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#溺愛
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【フィルモア城・大聖堂】
――ピキ……ピキピキッ。
静寂に包まれた大聖堂に、不穏な亀裂の音が響き渡る。
匠と華奈が以前手を合わせた、神聖なるサーペントの石像。
大悪魔ルシファーを封じるために造られたその像は、ゴッドフリーによって封印を解かれ、今まさに役目を終えようとしていた。
次の瞬間――。
眩い閃光と共に、凄まじい邪気が爆発する。
「ククク、これで我は完全復活したぞ」
サーペントの像は砂塵となって崩れ去り、その中心から大悪魔ルシファーが姿を現した。
漆黒の翼を広げ、赤髪を揺らすその男は、かつて神界を追放され悪魔へと堕ちた存在――ルシファー。
「な、なんだこの圧は……っ!?」
全身を押し潰すような覇気に、ウィラードが顔色を変えた――。
「こいつが……! 私を消し去った大悪魔ルシファーよ!」
大聖堂へ駆け込んできた匠たちは、完全復活を遂げたルシファーと対峙する。
互いを気にする猶予など一瞬たりとも与えられなかった。
ルシファーの放つ圧倒的な殺気に、即座に死闘の火蓋が切って落とされる――。
「全員、構えろ!」
匠は身を乗り出し、一閃を繰り出そうと踏み込む。
だが――。
パキィィィン!
「なっ!?」
匠の切っ先は見えない壁に阻まれ、弾き返された。
ルシファーの周囲には、不可視かつ絶対的な強度を誇る結界が張り巡らされていた。
かすり傷ひとつ負わせることができない――。
「フハハハ! 愚かな虫ケラどもが!」
高笑いを上げるルシファーに対し、ここで怯めば全員の命はない。
覚悟を決めた匠は構え直す。
「ならば、結界を超えてやる!」
――出雲神速剣・七の形『空う《くう》』
大気を切り裂き、青く鋭い衝撃波が、ルシファーへ肉薄する。
――だが、いつの間にかルシファーの手には、黒く禍々しい妖気を纏う剣が握られていた。
バシィ!
匠が放った青い衝撃波は、一瞬で霧散した。
「ほっほう。中々やるではないか。これを受けて見よ」
黒剣が一閃した。切っ先から紫電が奔る――。
「リフレクション!」
戦いを見守っていた華奈が反射魔法を展開した。
ビィィィン――。
稲妻は反射障壁に弾かれ、大きく軌道を逸れて床へと突き刺さる。
だが――。
「ヘルファイヤ!」
稲妻が逸れることすら計算済みだった。
ルシファーは左手を掲げ、上級火魔法を放った――。
「ぐわぁぁ!」
後方の近衛騎士たちから悲鳴が上がる。
迫り来る業火を騎士たちは盾で防ぐ。
しかし――圧倒的な熱量を前になすすべが無かった。
「エリアヒール!」
莫大な魔力を持つ華奈は瞬時に広域治癒魔法を繰り出し、騎士達の傷をいやす。
(この展開……あの時と同じ……持久戦になれば詰む……)
マハー・カーリンは二千年前の戦いを思い出していた――。
ルシファーの圧倒的な魔力と剣技、それと頑丈な結界に苦戦した苦い思い出があったのだ。
『だれか……誰でもいい、応答して! 大聖堂でルシファーが――』
格上の匠は決め手に欠け、華奈は援護に追われ、近衛騎士たちは防戦一方。
このままでは全滅する――。
そう悟ったマハー・カーリンは、ありったけの魔力を込め、各方面へ広域念話を放った。
※※※※※
【魔王城・レオンの私室】
その頃――。
「マハー・カーリンから念話……ルシファーが復活しただと?」
届いた思念を受け、レオンの目が鋭く見開かれる。
それだけならまだ良かった。
——復活したのが大悪魔ルシファーである以上、事態は最悪だった。
その時――空間がゆらりと揺らぎ、白銀の光が収束する。
「レオン。事は急を要す。お前が出向き騒動を収めよ。人間どもだけでは勝てん」
絶対神サーペントが静かに姿を現した。
「嗚呼、分かっているさ」
レオンは不敵に笑う。
「頼んだぞ。我が自ら人界へ干渉するのは理に反する」
「やれやれ……結局、俺の出番か」
空間が歪み、レオンの姿は魔王城から消えた――。
※※※※※
【フィルモア城・大聖堂】
救援を待つ一瞬が、永遠のように長く感じられた。
「早く早く」
その時だった。
――ズズ……ッ。
大聖堂の空間が大きく歪み、亀裂が生じる。
「これはまずい状況だな……」
空間を切り裂いて現れたのは、溢れんばかりの威圧感を纏った魔王レオンだった。
レオンは状況を一瞬で見抜き、不敵な笑みを浮かべてマハー・カーリンを見下ろした。
「魔王レオン!早く助太刀致せ!」
「おい、何を呆けている。お前でなければ、あの結界は破れん。二千年前の雪辱を晴らすなら――今しかない」
その一言に、マハー・カーリンの瞳が大きく揺れた。
二千年前のあの日、結界を破れず、多くの仲間を死なせ自分も消滅をした。
だから同じ後悔だけは、二度と繰り返さない。
彼女は静かに大剣を握り直す。
「……ようやく、この時が来たのね。今度は躊躇しないわ」
決意を宿した瞳でルシファーを見据え、力強く翼を広げた。
「匠、奴の意識を引き付けろ。結界はあいつが砕く」
「ああ、聞いていた。任せて貰おう」
ズバァァァーー
匠は『空』を連続で放ち、強烈な衝撃波でルシファーの注意を引きつける。
「無駄無駄無駄!」
匠が命がけで足止めをし、ルシファーの意識を引きつけている隙に、マハー・カーリンは宙へと跳躍した――。
魔剣終式――『命断』
自らの魂を代償とし、神聖の力を呼び起こし、敵を断つ最終奥義——。
ダン!
大きく踏み込んだマハー・カーリン。
ルシファーに向け一直線に飛んで行った!
バリィーン!
ルシファーの身体を覆っていた漆黒の膜が揺らぎ、霧のように消えていく。
「ありがとう……今度こそ世界を頼む」
ドサリ——。
「くそ忌々しい女神め!チッ……もう一度張るだけの魔力が足りぬか」
結界が破られ、苦味走った顔のルシファー。
自らの命を捧げ、力尽きたマハー・カーリンの亡骸を踏み付けようとした。
「させない!突!」
「グハァ!・・だが」
(結界を張るには、魔力がたらない、生娘さえいれば――)
ルシファーの魔力は膨大だが、結界を再構築するには足らない。
となれば、直接戦うしかなかった。
「奴に攻撃が通る!華奈行くぞ!」
「ふん、甘いなホーリーランス!」
「ガフゥ」
メアリーが繰り出したランスとは桁違いだ。数十本の光の槍が匠を襲う!
ビィィィィン!
「散切り!」
剣では歯が立たない事を知る華奈は、魔法剣を繰り出し、叩き切る。
「ヘルファイヤー!」
「グワァァー」
華奈の魔法剣を脅威と感じ、足止めの為に、ルシファーは控える近衛に攻撃を浴びせる。
「華奈、ここは任せて!」
「メアリー、危ない、逃げて!」
「私がお守りします!」
ラインハルトに守られたメアリーが現れる。
騒ぎを聞きつけ、援護に来たのだが、この戦場では危険すぎる――。
「ほう、生娘がいるではないか、これで我が魔力を補充できる」
「メアリー、危ない!」
ズバァァァ――
「ガフゥ――」
「ラルト!」
数十本の超高速のホーリーランスがラインハルトの全身をを貫く――。
「君……さえ無事……ならそれで――」
「ラルトー!死んじゃいやー!」
ラインハルトの身体から力が抜け、その瞳は静かに閉じられた。
「待たせたのう、ここはわしが面倒みる」
「パパ・ヤーガ!」
次にパパ・ヤーガが現れる。だが、魔道服が煤汚れていた。
間違いなく城外で戦闘があったのだろう。
一瞬で判断した匠は、遅いと文句を言わなかった。
「これで心置きなく戦えるわね」
「ククク、もう勝ったつもりですが、笑止!」
グラビティ――《ヘイトシーカー》
「グッ!ガハァ!」
「華奈!!」
無数の光矢が華奈の身体を貫いた。
匠は反射的に駆け出す。
しかし華奈は血を流しながら静かに首を振った。
「……来ちゃ、駄目」
首を横に振った華奈は、魔法剣を握り締め、匠に向かって頷く。
コメント
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いやー、第89話ヤバかったわ!ルシファー復活からの展開が一気に加速して、マハー・カーリンの決死の「命断」とか、ラインハルトの自己犠牲とか、めっちゃ熱いシーンの連続で泣きそうになった。華奈が負傷するところも胸が痛かったけど、そこからのパパ・ヤーガ登場でまた空気が変わった感じがする。続きが気になりすぎる🔥