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可愛い女子高生たちは遠慮する様子もなく義弟の腕や背をベタベタ触っている。
「これはこれは、行……ユッキーはどうやらナメられているようですねぇ…………あれ?」
ズシリ──。
突然。石でも飲んだかのように、胃に重いモノが。
「アレアレ?」
胸を押さえ、ゆっくりと擦ってみる。
「……そういや、お腹がへってるかな」
己を納得させるかのようにそう呟くも、自身の目元が引きつっているのが分かった。
女の子たちに囲まれた行人が向こうをむいていて、その表情が見えないことが妙に気にかかる。
一瞬うつむき義弟の方を見ないようにしてから、思い切って顔をあげる。
その瞬間、星歌は店の隅に自分と同じ表情を見つけ驚愕した。
濡れたような視線。
睫毛を震わせ、半眼をとじて。
その視線は行人の後頭部に注がれているではないか。
潤んだ瞳、頬は花びらのように色づいていて、すぼめられた口元は切なさをかもしだしている。
その表情に、星歌の重い胃はピクリと痙攣した。
直感。
──この子、行人のことを?
そう悟った瞬間、濡れた目がパチパチとまたたき、こちらに向けられた。
スラリと背の高い身体にはみんなと同じ白いセーターとプリーツスカートをまとっており、生徒のひとりであることはうかがえる。
その薄茶の長い髪には見覚えがあった。
「あっ!」
星歌が何か言うより先に彼女の口が開かれた。
意外と明るい声。
その声は星歌には聞き覚えがあるものであった。
「さ、さっきはごめんなさい」
身を縮めるようにして俯いたのは、朝方、店の横ですっ転んでいた女子高生だ。
よく見ればスカートの尻のところが土に汚れている。
なんとなく朝とは雰囲気が違って見えたのは、彼女の表情が幾分沈んだように見えるからだろうか。
みんなと一緒に行人に絡むこともせず、所在なさげにひとりで立っているのも気にかかった。
「い、いや、そんな……そっちこそ、いやこっちこそ……ウグッ」
さっきはごめんなさいと言われた翔太が「ウグッ」と唸って、肘で星歌の脇腹をつつく。
保護者から訴えられるかも、なんて心配していたくらいだから、彼女にどのように返事をしたものか困惑しているのかもしれない。
結局、戸惑いからくる翔太の攻撃の矛先は新参バイトに向いたようだった。
「い、いいかげんにしろよな。お前んとこの生徒、パンも買わずに大勢でいすわられちゃ迷惑なんだよ」
「わ、私の生徒じゃないし。私は関係ないし」
唇を尖らせる星歌。
しかし、もっともな理屈だ。
新装開店の狭いパン屋。
その店内で、しかも昼時に客でもない者が居座っては営業妨害と言われても仕方がない。
奥の調理スペースに通じる扉。小さく付いた窓からも、モノホン王子が心配そうにこちらを見ているではないか。
だからと言って、両手をパンパン叩いて「買わないんなら出てってちょうだい」と仕切る勇気も、星歌にはない。
要は若くて元気なJK──しかも集団──が怖いのである。
だから、彼女はズルイことを考えた。
「ねえ、大丈夫? ホッペが赤いよ?」
「えっ?」