?