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――鈴木陽翔の視点――
「やっぱり、拓海ってすげーな。ああいう時でも笑えるんだもん」
そうつぶやいたのは、放課後の帰り道。隣には、付き合い始めたばかりの美咲がいた。
けど、オレの心はなんだかモヤモヤしていた。
佐藤拓海――オレの親友で、一番信頼してるヤツ。中学からの付き合いで、バカみたいなことで喧嘩して、笑って、また仲直りしてきた。
そんな拓海が、「おめでとう」って笑ったとき。なんか、違和感があった。
本当に喜んでたか? いや、あれは――。
「……拓海って、美咲のこと、どう思ってたのかな」
美咲がオレの顔を見上げる。風がふわっと彼女の髪をなびかせた。
「え、なんで?」
「いや、なんとなく……。中学のときも、よく一緒にいたじゃん?」
「それは、ただの幼馴染だって」
美咲は笑って言うけど、オレは正直、気づいてた。
拓海が美咲を見る目。あれは“親友の彼女”じゃない。もっと深い、もっと苦しいものだった気がする。
オレはたぶん――奪ったんだ、拓海の大切なものを。
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それでも、美咲のことが好きだ。
笑う顔も、まっすぐな目も、時々子どもっぽくて頑固なところも。全部。
最初は意識なんてしてなかった。クラスで話してて、気づいたら隣にいて、自然と会話が増えていって、笑い合って、気づいたら……好きになってた。
「好き」って気持ちは止められなかった。
告白したとき、美咲はちょっと驚いてたけど、それでも嬉しそうにうなずいてくれた。
でも、その瞬間から、拓海の顔が頭をよぎった。
「……オレ、最低かもしれないな」
自分で自分に呟いた。
拓海がどう思ってるか、本人は何も言わない。だからこそ余計に、引っかかる。
オレの中で、恋と友情がぶつかり合ってた。
「ねぇ、陽翔」
不意に、美咲が立ち止まる。
「ありがとう。好きになってくれて」
その言葉に、心が少しだけ軽くなった。
美咲は本当に、まっすぐだ。誰にでも優しくて、でも鈍感で、真っ直ぐで。
だからこそ、ちゃんと守りたいって思った。
「オレ、絶対に後悔させないから」
強がりでもなんでもない。本気でそう思った。
でも――
その裏で、別の視線に気づかないふりをした。
それは、美咲のクラスメイト――高橋優菜の視線だった。
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次の日の昼休み、屋上に行こうと階段を登っていたら、後ろから呼び止められた。
「陽翔くん」
振り返ると、そこには優菜が立っていた。
いつも明るくて、友達に囲まれて笑ってるイメージなのに、今は少しだけ緊張した表情。
「ちょっとだけ、話してもいい?」
陽翔の心に、また新しい違和感が生まれた。
次の恋の波が――静かに、でも確実に迫っていることを、まだ誰も知らなかった。